11 母の思い出
異世界物です。
ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。
第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
オルトは落ち着いたところで寝かせて、手を握っていたら眠ってしまった。
やはり、右足の怪我は良くない状態で、まだ熱が出ているとのこと。
切断まではいかないが、後遺症は残るだろうということだ。
部屋を出たところでアリアと話をしていたらマーサが戻ってきた。
負傷者のお世話を手伝ってくれていたそう。
「マーサ、ありがとう」
「いえ、できることを……。
そうだ、姫様、薬の作り方を教えて下さい。
薬が足りないんです!」
「わかった。
薬草を取りに行ければ……」
そこで第3皇子が一緒にいることに気が付き、声をかける。
「第3皇子、薬を作るのに薬草を取りに行きたいのですが、どうしたらいいですか?」
第3皇子は急に呼びかけられて驚いた顔をしたが、すぐ理解したようで聞き返すことなく返事をしてくれた。
「どこまで取りに行く?」
「湖の方です。
それと城の中にもあるので……」
「わかった。
俺が付き添おう。
リュートには伝えておく。
まず、城の中ならすぐ行けるが」
私は頷いてマーサに話しかける。
「一緒に薬草を取りに行ける?」
「はい!」
アリアが部屋から袋や籠を持って来てくれ、それを持ってバハ大臣以外は薬草を取りに行くことになった。
もうそろそろ夕方になる。
なんて日なんだろう。
午前と今の落差がありすぎる。
なんだか現実味がない……。
何とかちゃんとしないとと思っているのに、感覚はふわふわするし、時々身体もその違和感に震えたりする。
城の中庭を過ぎ、奥の日陰になっている場所に熱冷ましに使える薬草と傷薬に使える薬草が生えている。
私はマーサとユーリに教えて、それを集め始める。
「これか?」
第3皇子が傷薬の薬草を手に話しかけてくる。
「はい、それはすり潰して濾した汁を精製した油に混ぜ込んで塗ると、傷が膿みにくくなります」
「へー」
感心したような表情で呟く。
3人でそんなに時間がかからず、ある程度集めることができた。
「他の者にも取らせるか?」
第3皇子の言葉に私は首を振った。
「できれば別の場所から。
ここはしばらく取らない方がいいでしょう。
取り尽くしたら、もう生えなくなってしまいますから」
その言葉にまた驚いたような表情をする第3皇子。
なんだ。
当たり前のことじゃん?!
年上だよね?
アーサーぐらいな歳の感じがするけど。
「姫様、これを持って戻ります。
こちらは乾燥させて、こっちはすり潰して……ですよね」
熱冷ましは乾燥させて、水から煮だすように煎じるのだ。
「うん、カール先生ならわかると思うよ」
私は負傷者の診療をしてくれていた医師の名を挙げた。
「明日、大丈夫そうなら湖の方の薬草を取りに行こう」
マーサは頷いて、薬草の入った籠と袋を抱え戻っていく。
ユーリに一緒に付いて行くようにお願いした。
「でも、姫様は?」
「第3皇子がいるから大丈夫じゃない?」
ちょっと迷ったようだが、ユーリはマーサの方に走って行った。
追いついてこちらにふたりで手を振ってくれたので、振り返す。
彼女達が歩き始めたのを見て、私は第3皇子を振り返った。
「部屋に戻ります」
そうして歩き出すと第3皇子もついてくる。
「お忙しいのでしょう?
部屋に戻るだけなら、ひとりで大丈夫です」
「いや、姫を、ルティを守るように言われている」
「私を?」
「ああ、帝国軍の中にはまだ『鬼姫』の話が伝わっててな。
スーリア王国の者には手を出さないようにと命じているが、影ではわからないからな」
「そうですか……、そうですね。
私も帝国の兵を、傭兵を殺したのですもの。
憎まれてるわけですね……」
「……戦いの時は殺さねば殺される」
「わかっていますが……」
私は歩き出す。
第3皇子が横に並ぶように付いてきた。
「第3皇子は何歳なのですか?」
「ダートでいい。
俺は19歳。リュートも同じだ」
第2、第3と同い年なのか。
あ、母が違うとか?
私の表情を読んだのか「リュートの母は正妃、俺の母は……女官だった」と付け加えてくれた。
だった?
でもそれについての補足はなく。
「……私は14歳です。
姉のアニエスは18歳です。
アニエスとはお会いになりましたか?」
「ああ、リュートと一緒にな」
「人質には私がなりますから」
「えっ?」
「帝国に人質を送らねばならないのでしょう?」
「……それは、この先の話。
まだどうなるかわからない」
「そうなのですね。
でも、私が行きますので」
第3皇子、ダートは笑った。
「お前は……、ルティは人質になりたいのか?」
「うーん、なりたいわけじゃないですけど。
ここが好きな反面、出たい気持ちもあります……」
「何かあるのか?」
「大したことじゃないです」
私は笑って答えた。
部屋に着くとダートにお礼を言って部屋に入ろうとしたが、ダートがついてくる。
部屋の前の帝国兵を見るが何にも言わない。
私はため息をついて、ダートと一緒に自分の部屋に入った。
部屋の前の帝国兵はドアを閉めてしまう。
えっと……、これはいい状態なのだろうか?
私を守るにしても、部屋の中に入ってしまえばもう大丈夫じゃないか?
「えっと……、ダート、部屋に入ればもう護衛は大丈夫でしょう」
「……メイドが戻ってくるまで」
うん……。
私は頷いた。
「さっき……の、俺にもしてくれないか?」
うん?
さっきの?
手を掴まれてベッドの方に連れて行かれて、ちょっとびっくりする。
私の手を掴んだまま、ダートはベッドに腰を下ろした。
そして、私の手を自分の首の後ろに置くようにする。
ん?
さっきの……、オルトにしたみたいにってこと?
「なんで?」
私の間が抜けたような問いかけにダートが答える。
「彼が幸せそうだったから」
オルト泣いてたよね?
んー、わかんないな。
まあ、しょうがない。
座っているダートの頭を少し屈んで胸に抱えてやる。
「こんなんでいいのでしょうか?」
「うん」
くぐもった声が聞こえる。
なんだか大きな子どもみたいだな。
黒髪の頭を撫で撫でしてしまう。
ぎゅっと手を背中に回され抱きつかれる。
ドキッとした。
オルトの時はそうなることを予想していたというか、全然平気だったけど。
この人のことはほとんど知らないし、そんな人にこんなことしていいのだろうか?
自分の心臓が跳ねだすようにドクドク脈打つのがわかった。
は、恥ずかしい……。
顔がカッと熱くなってきた
「心臓の音が聞こえる……」
ダートがもっとよく聞こうと耳を押し付けてくるのがわかった。
くすぐったい。
でも、その時、ふと思った。
こういうことを母親にされたことがない人なのかもと思った。
実は私もない。
してくれたのは乳母のアリアだ。
私にはアリアがいたから。
ダートには……、いなかったのかもしれない。
だから、オルトを見て羨ましくなったのか?
「……どうですか?」
「うん、いい。
気持ちがいい。
ルティをとても近くに感じる」
その言葉に微笑んでしまう。
そうか、やっぱり変な下心とかふざけているとかじゃないんだな。
その時、ドアがノックされてユーリが入って来てぎょっとした。
そうだよなー。
びっくりするよね。
ダートが私を放して立ち上がり「ありがとう」と言った。
「どういたしまして」
私はにっこり笑った。
ドアの方へ行きながら「明日は湖の方だったな」と言った。
「はい、薬草を取りに!」
「わかった。用意しておく」
ユーリがドアが閉まるなりこちらに駆け寄ってきて「大丈夫ですか?!」と言った。
「ちょっとびっくりしたけどね。
大丈夫だよ。
なんか、子どもが母の愛を求めるみたいな感じだったな……」
私の言葉に顔をしかめるユーリ。
「なんですかそれ。
自分より若い女性に母の姿を求めるなんて、それはおかしいですよ」
「うーん、でも、なんかわかるんだ。
私も母には抱きしめてもらったことがないから……」
ユーリがはっとした顔をした。
「うん、第3皇子もそういう境遇なのかもしれないよ。
……でも、話を聞いて違っていたら、それはそれで……、怖いね!」
「そーですよ!
あの皇子は変態かもしれません!
気をつけて下さい!」
「変態って、言い過ぎだよ、ユーリ」
私は苦笑し、ダートが腰かけていたあたりに座った。
なんだか、ダートの温もりが残っていて安心できるような、不思議と嫌ではない感覚があった。
「……もしかして、姫様はああいう黒髪の男性がお好きなのですか?」
「黒髪?」
ダートのことか。
外見はあんまり気にしてなかった。
なんだろう。
命を助けてもらったということもあるからなのか?
「命の恩人だからかな。
用心したり、警戒したりする気持ちが薄れてるのかも……」
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




