表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

わたあめ

これは夏祭りのわたあめを用いたお話しです。

あの夏の日、誰もが夏祭りという行事を楽しむのが当たり前でしたが、

気付けばその担い手でさえ高齢者となり、祭りを楽しむこと自体も奪われました。

今回は地方創生、地域活性化という面をわたあめの咀嚼音とともに

お伝えする物語である。



夕暮れが深まり、祭りは盛大に盛り上がっている。

父の健太、母の咲希、5歳の少女であるモモは群衆を縫うように歩き続け、

たこ焼きの香ばしい匂いに感覚を刺激されました。


やがて空気は焼き物の香りと甘い、どこまでも広がる綿飴の香りで厚く、

祭りは日本の伝統と改めて感じる!


「パパー、見てこれ!」

「うわ・・・デカいわたあめ」


モモが持ってきたのは巨大なカラフルのわたあめだった。

割り箸に巻かれた巨大な雲のようなわたあめは、繊細な白い糸を絡め、

その砂糖菓子に健太は心奪われていく。


「パパも食べたいの?」

「そ、そんなわけないだろ」

「ふーん。じゃあママは食べようかな」

「あっ、ちょっと待て!俺も食べる」

「あー、パパずるいっ」


口の中にふんだんに入れた糸はふわふわと舌で感じ、

やがて濃厚な甘味と共に溶ける。

とても500円とは思えないほど美味しい味だが、

家族にとってはそれ以上にも三人で食べるわたあめが絶品であった。


やがて雲がどんどん小さくなり、割り箸の先も見え始めていた。

すると母の咲希は何かを思い出したかのように目を見開く。


「そういえば今年はあの店がないわね?」

「あの店って?」

「ほら、チョコバナナよ! 近所の鈴木さん夫婦がやってたチョコバナナ」

「ああ、あの店は()()()()()

「え? だってこの前、鈴木さん元気そうだったよ?」

「別に病気が理由じゃないよ。ただ今年は町の予算が減ってさ。出店も減らされたみたいで、それでいくつか地元の方は出店を辞退してもらったみたいで・・・」

「そんなひどい・・・」

「パパ!ママ! 次はあそこいく」


モモに引っ張られた夫婦はイカついハッピをきた中年のおじさんのゲームブースの前で立ち止まり、

おもちゃの銃を手に取る。


「お?嬢ちゃん。射的やってくかい」

「うん!やる〜」

「そうかそうか! じゃあ100円でな。弾は3発入ってるやい」

「よ〜し!」


モモが小さな手でぱしゅっと引き金を引くと、コルク弾は正面のぬいぐるみには当たらず、壁にぶつかってしまう。


「残念だったな。嬢ちゃん! やっぱりアンタら夫婦の倅だな」

「お、覚えていたんですね」

「あたぼうよ! 15年前に射的で10000万円使ったのはアンタだけさかい」

「あはは・・・恥ずかしいな」

「そのアンタがまさかあの時の彼女さんと結婚し、こんな可愛い娘さんと出会えるとは商売人としては大変嬉しいねぇ」


健太はあの時のことを思い出す。

ぱしゅっとコルク弾が何発飛ばすても的外れのところにいく健太、咲希が何度もやめようと止めても、

健太は咲希が欲しがっていたクマのぬいぐるみを諦めたりしなかった。


新作のソフトを買って通信交換する約束を諦め、その金を夏祭りの射的に使い込み計100回チャレンジの末、

コルク弾がクマのぬいぐるみの目にあたり、ストンと地面に転げ落ちる。


「や、やったよ!健太」

「ま、まじか。よかった咲希」

「私、このぬいぐるみを絶対に大事にする」


高校時代に咲希のためにクマのぬいぐるみを勝ち取ろうとしたことを思い出した健太は、

再び運試しをすることにした。


「しかし時代ってのは残酷なもんでさ。今年でうちの屋台も最後なんだわ」

「え?どうしてですか」

「ついにうちの町は今年で最後の夏祭りになると、町議会で決定してしまった。抵抗したがダメだったし、何より町長も幹部も全員おじいちゃんばっかで、もう体力がねえ」

「そ、そんな。じゃあ私たちが夏祭りを運営するのは?」

「それももう手遅れさ。若者もここに帰らなくなって、子供も減り、学校も公民館も統合され、町議会はもう限界なんさ」


あの時、30歳のおじさんは気付けば45歳、もうあの時の若い青年は気付けば壮年期に突入していた。

何よりもおじさんの歳に近い健太や咲希には娘のももがいて、これからもこの町には住むか迷っている。

過疎化しバスの本数も減り、近所も平均年齢が60半ばとなっている。

同級生もすでに県内最大都市の和歌山市や大阪、東京へと移り、最後まで地元に残り続けるとしたら私たち夫婦かもと咲希も感じていた。


このままモモと3人でこの町に残っていいだろうか?東京にはもっといい出会いがあり、海外へ留学させたりとかできないだろうか? モモが困らないように、やりたいことを第一に考える夫婦だが、その時におじさんがポケットから小さな球体を取り出す。


それは地球儀を模した飴だった。


「嬢ちゃんら。せっかくだし綿飴食べるかい?」

「え?いやいや、わたあめはさっき食べて・・・」

「このわたあめはこの飴で作るから特別でい」


おじさんははっぴから取り出した飴をわたあめの機会に入れ、くるくると棒を回す。

縁日の提灯の光の下で割り箸にキラキラ輝く細い、ガーゼのような糸に引き延ばされるまでおじさんは綿飴の糸を引っ張った。やがて青と緑のグラデーションで色鮮やかな糸は、小さなわたあめと化してモモの手にわたる。


健太は自分の娘と妻を見て、モモたちの顔が柔らかな光に照らされているのを見て、おじさんが伝えたかった何かを感じとった。


「世界なんてさ一見大きいと思えても、実は俺たちみたいな人間が、ただ何かを成しているだけにすぎねえ。何処の町も古くなったり新しくなったりして、そうして時代が築かれてきているんだ。いつか東京も首都で無くなるかもしれねぇし、 あの辺の公園がいつの間にか海に飲まれて、山ができそして石油が発見されるかもしれねぇ。だから気にせず生きろ」

「っ・・・!?ありがとうございます」


その瞬間、バーンっと花火の音が大きくなり、屋台を照らす。

祭りの花火が夜空を明るくし始め、色とりどりの花火が空を彩り、健太たちの目に反映された。

この光景を観れるのは今年で最後だが、もう健太たちは後悔していない。


色彩の爆発は、彼らの生活の続く中で新たな色へと生まれ変わる。

わたあめは人間の感情ように繊細な糸を出している。しかしまとまれば無敵だ。

健太は二人の手を握りしめ、この地で生き続けることを誓う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ