シーフードヌードル
市役所職員は批判の的だ。
市民からの罵声に続き、縦社会であることからやりがいも多くない。
給料も高くないし原則、副業もできない。近くにあるのはコンビニのみ。
これはとある新人地方公務員のお昼休みのお話です。
「3分だけ待ってやる」
市役所のお昼休み、新人社員の黒木はコンビニで買ったシーフードヌードルにお湯をジョボジョボ入れる。
茶色の粉末に液体が混ざると、やがて液体が線のところにいたり、半分開けた薄い蓋にスマホを置き、
3分待つことにした。
そこに立つ間、黒木はこれからの食事に対する期待に包まれた。蒸気はゆっくりと螺旋を描きながら上昇し、その香りには海の匂いが含まれていた。
それはまるで、空気が常に塩辛く、湘南の風と地中海がごちゃ混ぜに広がり、終わりなく感じられた子供の頃の夏を海で過ごしたあの懐かしい記憶を感じられた。
2010年、当時8歳だった黒木は三陸の海岸にて潮干狩りをしていた。
小さな赤い武器をブルンブルンと揺らしながら、奇妙な貝や石を集め無我夢中で並べていた黒木少年は、
いつしか厳しい受験戦争に巻き込まれ、ただの納税者になった。
学生とは違い働けば働くほど税金が取られ、市役所は公務員であるため納税者の怒りを直で当たられてしまう。
特に国会議員が脱税を犯すと、近所の70代の女性から数時間にわたる罵声を浴びせられ、残念ながら黒木の男性の先輩は休職してしまった。
(あの時は本当に幸せだった)
5・4・3・2・1
ピピピっとついにスマートフォンのタイマーが待ち時間の終わりを告げた。
そして黒木が蓋を開けると、麺、エビ、野菜の粒が入った熱く香り高いスープが黒木を迎えた。
エビの赤と白いイカのブロックは色彩は鮮やかで、黒木の今の人生の灰色のトーンとは対照的だった。
黒木はコンビニでもらった割り箸をパキッと割り、カップの中身をかき混ぜながら、味と質感の協奏曲を作り出しているのを見た。
そこにチャーシューやご飯を加えたいとこを今はグッと堪え、黒木は箸で綺麗な黄金の麺を口一杯に頬張る。
最初の一口を食べると、エビとイカの海の酸味が緑野菜のシャキシャキと混ざり合い、
麺は独自のちぢれた心地よい噛み応えを提供した。
一口ごとに、窮屈な仕事のざわめきからさらに遠ざかり、
まるで三陸の潮干狩りを思い出す穏やかな海岸に近づいていった。
市役所職員の昼休みは、つかの間の休息の瞬間だった。
この後は市議会議員からのレクもあるため、黒木は上司とともに市議に説明するための膨大な資料を準備しなければならない。市役所職員の長時間労働の背景には、こうした働き方が足枷となり、国家公務員の長時間労働と同じく地方にも目を向けてほしいとつくづく思う。
やがて麺がなくなり、スープを最後の一滴まで味わうと、黒木は現実世界に戻った。
黒木の前には空のカップが置かれていて、彼が取った短く懐かしく痛い思い出となった。
それ一瞬の休息だったがコンビニで160円で購入したシーフードヌードルは遠く離れた場所へと連れて行ってくれた。
「さて仕事に戻るか・・・」
休憩室を出てデスクに戻ると、海の後味が黒木の口に残り、
スプレッドシートと締め切りの向こうにある儚くも優しいなった。
コンビニで見つけたシーフードヌードルは、平和と満足感の貴重な合間を提供し、
彼は仕事に戻った。誰がなんと言おうと今日も黒木は懸命に働いた。
いつの日かの海岸にはもう行けないが、あの思い出のゴミにはカップラーメンの空箱があったことを
忘れないだろう。