第十五話
こんにちは! アルだよ。
あの婚約破棄騒動のあと、エルファ様もすぐに帰ったんだ。……流石にずっとあの微妙な空気の中にいるのはちょっと、ね。
屋敷に着くと、エルファ様に公爵様とファスター様が怒らた。
何故か僕もちょっと怒られちゃったよ……。『無茶するな』だって。
心配してくれたのは嬉しいけど、なんというか、大好きな人に怒られるのはちょっと心にくるものがあるね。
って、今はそんなことはどうでもいいんだ。
今日、公爵様とエルファ様はお城に呼び出された。
ハーディーとの婚約破棄について、詳しい話をしに行くのだ。
やっと婚約が破棄されるんだね〜! ここまでしたかいがあるってものだよ!
あ、もちろん僕もついていってるよ? 心配だしね。
「………。」
今、僕達が居るのは、コツコツという靴音しか聞こえないほど静かな王城の廊下。
体に染み付いているのだろうその動作は淀みないが、エルファ様と公爵様の表情は硬い。流石にこのお二人といえども、王に会うのは緊張するんだね。エルファ様はともかく、公爵様は緊張とかしないと思ってたなぁ。
無言で歩き続けること、数分。
僕達は、豪奢な蔦の金細工が施された扉の前で止まった。
この門の前に配属された兵士たちが、二人がかりで扉を押し開ける。
「アルゼスター・デューク・フォン・アラミスト公爵、エルファ・フォン・アラミスト公爵令嬢の御成!」
大きな、しかし掠れていない声が響く。
ふかふかとした赤いカーペット(こういう物のことをレッドカーペットっていうんだよね、市井の小説に書いてあったよ!)を進む二人。その後ろを僕はついていく。
背後で慌てているような雰囲気を感じるけれど、何故だろう?
僕らの丁度真ん前にはこの国の王が座っていて、左側には凛とした雰囲気をまとっている正妃が座っている。
正妃の隣には子供のような雰囲気を持つ側室も座っており、この上なく目立つ。このような場で側室は出てこないはずなんだけどね。…まぁ、この人もエルファ様の断罪に関わっちゃってるからどうしようもないんだけど。
「…アルゼスター・デューク・フォン・アラミスト公爵、並びにエルファ・フォン・アラミスト公爵令嬢。突然の招集へ応じてくれたこと、感謝する。」
決まっている位置で二人が頭を下げれば、王が話しだした。
勿論僕も頭を下げている。
我らフェンリルに守護されている人の王とはいえ、王は王。敬わなければ母様の教育が悪いと言われかねないからね。
「此度、そなたたちを呼び出したのは、第一王子であるハーディーの無礼の件である。
…まず、こちらの非礼をお詫びしたい。申し訳なかった。」
王が軽く頭を下げる。
そして、それだけで周りに集まっていた貴族たちがざわめくのだから、うるさいことこの上ない。
「いえ、陛下。時期王太子妃ともあろうものが王子を諌めきれなかったという責任がございます。」
公爵様は謝っているみたいだけど、逆に『お前の王子はこっちに諌められないといけないほど教育がなってないんですよ』と言っているようにも思える。…これも師匠からの教育の賜物だね。前の僕だったら、「あれ、公爵様謝ってる」くらいにしか思わなかっただろうし…。
大人って、怖いねぇ…(遠い目)。
「そうか…。して、ハーディーとアラミスト公爵令嬢の婚約を破棄したいという話だったな?」
「えぇ。」
「許可しよう。…アラミスト公爵令嬢、長年、苦労をかけた。」
労るような視線をエルファ様に投げかける王様。
その時、唐突にガタリと音がなった。
いつの間にか脇の方で座っていたハーディー殿下が立ち上がっており、歓喜と怒り、両方が入り混じったかのような表情をしていた。
あぁ……多分これ、エルファ様との婚約が解消された『喜び』と、王様の苦労をかけたなっていうエルファ様への労りへの『怒り』が入り混じってるんだろうなぁ…。正直わかりたくないけど、ずっと監視してたらわかっちゃうよね。
「ち、父上!」
「…ハーディーよ、私は今、『父上』ではない。『陛下』と呼べ。」
はぁ、と王様はため息をつく。
まさか息子がこんなに馬鹿だとは思わなかった?
でもね、それ、貴方の監督責任になるんだよ?
息子の教育を側妃に任せちゃった貴方の責任じゃない?
まぁ、でも。
ハーディー殿下、王の子供じゃないし。
しょうがないかぁ。