118 ザクロンへ!
異世界物です。転生や魔法はありません。
第14章ミリア視点で話が進んでいます。
話が長くなってきていますが、これからもお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
第1皇子殿下が出迎えてくれて、そのそばにいる文官を見てぎょっとする。
ラクシュの時にもいたおじさんの文官じゃん?!
ダートが紹介してくれるので私は特に何も言わずに礼をした。
おじさん文官の名前はカーティスというのだそう。
知らなかった。
まあ、あの時は知ろうともしなかったけどね。
殿下がふたりで呼びにくい。
というわけで、ジークフリート様のことはジーク様と呼ばせていただけることになる。
「ミリアは義妹になるわけだから特別に呼び捨てでもいいぞ」と言われるが……。
「いえ、様付けます」
私がそう言うとジーク様は笑った。
文官カーティスが不思議そうな表情で私を見た。
あ、声?
あんまりしゃべらないようにしよう……って、無理だな。
これからシンカイ王国に乗り込むのに話し合わないわけにはいかない。
それぞれの客間に通してもらい、私はコゼットとふたりきりになってほっとした。
今回の旅はコゼットと同室でお願いしてある。
コゼットも不安だろうしね。
ただ風呂だけは私は髪を染めなきゃいけないから、長めにひとりでゆっくり入りたいとお願いしてる。
ダートには紅芋の味が楽しめる料理か菓子を食べてみたいと伝えてある。
「いよいよですね」とコゼットが言うので紅芋のことかと思って「楽しみだね」というとびっくりされた。
「えっ?
シンカイ王国が?」
「えっ?
紅芋のことじゃないの?」
「違います!
紅芋は楽しみですけど、とうとう西の端っこに来て、次のザクロンを越えたらすぐシンカイ王国ですね」
「ああ、そっちか!
でも、ここからザクロンは少し遠いよ。
荷物は少ないとはいえ、野営もしないと」
「野営って、外で焚火で調理したり、寝たりするのですか?!」
「うん、最初は面白いけど、続くと大変で飽きる」
「ミリア、そんなに野営したことが?」
びっくりされてしまう。
あわわ、思ったことすぐ言わないように気をつけないとっ!!
「う、小さい時に、ね」
「へー、ミリアの小さい時の話聞いてみたい!
小説より波乱万丈っぽいもん!」
「あんまりいい思い出なくてね。
そのうち話せる時が来たら……」
夕食に紅芋を使ったデザートが出た。
煮て潰してバターや牛乳を混ぜてペースト状にしたものを焼いてある。
砂糖はほとんど加えてないそう。
でも、甘くておいしい!
焼きたての物が出されたが、冷えてもおいしいらしい。
うん、パンみたいに腹持ちも良さそうだし、簡単な食事代わりにもいいかも。
コゼットが感心したように固さや味を確かめながら食べている。
それを見て、調理長が紅芋を一口サイズに切って、煮た物を持って来て食べさせてくれた。
「これを潰して、バターや牛乳でのばすのですね。
煮ただけでも甘みがありますね!
クリームに混ぜたり、そのままパンの中に入れても美味しそう」
ノートに何やらメモっている。
あ、そのノート、私のドレスのこととかも書いてあるんじゃ……。
ドレスと紅芋のことが一緒に。
ふふふ、なんだかおもしろい。
夜、風呂に入って、しっかり髪を染める。
しばらく野営だしな。
風呂に入れないだろうし。
ザクロンまで隊商の時は5日間ぐらいかかってた。
それは荷物を多く運んでたからで、馬車を使うけど歩いて行く人も多かったし。
今回はみんな馬に乗れるし、荷物も個人の旅行ぐらいだし、3日間ぐらいで行けるかな?
テントは2つだけにして、私とコゼットは馬車で寝ればいいと言われる。
殿下達と騎士はテントを利用しながら交代で寝るんだそう。
うーん、髪の毛3日間ならぎりいけるか?!
ちょっと不安だけど、しょうがないよね。
ザクロンに着けば宿があるし。
そうそう、もう火祭りは行っていないそう。
帝国の街だからね。そこはちゃんと話し合ってやめることができたそう。
フレイム教の教会はあるけど、街ではやらなくなったって。
街の外でやってたりすることはあるけれど、あの街全体を狂騒で覆ったような規模のものではなく、地元の若者達の出会いの場みたいな素朴な本来の姿に戻ったそうだ。
やっぱり、シンカイ王国がアマンを送り込んで蔓延させることを狙って、何か工作してたんだろうな。
ザクロンへの旅が始まると、おじさん文官がこっちを見ていることが多くて……。
気になるのでジーク様にこっそり言った。
「カーティス様、私のこと知ってるの?
もし知らないなら、ラクシュだったことなら言っても大丈夫かな?」
「でも、そっちで知ってるのはダートとアドニスくらいだろ?」
「でも、あんなに気にしてずっと見られてたら、気になるよっ!
カーティス様は口は堅い?」
「あー、約束は守れる人だと思うよ」
「そうか、なら言ってくる」
私はそのまま、少し離れたところで何やら地面を見ているカーティス様に近づいた。
「おや、アルミリア様、どうされました?」
草をスケッチしてたみたいね。
「文官様、お久しぶりです。
ザクロンへ御一緒するのは2回目ですね」
「2回目?
やはり、ラクシュ?」
「はい、お久しぶりです。
ただ、ラクシュであったことは殿下達と騎士のアドニスしか知りませんので、内密にお願いします」
「ラクシュが女性であったと、殿下が手配などして、本当に申し訳なかった。
私はイズタールにいることが多く、皇都で殿下がしていたことを後から聞いたりして……。
すると、殿下の母の側妃様を救われた薬師というのは……」
「後宮の医師ともうひとりの薬師と3人で治療に当たりました」
「ああ、本当に薬師になったんだね。
それは良かった。
うん、あなたにお会いしてから、ずっと気になってた。
無遠慮に見えたのなら申し訳ない。
疑問が解消されて、納得です。
これからは第3皇子殿下の婚約者である伯爵令嬢と思い、接していきますので、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
ほっ、これで何とかなったかな。
「ジーク様とカーティス様は身を守ることは何かできますか?」
「お恥ずかしながら、私は短剣は持っていますが、それほど得意では。
ジーク様は、それなりに……、イズタールでは騎士の練習に参加したりしてますから、私よりはできると思いますが?」
うーん、どれくらいか、というか、たぶん守らないといけないんだろうな。
「わかりました。
ダート様の騎士もジーク様の方の騎士もいるし、大丈夫かな?!」
「はい、大丈夫でしょう。
今回アルミリア様は護衛じゃないんですから、お気になさらず」
「ふふふ、なんか前と同じ。マイペースで穏やかな感じが変わらないですね」
「そうですか?
だからですかね。ジーク様とこれだけ長くやって来れたのは、私のその性格のおかげかもしれませんね」
私はカーティス様の手元を覗き込んだ。
植物がスケッチされてる。
「絵、上手ですね」
「いやあ、お恥ずかしい。
絵を描くのが趣味なのですよ。
何でも気になったものがあるとスケッチする習性でして……。
ラクシュのことも描いたから、よく覚えてますよ」
「えっ?」
「ラクシュの顔を描いた記憶があります。
なので、髪色が変わっていてもなんとなく、あれっ? と。
声と話し方で確信はしていましたが……」
もしかしたらとんでもなく優秀な人なのかもしれない?!
読んで下さりありがとうございます。
第1章の話のラクシュの空白の3年間を展開していっています。
おじさん文官、優秀だった説。
確かに過去も困った顔して、ラクシュを動かしていたかも……。
ゆっくりと毎日更新を心掛けていきますので、長くお付き合いいただけたらと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします




