シルビア・ヘインズ①
私は元々伯爵家の令嬢だった。
父も母も生まれた時から私を溺愛していた。
それは使用人達や周りの人間も同じだった。
私は別にそれを不自然に思わなかった。
私はこんなにも可愛いんだから、愛されるのは当然なのだと。
そんなある日のことだった。
お父様とお母様が不慮の事故で亡くなった。
私は一晩中泣き続けた。
私はまだ爵位を継ぐことの出来る年齢ではないし、このままでは路頭に迷ってしまう。
そんな私を、ある人が救ってくれたのだ。
その人は私のお父様のお兄さんで叔父にあたる人物だった。
私を引き取ってくれるらしいのだ。
なんとその人は公爵家の人間らしい。
しかも超名門のオーギュスト公爵家。
私はその時、両親が亡くなった悲しみよりも公爵令嬢になれる喜びの方が勝っていた。
私はそれからすぐにオーギュスト公爵家に引き取られ、養女となった。
叔父さんに愛想良く挨拶すると、これまでの人達と同じ反応を見せた。
それは叔父さんだけじゃなかった。
オーギュスト公爵夫人も、嫡男である公爵令息も使用人達もみんなすぐに私を受け入れた。
だけど一人だけ思い通りにならない人物がいた。
それがリリス・オーギュスト、オーギュスト公爵令嬢だった。
リリスは最初からどこか私を警戒しているようだった。
どれだけ時間が経ってもリリスだけは他のみんなのように私に心を許すことはなかった。
生まれて初めての経験で困惑すると同時に私を愛さないリリスのことが嫌いになった。
私は今まで誰からも愛される少女だと信じて疑わなかったからそれが許せなかった。
それからは私はリリスを貶めようとした。
新しい家族たちは私が言ったことを簡単に信じ、すぐにリリスをいない者として扱ってくれた。
私はお父様にリリスを邸から追い出してほしいと言ったが、実の娘を追い出すのにはさすがに抵抗があったのかお父様はなかなか実行しようとしなかった。
それが更に私のリリスへの憎悪を増長させた。
私はリリスから婚約者を奪ってやることにした。
リリスの婚約者はラウル・ヘンドリック。
ヘンドリック公爵家の嫡男でこの方と結婚すれば将来は公爵夫人となれる。
顔も悪くないし、私の結婚相手として良いだろうと思い、本気で奪いにいった。
案の定ラウル様はすぐに私にほれ込んだ。
そしてラウル様はリリスと婚約解消をし、私と婚約を結び直してくれた。
リリスは私よりも優れたところが多かった。血筋、容姿、教養。
だからラウル様がそんなリリスより私を選んでくれたことが最高に嬉しかった。
今思えば、私は最初からリリスに対して劣等感を抱いていたのかもしれない。
リリスとラウル様の婚約が無かったことになってからようやくお父様はリリスを追い出してくれた。
私はリリスに完全勝利したのだ。
自分を愛してくれる家族、優しい婚約者に囲まれて幸せの中にいた。
だが、そんな幸せは長くは続かなかった。