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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第2章 ルクレティア ~スーリア王国の滅亡~ (ルティ視点)
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10 誰のせいでもない

異世界物です。

ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。

第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。

お付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

「レイクール領を調べ、バルカニアにもレイクールからどのような提案がされたのか聞いてみよう」

 第2皇子が言った。


「……新バルカニアは、真実を曲げるかもしれません。

 レイクールに全てを負わせるかも」

 私は訴えた。


 アーサーのことを考えると、そこまでレイクールがひどいことをしようとしていたとは思えない。

 私か姉かどちらかを力ずくで連れて行くことだってできたのに、それはしなかった。

 でも、アーサーは、レイクールがスーリアを見殺しにしようとしていたことを知っていたのかも。

 それに、使者の人数や行き先、使用する道を知り得たのもアーサーだ……。


「それはレイクールも同じだろう」

 第3皇子が言った。

 

 それはそうなんだけど。


 私はため息をついた。

 父はいつもこんな感じでため息をついていたっけ……。


「バハ大臣……、オルトに会いたい。

 父の最後の様子も知っているだろうし、会いたい」


 バハ大臣が頷いた。

「足を怪我していまして、王城内で治療を受けています」

 私はベッドから降りようとして、服のあちこちに血しぶきが付いていることに気が付いた。

 

 そうだった。

 まだこんな状態だった。


 戸惑ったように動きを止めた私を見て第2皇子が言った。


「着替えた方がいいな。

 ドアの外に見張りの兵だけ置かしてくれ。

 それでは私達は一度引き上げよう。

 ルクレティア、言いにくいな、なんと呼ばれている?」

「家族や友人はルティと呼びます」

「ではルティ、私のことはリュートと呼んでくれ。

 こちらはダート。

 後で、また会おう」


 


   ◇ ◇ ◇




 私はバハ大臣とユーリとそれから何故か第3皇子と一緒に城内を歩いていた。

 あれから、風呂に入り、着替え、バハ大臣から戦死者や負傷者の数や様子、そして父の亡骸も一緒にいた剣士や兵が守ってくれ、連れて帰ることができたと教えてもらった。


 父がもういないこと、全然実感できない。


「アニエスと母は?」

 私の言葉にバハ大臣が答えてくれた。

「王妃様は自室から出てきません。

 アニエス姫様は負傷者のお世話など手伝いをして下さってます」


 そうか、アニエスは動いてくれてるんだね。


 バハ大臣が言いにくそうに言った。

「……先に、王にお会いされてはいかがでしょう」


 私は頷いた。

「母もアニエスもまだ会っていないの?」

「王妃様は出てこず……、アニエス様はひとりでは無理だと……」

「……わかった。

 まず父に会い、言葉をかけたい。

 国を守って下さったのだから」


 バハ大臣が先に立ち、城の1階の方へと降りて行く。


 中庭へ出て、少し離れた所にある廟に父の遺体は置かれていた。


 見張りをしてくれているスーリア兵が私達を見て、扉を開けてくれた。


 父が剣を身体の上に乗せて横たわっていた。


 戦場の服のままの様だ。

 さっきの私と同じで、血は拭きとってもらったみたいだけど、服までは変えてない。


 小さな傷はあるが、大きな傷はないように見える。

 よく見ると、服の腹と胸に小さな突いたような傷があり、血が滲んだ跡があった。


 私はそこにそっと指を触れ「背中から刺されたのですか?」と言ったつもりだが、かなり声が掠れてしまった。


「背中から突き刺されたのが致命傷となったようです」

 バハ大臣の言葉に頷く。


「……何か守ろうとしたのでしょう」

 私は父の手に私の手を重ねた。


 やっと父の最後の姿を思い描くことができた。


 父は強かった。

 王というより、騎士のようだと私は思っていた。

 あまり、駆け引きや裏を読んだり、万一のために保険をかけておくということができない人だった。


 その正直さを愚直さを気に入って友人になってくれる人もいたが、平和な時ならそれで良かったのだ。

 非常時には()()()は利用されてしまう。

 父はそれでため息ばかりついていたのだろう。

 

 私は父の手をさすった。

 涙が出てきた。


「お父様……、お父様……。

 お疲れ様でした……。

 大変だったよね。

 でも、最後はお父様は自分の思うままに行動できたのかな。

 そうであって欲しい。

 でも……、でも、生きていて欲しかったよ」


 私の目から涙が零れ落ちる。

 涙でお父様の姿がぼけやる。

 ふと、お父様が涙の向こうで微笑んだ気がした。

 たぶん、私の脳裏に残る、父の笑顔が重なったんだろうけど。

 そうなんだろうけど、私は少し救われた。


 目を閉じて父の笑顔を思い浮かべて、私は祈った。

 父がきちんと天国へ行けますようにと。

 もし、何か天国へ行けない何かがあるなら、それは私が引き受ける、とも。


 落ち着いてからバハ大臣に声をかけた。

「いつ、埋葬するの?」

「王妃様とアニエス様との対面が済んだらと考えています」

「……そうだね。母と姉とももう一度来なくちゃ。

 もう一度、会いに来るね」


 私は冷たい父の手を軽く握って、無理に微笑んだ。


 廟を出て、深呼吸した。

 視線と人の気配に気がついてすぐ後ろを見ると第3皇子の服が見えた。

 そういや、ずっと黙ってついてきているけど……。

 かなり近くにいるけどさ。

 私を見張っているのか?

 それとも、私を守っている?


 私は考えをめぐらしながら第3皇子の顔を見上げた。


 急に手を伸ばされて、目の下を指の腹で拭うように触られる。

「冷たくなってる。

 濡れたからか?」


 そのまま、両手で顔を頬を挟まれ手のひらを当てて温めるような仕草をされた。

 その手が温かくて、私は振り払うこともせず目を閉じて受け入れてしまってから、はっとした。


 えっと、これはなんだ?


 あわてて目を開け、覗き込むようにこちらを見ている第3皇子の身体を押して「大丈夫です!」と言った。


「猫みたいだな」

 猫?


「触れさせてくれたと思うと、逃げられる」


 猫ねえ。

 

 私はため息をついた。


 そこからバハ大臣の案内で、負傷者が集められている部屋へ行った。

 戦死者は思ったより少なかったそう。

 戦いの時間が短く済んだこともあるのかもしれない。

 停戦後、すぐに救助に向かえたこともある。


 ただ、負傷者はとても多い。

 

 第2皇子が民に対する略奪を行わないように命令を徹底してくれたので、王城から家に帰る者が増え、軽傷者は家族と帰宅することもできているそう。


 オルトは家族が、アリアとマーサが一緒に生活して面倒を見るからと、別の部屋にいるそうだ。父親も間もなく帰ってくるので、そこで揃って家に帰るという話になっているそう。


 私は部屋の前でアリアに会った。

「姫様! 御無事で!」

 アリアが、私の身体を抱きしめたり、さすったりしながら上から下まで何か変わったところがないかと確認するように見回す。


「アリア、ありがとう。

 旦那様にお礼を。

 危険な任務だったのにやり遂げてくれて、本当に助かった。

 ありがとうございます」

「いえいえ、助けになったのなら……、でも、王様のこと……、残念でした……」

「うん、今、会ってきた。

 オルトはそばにいて守ってくれたから、話を聞けるかなと思って」


 アリアは戸惑ってから、悲しそうに言った。

「……聞かないでという訳にはいかないでしょうか……。

 その……。

 申し訳ありません。

 王様はオルトをかばってくれたようなのです……」


 アリアが言うには……。

 オルトが王の一番近くで戦っていたらしい。

 王の側近の剣士達も手練れのものが多いから、少々囲まれても十分防衛できていたらしい。


 それが……、オルトが槍で足をやられ、移動する時に、父がオルトを連れて行くと近くの剣士に背負わせ、それが防衛力を下げることになってしまったらしい。


 槍兵はやっつけた。

 オルトを背負う剣士を守るように移動を始めたが、やはり無防備なオルトの背後が狙われ、それを守るために父が前に出たらしい。


 そこで敵に囲まれ、一緒にいた剣士を敵の剣筋から逸らせようと突き飛ばした父の一瞬の隙を見逃さなかった敵に背中を突かれた。


 そうか……、オルトを、剣士を、守ったんだ、けど。

 残された方にしてみれば、それはやるせない……。

 自分の力の足りなさを悔いることになるだろう。


 私はアリアに頷いた。

「わかった。

 オルトとは戦場のことは話さない」


 部屋に入るとオルトはベッドに寝ていた。

 私を見て「姫様っ!」と急いで起き上がろうとして、痛みに呻きゆっくりと起き上がる。


 私はオルトの様子を確認するかのように見た。


 足と聞いたけれど、腕や頭にも包帯を巻いているし……。

 ということは足が一番重い怪我なのだろう……。


 私はオルトに近づくと「生きていてくれてありがとう」と言った。


 オルトがくしゃっと顔を歪ませ「でも、俺のせいで……」と言いかける。


 私はオルトの頭を胸にぎゅっと抱きしめた。

 その先を言わせたくなかったから。


「約束したこと、守ってくれてありがとう。

 私との約束。

 それだけ考えて。

 私のためにオルトはここにいる。

 誰のせいでもない……」


 オルトが私の身体に手を回して抱きついてきた。

 身体を震わせて泣いているのがわかる。

 私はオルトの頭を撫でるようにして抱きしめ続けた。


 そう、誰のせいでもない。

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


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