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刺身


「刺身が食べたい」


無性に食べたいと思った私は従姉妹のサラとともに六本木内で小洒落た寿司バーに向かう。


六本木の活気ある夜ととその無数の大人らしい気晴らしは背景に薄れ、私たちの旅は

日本料理の繊細な領域へと深く潜り込んだ。


IT業界での年月を経て洗練された分析的な心を持つ私、広志は、この寿司屋の寿司を自分が扱うコードと同じように、細部と正確性の複雑なシステムとして認識し始めた。

朝、豊洲から仕入れた新鮮な魚を仕入れ、大将自ら品定めされた刺身の一切れ一切れは、寿司職人の習熟度の証であり、見た目、温度、味の完璧なバランスが調和を醸し出し、細心の注意を払って作られていた。


そしてザクザクと魚を捌く刃の囁き、竹マットに切り身を置く優しい動き、

大将が彼の作品を披露するときの光と影の微妙な相互作用は、

特定の目的と美を持つ複雑なプログラムの繊細なコードラインのようであった。


「わお!これがジャパニーズ寿司ですね」

「そうかサラちゃんは初めてだったね」

「そーです! 日本に来て私、初めてお寿司食べます」


一方、芸術的な感受性と新鮮な視点を持つサラは、寿司屋をキャンバス、大将をアーティスト、

刺身を大将の切り抜き動画と見た。マグロの深い赤紫色から真鯛の透明なピンク色、さらにシャキシャキした大根のつまや恥の方に山盛りに置かれた緑色のわさびまで、五感を刺激させる鮮やかなパレットがサラの心に好奇心を芽生えさせた。


「嬢ちゃん! ついでにカリフォルニアロール作ったんだけど、ほら食べな」

「大将さーん。ありがとうございまーす」

「ええってことよ」


鮮やかなタイヤのようにぐるぐるされたカリフォルニアロールには、

色鮮やかにつぶつぶのとびっことエビフライが巻かれている。

やがて夜遅くになったからか寿司屋の音も、接待の声も彼女の耳には音楽となり、同時に自然の要素の作曲であり、大将の寿司を握る動きと調和し、まるでロックのようだった。


広志とサラは一緒に、食べる行為を遥かに超えた寿司のより深い本質を理解し始めた。

まずネタは新鮮とパサパサでは全然違かった。

スーパーの寿司は確かに美味いが、大将の寿司は口当たりが柔らかく、シャリもマシーンが握った乱暴な硬さとは違い、ほんのりと寿司酢の香りが漂う。サラは口一杯に茶色の芸術につけたカリフォルニアロールを口に入れると、プチプチっと滑らかな感触のとびっことサクサクのエビフライ、そしてシャリが見事に調和され彼女は笑みが止まらない。それは文化の表現であり、大将の習得に何年もの献身が必要な芸術形式だった。


「ところで大将ってこの店を何年続けているの?」

「今年で25年ですぜ!18の時に見習いで寿司を握って7年で独立した後、カリフォルニアで寿司職人をやって今はこの六本木で寿司屋やってんだ!」

「すごいな大将!」

「なになに俺なんか全然だ。上には上がいるからな。でも俺はネタと人に感謝できる寿司職人としては世界一だ」


大将が自慢げに話す寿司はまさにお客様と寿司に感謝しているからこそ生まれる逸品なんだろうと二人は感じた。

IT業界もかつては岩のようにデカかったパソコンが今や手のひらサイズのスマホとなった。

Web3といって冗談混じりに仮想通貨を買いまくってた同期は今、ドバイに移住してこの寿司も余裕で食べれるんだろうと思った。残念ながら私じゃ二人で5,000円使うにもビクビクしてしまって恥ずかしい。


大将との会話は、まるで時代も言葉も努力量も違い、言葉の壁によって限られていたが、それでも寿司を通して大将の何かを私たちは受け取ることができた。刺身の芸術の普遍的な言語を通じて、私たちは五感を通して良い寿司と崇高な寿司を区別する微妙な違いについて学んだ。

やがて芸術を全て召し上がると大将はぶつぶつと何か書いていた。

「大将それなに?」

「ん?ああこれはお客様ノートつってさ。今日の寿司のネタの具合と食べたお客様について記してんだ! それを魚屋のおっちゃんに持って行くと嬉しそうでさ」

「へぇ〜、おじさん真面目だね」

「そんなことないよ。嬢ちゃんも好きなことに時間使うだろ?ほらアニメとかドラマとか?最近だと推しというものがさ。このノートも俺にとっては推し活なんだよ」


そういった大将の笑顔に私たちは心打たれてしまった。いつしか茶色の醤油も緑の山盛りのワサビも全て無となり、

私たちは寿司や刺身を堪能していった。


「あ、そうだ。さいごに明日さ。魚屋のおっちゃんがさ、YouTubeライブでマグロ解体ショーやるんだよ。

八百屋の国会議員となんとかの副長官のためにマグロ捌くらしくてさ。せっかくだし、マグロの解体ショーみるかい?」

「「え?いいんですか大将」」

「あたぼうよ!ただ魚屋のおっちゃんには内緒だぞ? なにしろこれおっちゃんから特別に買ったクロマグロだから、一般客にタダで食べさせたなんて知られたら怒られるしよぉ・・・」

「た、大将!ありがとうございます」

「いいってことよ!別に俺は金持ちだけのために握っているわけでねぇ。こうしたおもてなしができなきゃ職人失格だ」


カウンターで座って希少なクロマグロの一切れを大将が準備するのを見ているとき、

広志とサラは啓示の瞬間を経験した。

ザクっとナイフが魚を通り抜けるとき、その音はただの囁きではなく、

美のはかない性質と瞬間を大切にする重要性を思い出させるメッセージだった。


粋のいい巨大なクロマグロのカブトを見た私たちは一夜の興奮を味わった。

この瞬間は一生忘れないだろう。


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