114 偽装婚約?
異世界物です。転生や魔法はありません。
第14章ミリア視点で話が進んでいます。
話が長くなってきていますが、これからもお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
ダートはアドニスと騎士数人を連れて行く予定らしく、私はリュートとアドニスに相談しながら準備を進めた。
後、伯爵令嬢で皇子の婚約者って立場の令嬢がどんな服着てどんなことするのかよくわからないので、そこのところはマリアやティーナ様に聞いて、いろいろ揃えていった。
それから、私の護衛騎士としてレッドがついてくれるということになり……。
「何で? ミーシャ様は?!」
「ミーシャ様の希望なんだ」
レッドがしれっと言った。
「『本当は僕が守りたいけど、無理だからレッド、頼む!』と」
「いらないよ!
大丈夫だから!」
レッドはいい騎士だよ。
組み手は苦手かもしんないけどね。
まあ、あれは相手が私だったから、本当の力は出せなかったんだと思うけど……。
うーん、シンカイ王国ではどうなるかわかんないし、危険だし、それに私に護衛はいらないんじゃないか……。
ごねる私にリュートが言った。
「令嬢にはお付きも必要だろ?」
私は首を振った。
「そんな危ない所に女の子なんて連れて行けないよ!」
レッドとアドニスが苦笑する。
そんな変なこと言ってるかな?
「お付きも志願者がいるんだよなぁ……」
リュートが言って、レッドが部屋を出ると連れて戻ってきたのは……。
「コゼット?!」
「ミリア! 私、一緒に行くわ!」
「危ないんだよ!!」
「だから行くの。
私、自分がしてしまったことの償いをしたい。
ミリアがシンカイ王国へ行く話を聞いて、私も行きたいと思った。
私のことはシンカイ王国はよく知らないから、私を脅かしてた男は、もう捕えられてるから。
ね、役に立ちたいの。連れて行って!」
「でも、本当に危なくて……。
何が起こるかわかんないよ」
コゼットはすっきりとした表情で言った。
「レッド様にこの一週間ナイフ投げは、習った。
私、筋がいいいって!
後、掴まれないようにする方法とか、振り払い方とか習ってる。
それに以前貴族の家で使用人もしたことがあるから、お嬢様のお付きは初めてだけど、ベスにも話を聞いたし、カレン様やメグ様のお世話を一緒にやらしてもらった!
自信はあるわ!」
えっ、この一週間、正妃宮ではそんなことになってたの?
えっと、暗殺犯として捕まったコゼットに皇室のみなさんが協力して、指導してるなんて、そんなのありなの?!
「残りの一週間はミリアについて付き添いしてお世話しながら、もっとナイフの扱いとか練習する!!」
コゼットの気持ちもわかる……。
だからと言って、命を、粗末にはして欲しくない!
「……そこまで言われたら、しょうがないか……。
でも、本当に無理はしないでよ。
私から離れないで!」
「はい! ミリアから離れないわ!!」
それからレッドにこそっとお願いした。
「コゼットの護衛をお願いします……」
それから出発までの一週間。
持って行くドレスや靴を身に付けてみて、防具や武器をどこまで持ち込めるか、動けるか確認する、つもりだったんだけど……。
そっちより、アクセサリーや髪型をどうするかの方に時間がかかってる。
マリアとアンジェリカとエイダとベスとカレン様とメグ様とティーナ様、総がかりなんですけど……。
コゼットはやり方や完成した形を忘れないようにメモを真剣に取っている。
今着ているのは、夜の披露宴のパーティーに着るドレスだそう。
水色で、袖がフリフリの肩口ぐらいな感じで長めの白手袋をつけて……。
「手袋の上に銀細工のバングルをつけたらどうでしょう?」
マリアが言って、ティーナ様がご自分のものを貸してくれる。
うん、左手首に嵌めてみると手袋の上にいいアクセントになり、全体的なバランスもいいかも。
それに……。
「これなら、剣の攻撃も1、2回なら防げそうだね」
私の言葉に苦笑する皆様。
「ダート兄様の婚約者ですもの。
これくらい飾りを付けないと!」
カレン様が真珠のイヤリングを私につけようとしてうまくできず、コゼットに渡した。
コゼットはさっと私の耳につけてくれ、さらに結った髪に銀の台に真珠を飾った美しい櫛を差し込んでから、少し離れて見て、頷いた。
「これにあの真珠のネックレスをすれば……」
「きれいよ! ミリア!」
メグ様が褒めてくれる。
この水色のドレスは長くてしかも腰の所にふんわりと広がるような骨格のようなものが入っている。
だから、下に短いズボンをはいて、足甲をし、腰のあたりにベルトをして短剣を隠すことができた。
靴も隠してみようしたんだけど、それはさすがに止められた。
まあ、室内なら動きにくいヒールの靴を脱いで裸足で行けるか。
それから結婚式は前に正妃様が作ってくれた正装のワイドパンツのスーツと上着でいいのではと言われた。
あれなら、何度か着たことあるし、大丈夫。
それと薄い緑色のシンプルなドレスとワンピースの間ぐらいの感じの服を渡された。
向こうでの普段着と言われる。
袖がしっかりあって、手甲が隠せるようなデザインだ。
うん、いいと思う。
それといつも後宮で来ている服も持って行くことにする。
眼鏡はシンカイ王国に入ったら外そうと思っている。
ルティやラクシュのことを知ってる人もそういないだろうし。
コゼットも令嬢の付き添いらしいワンピースを数枚用意した。
これは申し訳ないけれど、コゼットが好きだと言った濃い緑色で統一させてもらう。
何かあった時に、コゼットを探しやすくするために。
とうとう出発の日。
ダートとアドニスが迎えに来てくれ、リュートも一緒に離宮に行くためにみんながエントランスでお見送りを……。
ダートが私の手を取り、左手の薬指に指輪をする。
大きな青い石が嵌められていて……。
お高そうだけど、これ何?
「婚約を了承してくれてありがとう」
ダートに言われて、あ、それらしく見えるためのものね、と合点がいった。
私は頷いた。
「ミリアの瞳の色ね!」
カレン様がうれしそうに言う。
「そうだよ、ダート兄様の色だと黒になっちゃうもん!」
ミーシャ様が言ってから、はっと気がついたように言った。
「だから、ミリアの耳飾りは黒い石なの?!」
そういうわけじゃないけど、まあダートのお母様のメダルの石に合わせてリン先生が選んでくれたから、うん?
たまたまだよね。
陛下と正妃様も来てくれて、見送ってくれる。
馬車には私とダートとコゼットとリュート。
離宮までは馬車であっという間だからね。
みんなに見送られ後宮を出た馬車の中で、私は指輪を怪訝そうに見た。
「気に入った?」
ダートに聞かれるが……。
「うーん、短剣持つ時に引っかかるんじゃないかな……」
ちょっと違和感がある。
騎士で結婚していると指輪をしている人もいるから、慣れれば大丈夫なのか?
「慣れた頃、返すことになりそうだな」
私の言葉にダートがぎょっとして、リュートが顔を背けて身体を揺らしている。
「返すって?」
コゼットがびっくりして言った。
「え、だって、シンカイ王国からの招待に応じるために、戦える令嬢を護衛にっていう、とりあえずのいわゆる偽装の婚約でしょ?」
「そうなの?」
「そうでしょ?
本当の婚約者だったら、こんな状況で危ない所に連れて行かないよ」
そう言いながらダートを見る。
「でしょ?」
「な、ミリアは、勘違いしてるだろ……」
リュートがこちらを向いて、笑い出す。
なんだよ。
だって、ダートとお父様は近過ぎるから、婚約なんてありえ……。
あ、ダートは北部から離れたんだよな……。
お父様は伯爵になり、帝国貴族からも認められ……。
あれ?
でも、ほら、ダートには思い人がいるって……。
「……もしかして、偽装の偽装?」
私はわけがわからなくなった。
コゼットが首を傾げてから、微笑んだ。
「どっちにしろ、今はミリアは正真正銘第3皇子殿下の婚約者なんだから!
それは間違いない! うん!」
コゼットのかわいらしい言葉に、私は笑った。
読んで下さりありがとうございます。
第1章の話のラクシュの空白の3年間を展開していっています。
付き添いの侍女志願者はたくさんいたんですよ。
でも、やっぱり危険な任務だし……、たぶんこうなるかなと。
ゆっくりと毎日更新を心掛けていきますので、長くお付き合いいただけたらと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。




