第十九話
「う、嘘だ! 嘘に決まってる!」
僕は、声がした方向を見やる。
案の定というかなんというか、ハーディー殿下がめちゃくちゃに喚いている。
「ハーディー様、お鎮まり下さいませ。今は―――」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! 俺は、父上と母上の子供だ!!
お前らのような愚民とは違うんだ!!」
歪んでいる。
この人の考え方は、歪んでいる。
もう既に、『殿下』とも呼ばなくなった公爵様が注意をするも、それを『うるさい』で片付ける。
しかも、さぁ。
愚民? 一応その人、この国の公爵様だよ? 頭大丈夫?
しかも、フェンリルの守護を一番に受けてる人だよ? ……まぁこれ、本人も知らないけど。
喧嘩売ったらどうなるんだろうとか考えないのかね?
…公爵様にけんかを売ったら、確実に父様に●されると思うんだ。
だって父様、公爵様のこと気に入ってるもん。
気に入ってなかったら、幼少期の牙を渡したりしないもん。
フェンリルから与えられる牙ってすごく強い意味を持っているんだよ。
幼少期の牙は一生の尊敬や信頼を。
一生の尊敬や信頼って言っているとこからわかると思うけど、一生友であり続けるってことなんだよね。(※くっそ重いです)
ちなみに大人の牙は愛情を示している。―――まぁつまり、大人の牙は“番”に渡すものだってことだね。
幼少期の牙も結構凄い性能してるんだけど、大人の牙とは比較にならないかなぁ…。
「俺は、王子だ! 俺に、俺に、逆らうな!!」
現実を見ようよ、ハーディー殿下。
貴方は、王様の子供じゃあない。
王弟さんと、側妃の子供だ。
「ハーディー、お主は黙っておれ。」
すかさず王妃様が牽制するが、ハーディーには伝わらなかったようで、こちらを指差し、自分がどれだけ高貴な身分なのか、王族の権威や果にはエルファ様への暴言。感情が高ぶりすぎたのか、唾まで飛んでくる。
うるさいなぁ……。
「だいたい、おかしいだろう!!
エルファ! お前は俺の奴隷だ! 何逆らっているんだ!?
勉強だけで脳のない家畜以下のお前が!」
は?
は????
は??????????????????????????????????
ふざけんな。
「巫山戯るなよ塵が。」