第十六話
「…申し訳、ありません。……陛下。」
渋々、といった様子で謝るハーディー。
「………っ陛下! 何故、このような非道な女に温情をかけるのです!?」
まだこりてないのか、この王子。
あのパーティーのあと、王様にきっちりこってり絞られたって聞いてたんだけど?
本当にこの王子、人として大丈夫? 思考回路がヤバすぎないかな?
「……ハーディ、お前は黙っていろ。」
うわぁ……王様もお疲れ様〜。
「…して、アラミスト公爵令嬢。お主にかかっている女子生徒への名誉毀損だが……。」
「国王陛下。それに関しては、この者が調べておりますがゆえ、この者の発言をどうかお許しください。」
公爵様が僕を指しながら言う。
僕一応従者だからね! 勝手に話せないんだよね! 面倒くさい貴族のルールってやつだよね!
「うむ、許そう。」
王様が僅かに頷きながら許可を出してくれる。
よ〜し、頑張るぞぉ!
「…身に余る光栄と存じます。公爵家が第一級従僕、フォリアンと申します。
私は、『学園におけるエルファ・フォン・アラミスト公爵令嬢の名誉毀損罪』及び『学園におけるマリル・フォン・ガイ伯爵令嬢の被害』について調査をさせていただきました。
結果から申し上げます。
『学園におけるエルファ・フォン・アラミスト公爵令嬢の名誉毀損罪』につきましては、事実無根との裏付けが取れております。資料は後日発送させていただくこととなります。
そして、『学園におけるマリル・フォン・ガイ伯爵令嬢の被害』につきましては、事実でございます。ですが、エルファ・フォン・アラミスト公爵令嬢様の関与は認められませんでした。こちらも、書類は後日発送させていただきます。」
……はぁ、はぁ……。長い…台詞が長いよ公爵様………。
練習しといてよかったぁあああ……。
(※第一級従僕について
この世界には使用人たちに資格があり、第五級から第一級まであります。第一級まで居るのは王宮以外にはアラミスト公爵家しかありません。第五級が下級使用人、第四級が中級、第三級が上級、第二級がベテラン、第一級はもう神のような存在だと言われています。アルは五ヶ月で第一級をとりました。)
「…第一級……ぇ……?」
あ、エルファ様。びっくりしてるねぇ…。
小さい声で驚いてるよ〜。
エルファ様に吃驚してもらいたくて頑張ったからね!
(※頑張りすぎです。ちなみにお師匠さんも第一級使用人です)
「第一級だと?」「そんなわけがないだろう」「だが、あの髪色…」「フェンリルの…」「第一級など…」「愛し子なんじゃ…」
わぁ、周りの貴族たちがざわざわしてるよ〜。
第一級、めちゃくちゃ難しかったからなぁ………。試験の後に、エルファ様に『かまって』って思わずやっちゃったくらい。
僕は誇り高いフェンリル…なんだけど、エルファ様ならいいかなって。
「はっ! 第一級使用人だと? そんな者が公爵家などにいるわけがないだろうが。」
ハーディー、偉そうにしていられるのもそのうちだぞ?
「……陛下。もう一つ、申し上げたいことがございます。よろしいでしょうか?」
「…許可しよう。」
僕は、もう一つの資料と、懐に隠し持っていた魔道具を取り出す。
「まず、この映像をご覧ください。」
僕は、その魔道具―――魔道具とは言っても、小型化したので五cm×五cmくらいの四方になっている―――を起動させる。
すると、透明なスクリーンが作り出され、そこに光の粒子が集まっていく。
ジジッ………、と光が集まったことによる熱によって音がして、映像が映し出される。
―――『…ちょっと!! レェラ、レェラはまだなの!?』
スクリーンの中でそうヒステリックに叫んでいるのは、側妃・ルルミーナ・フォン・ウール。
幼い子供のような風貌をした彼女は、二つ結びに結ってある髪を振り乱しながら、周りに立っている侍女たちを睨みつけている。
場所は王宮の一室のようで、家具に見覚えのある紋章が彫り込まれている。
まぁ、それ以外は側妃の趣味なのか、派手なだけで品や価値など微塵もない品々ばかりが並んでいるが。
―――『も…申し訳ございません、側妃様…っ…ぅゔっ……!』
控えていた侍女の一人が代表して謝るが、その謝罪の途中で、側妃がその侍女を引き倒す。
―――『うるさいっっっ! 謝る暇があったらレェラを呼んできなさいよッ!!』
側妃はかなり興奮しているようで、その後も侍女に対する暴行をやめず、果には王宮で禁止されているはずの鞭打ちをし出した。
周りの侍女たちはガタガタと震え、怯えている。
よくよく見れば、彼女たちの手や足に虐待の跡があるのが見えるだろう。
「…こ、これは……っ!」
王が驚いたようにその映像を見る。
いやぁ、驚くのはまだ早いんだよねぇ。主要な登場人物も、まだ一人出てきてないし。
―――『あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!! 主人が大変な時にお前たちはッッ!! 本当に使えないッッ!!』
申し訳ありません、と鞭打ちのせいで腫れた身体を震わせながら、侍女は謝る。
だが、側妃はそれに苛立ったかのように再び鞭を振り下ろす。
側妃の周りには、子爵家や男爵家などの彼女の実家であるオルエン伯爵家より立場の弱い家の娘しかおらず、彼女に抵抗できるものはいなかった。
しかも、彼女は暴力という鎖によって侍女たちを捕まえていた。
鞭打ちという直接的な手段をとる他にも、彼女の実家、オルエン伯爵家の裏と繋がっているという噂を利用し、実家を盾に取ることによってより強く侍女たちを捕まえていたのだ。
―――『…側妃様、お呼びでしょうか。』
そしてやっと、もう一人の主要な登場人物である、先程映像の中で側妃が呼んでいた、レェラという侍女がやってくる。
―――『ちょっと、レェラッ! 遅いわよッ!』
そこで、僕は側妃の方を見る。
側妃の顔は真っ青になっており、その傍に控える筆頭侍女―――レェラも、青を通り越し、白い顔をして映像を見ていた。
やめてほしいんだろうね。こちらが見ていることに気づくと、今度は顔を真っ赤にして睨んでくる。
でもね、僕ね、貴方たちにも怒ってるんだ。
だから、やめない。
―――『どうしてくれんのよ! あなたのせいで、あなたのせいで、私は王弟の子を身籠っちゃったじゃないのッッッッッ!!』
側妃と、レェラの顔が、絶望に染まった。