エピローグ
「お母さんっ!お父さんっ!」
駆け寄ってくるのは私とロンの息子であるルイスだ。
「ルイス、あんまり走ると危ないぞ。」
ロンが走ってきたルイスを抱き上げる。
「もう、ルイスは落ち着きがないんだから。」
私は苦笑いする。
あれから数日後、シルビアが処刑されたと公表された。
そしてオーギュスト公爵家は爵位を返上した。
噂によるとオーギュスト公爵家の人間たちは皆病んでいて幸せそうだった家族は一瞬にして崩壊したと話題になっているらしい。
ヘンドリック公爵令息は自ら廃嫡を望み、領地に引きこもっているという。
私を虐げていたオーギュスト公爵邸の使用人達はみんな自責の念から使用人という職を辞したとのこと。
そして私はロンと1年の交際を経て、結婚した。
式は公爵令嬢であった頃に予定されていた結婚式よりだいぶ質素なものだったが、最高の思い出になった。
結婚式では義理の両親をはじめとしたたくさんの方が来てくれた。
驚愕したのが、王妃陛下が来ていたことだ。
平民の姿に扮装していたが、オーラが違いすぎて他の招待客の方から「あの人絶対平民じゃないだろ」と言われていた。
後々分かったことだが、どうやらレストランの常連さんたちは私が元貴族令嬢だと知っていたらしい。
それを知ってなお、私に親切にしてくれていたようだ。
そして今。
カインさんとハンナさんが経営していたレストランはロンが引き継いで、私たち夫婦で経営している。
常連さんたちのおかげで変わらず店は繁盛している。
「ロン、あなたに言いたいことがあります。」
「何だ?」
ルイスを地面に下ろしたロンが私の方を見た。
「・・・二人目が生まれるの。」
それを聞いたロンはパァッと顔を輝かせた。
「本当か!?」
私はコクリとうなずいた。
ロンは大きく手を広げて私を抱きしめた。
私はロンの腕の中で幸せをかみしめていた。
思えば私の人生は不幸の連続だった。
シルビアが来てから家族たちや使用人たちに冷遇されて、婚約者も奪われて家を追い出された。
だけど、それでよかったって思うのは変かしら。
ロンや義理の両親たちと出会えたのはそれがきっかけだから。
ロンがいて、ルイスがいて、義理の両親がいて、レストランの常連さんたちがいて。
「お母さん、どうして泣いているの?」
ルイスの声で私は我に返った。
「・・・ルイス。おいで。」
私はルイスを抱き寄せた。
家族三人、いやもうすぐ四人になる。
憎い存在でしかなかったシルビア。
でも今は感謝している。
だって私は、こんなにも幸せになれたのだから―。
~fin~