12 自分にできること
異世界物です。
ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。
第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
夜になり、私は負傷者の部屋近くにあるカール先生の部屋に行ってみた。
マーサとカール先生が薬を作っていたので、私とユーリも参加して手伝う。
「明日は湖の方にヴェーダ草を取りに行ってきます」
私はカール先生に言った。
「それはいいですね。
体力や免疫力を高める作用がありますから!」
カール先生が頷いてくれる。
「ヴェーダ草をどうするのですか?」
マーサが興味深げに聞いてくる。
「「ヴェーダ草は……」」
私とカール先生の声が重なり、お互いに黙ってしまった。
「先生どうぞ」
私は先生に続けて言ってくれるよう促した。
先生は頷いて話し出す。
「ヴェーダ草は全部が薬として使えます。
根は刻んで料理に使えますし、葉も料理に使えますし、乾燥させて煎じてお茶のようにも飲めます。
特に花は効果が高く、乾燥させて粉末にして、粉状の物を蜂蜜で練って舐めるとのどの痛みを抑えたり、咳止めの効果などがあります」
「すごい薬草なんですね」
マーサが感心している。
「姫様は大丈夫ですか?
なにか、心の中に消化不良というか、溜まっているものがあれば、話をして吐き出すことも必要ですよ。
私で良ければ、話を聞きますが……」
カール先生に言われて、目を伏せた。
確かに、いろいろ消化不良というか。
たくさんのことがありすぎて、父の死すらまだ納得できていない。
新旧のバルカニア両方に思うところはあるし、レイクールとアーサーの真実も気になる。
そして、自分は父に後を託された気持ちが強いのに、実際はバハ大臣に全てお任せ状態で、できることは少ない……。
そして、何もしていないふっとした瞬間、あの戦場に引き戻されるような変な高揚感と恐怖感を感じる。
でも、それを吐き出すには……。
カール先生にではないし……、特に誰とも思い浮かばない。
「まあ、何かしていると、人のために動いていると気が紛れることもありますね。
無理はしないように」
私は頷いた。
そこへノックの音が響きアニエスが入ってきた。
「カール先生、ジェイが熱が高くなってきています。
今、リーナが付き添ってくれています」
「わかりました。
今行きます」
カール先生がマーサに頷くと、マーサが鍋の所に行き、コップに液体を注いだ。
「熱冷ましです」
「マーサ、君が持って来てくれないか?
アニエス様、少し休んで下さい。
ルティ様もいますし、お話をあるでしょう」
マーサとカール先生が慌ただしく出て行った。
「ルティ……、お父様に会ったんだって」
「うん、会ってきた。
でも、その時は亡くなったことを思い知れたんだけど、なんか気持ちがふわふわして、まだ信じられない気持ちになってる……」
「そうね。
本当に信じられない。
でも、今が真実だもんね。
第3皇子と一緒に過ごしているって……」
「ああ、私が帝国の兵と傭兵と戦って、殺しているからね……。
あの戦いはもうおしまいと言われても、憎まれたり恨まれたりしていることはあるから……。
警護してくれてるみたいだよ。
早く落ち着いて、帝国へ人質に送られればそんなこともなくなるよ思うよ」
「そう、人質のことだけど、私には婚約者がいなくなった……。
条件は一緒よ。
どちらが選ばれるかは帝国の第2皇子が選ぶことになるでしょう」
「そうか、でも……。
お母様はどう?
バルカニアの親族に続き、お父様も亡くして……。
私がそばにいるより、アニエスがそばにいる方が落ち着くと思うから……」
「そう思う?」
「うん、そう思う」
「……明日の午後、父に会いに行こうと思うの。
お母様も午後なら、起きられると思うの。
一緒に行ってくれる?」
「うん、薬草を取りに行く予定を午前にできれば、午後は大丈夫。
午後だね。
わかった」
「ありがとう。ルティ」
私は立ち上がった。
「じゃあ、薬草の採取の時間を午前にしてもらえるように話してから自室に戻る。
アニエスも無理しないでね。
おやすみなさい」
私が部屋を後にしようとユーリとドアの方へ向かうと「ルティ」と呼び止められた。
「あなたは……、オルトが好きなの?」
「……好きと言うか、兄弟や友達のように思っている」
「そう、そうなんだ。
わかったわ」
「うん、おやすみなさい」
ドアを出てユーリと第3皇子を探しに行く。
とりあえずあんまりふらふらしない方がいいかなとバハ大臣達がいる部屋に行くと、第2皇子も第3皇子もいた。
「姫様!」
バハ大臣が驚いたように迎えてくれる。
「ごめん、遅くに。
えっとダート!
明日の湖への薬草採取。
午前中にしてもらえる?
午後、母と姉と、父の廟を訪ねる約束をしたから……」
ダートがリュートと何か会話してからこちらにやって来た。
「わかった。
朝、出かけよう。
部屋に戻るなら送る」
「ありがとうございます」
私はバハ大臣とリュートにも聞こえるようにお礼を言った。
そして「おやすみなさい」と礼をして、部屋の外に出た。
ダートが右手を差し出し「つかまれ」と言った。
「大丈夫だよ」
私は笑うが「暗いから」と言われて手を取った。
引き寄せられて、腕に掴まるように誘導される。
うーん、ダートは素っ気ないけどやさしいよな。
そう考えてから、もし戦場で出会っていたらと急に思ってしまい、血の気が引いた。
そうなんだ。
そういうことなんだ。
部屋についてお礼を言おうと向かい合った時に私の顔色が悪かったんだろう。
「どうした?」
ダートが驚いたように言った。
「……ごめん。
戦場のこと思い出して……」
ユーリと部屋の前の兵がドアを開けてくれて、私はダートに付き添われて部屋に入った。
「ありがとうございます。
もう大丈夫。
明日、薬草取り、よろしくお願いします」
「……寝るまでいるよ」
「いえ!
大丈夫ですから!」
慌てて言うがそんなのお構いなしで、ユーリに「ルティの寝る仕度を」と言う。
ユーリも戸惑いながら「準備ができたらお呼びしますから」とダートを一度ドアの外に出してため息をついた。
「ずいぶん気に入られてるみたいですけど……」
結局、着替えて寝る仕度をしてから、私だけベッドに入りユーリがダートを招き入れた。
なんだこれ?
ダートがベッドのそばに椅子を持って来て、そこに座る。
「本当に寝るまでそこにいるの?」
子どもみたいなことを言ってしまった。
「ああ、寝るまでそばにいる。
………ルティは今回が初めての戦だったのだろう。
人と斬り合いをして命のやり取りをして……。
俺は初めての時、しばらくゆっくりと寝ることができなかったから」
「どうやって乗り越えたの?」
「時間はかかったけれど……。
そのうちに寝られるようになった。
というか、その後は定期的に戦場に出ることになって、慣れたかな」
「そうか……。
ひとりで静かにしていると次から次にあの場所のあの時を思い出したり、ふとした時に怖いことを考えてしまったり……する」
「怖いこと?」
「さっき、ダートが手を差し出してくれた後……。
ダートは優しいと思った……、でも、これが戦場で敵として出会っていたら、そんなことも知らずに殺し合うことに……。
そう考えたら、とても怖くなった……」
「それで、顔色が悪くなってたのか……」
私はダートの方に身体を反転させた。
ダートが手を伸ばして私の手を握ってくれた。
なんだかほっとした。
なんでだ?
「さっきのお返し」
ダートが微笑んだ。
あ、抱きしめたことか?!
「ダートのお母さんは?
もしかして小さい頃に別れたとか?」
「……うん、3歳の時に母を亡くしている。
だから、ほとんど人にあまえた記憶がなくて……。
さっきは本当に羨ましくなって……」
「そうなんだ……。
私もね、母には抱きしめられたことがないよ。
でも乳母がいてね。
さっきのオルトの母のアリアが私の乳母なの。
さっき会ったよね。
だから乳母のアリアが私の母みたいなもので……。
私が悲しい時、泣きたい時、ああ、あまえたい時もあったかな。
ああやって、ぎゅーってしてくれてさ。
だから、私もそういう人がいると抱きしめようって、思うのかも」
「そうか、良かったな……」
アリアの話をしていたら、なんだか幸せな気持ちになってきた。
「また、ダートのことも抱きしめるよ」
「そうか、ありがとな」
「うん」
「寝られそうか?」
「うん。
ありがとう。
ダートの手も温かいね。
なんだか安心する。
ダートは強いからかな……」
「俺が強い?
どうしてそう思うの?」
「だって、あの盾、すごく重かった。
私が潰れちゃうくらい……。
あんなのいつも持ってて、ひょいと投げるなんて強くないとできないよ……」
ダートが少し乾いたような笑い方をした。
「そうか、安心してもらえるなら、今まで頑張ってきて良かったかな」
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




