謁見
私はあの後、馬車に乗り王宮に来ていた。
そして今、国王陛下と王妃陛下の御前にいる。
私は膝をつき、頭を下げる。
貴族令嬢ならカーテシーだが私はもう平民なのだ。
「よく来てくれたな。リリス嬢。」
そう言ったのは国王陛下だ。
「リリス嬢、そんなにかしこまらないで。顔を上げてちょうだい。」
私は恐る恐る顔を上げる。
二人とも数年前見た姿のままだった。
「リリス嬢、今日あなたを呼んだのはあなたの家族であるオーギュスト公爵家についてなのだけれど・・・。」
王妃陛下が切り出す。
「シルビア嬢は今、牢屋に入れてあるわ。」
・・・・・・・・・え?
「な、何故・・・。」
シルビアが牢屋に入れられている?
そんなのはオーギュスト公爵家が許さないはずだ。
だってオーギュスト公爵家はシルビアを溺愛していたのだから。
「彼女、どうやら魅了魔法を使っていたみたいなのよ。」
―魅了。
それはこの国で「禁忌」とされている魔法だ。
男女問わず自分に心酔させることができる恐ろしい魔法。
それをシルビアが使っていたというのか。
「リリス嬢、あの女のせいで今まで辛い思いをしてきたんだろう?詳しく教えてくれないか?」
国王陛下が私に尋ねた。
そして私は国王陛下と王妃陛下に公爵邸での出来事を一つ一つ話し始める。
十歳でシルビアが公爵邸に訪れてからみんなが私を冷遇にするようになったこと、暴言を吐かれたこと、邸でいつもいないもの扱いされたこと、婚約者を奪われ、勘当されたこと。
「なんてひどい・・・!それも全てあの女のせいね。」
「公爵たちは今君にしでかしたことを理解して物凄い後悔に苛まれている。どうやら夜も眠れないようだ。」
(まぁ、あの人たちが・・・。)
驚くほどなんとも思わなかった。
私にとってあの人たちのことなんてどうでもいいようだ。
「それで、リリス嬢。王妃が、個人的に君に話をしたいと言っている。」
「ええ、リリス嬢と話したいことがあるの。」
王妃陛下が・・・?
一体何なのだろう。
私は別室へと通された。
王妃陛下が人払いをし、話し始める。
「調査で判明したことですがシルビア嬢の魅了は高位貴族でも自力で解けないほど強力なものでした。」
王妃陛下は私をじっと見据えて言葉を続ける。
「それなのに、あなたはその魅了にかかることはなかった。つまり―」
あなたには、聖女の資質があります―
王妃陛下から告げられた言葉は衝撃的だった。
私に聖女の資質がある?
「聖女は普通は王族と結婚しますが・・・私はようやく幸せを掴み取ったあなたをまた縛らせたくない。そう思いました。」
「王妃陛下・・・。」
「あなたには愛する人がいる。もし、聖女としてこの国を支えてくれるのならば、あなたに公爵位を授けましょう。その愛する人を夫として迎え、義理の両親たちにも何不自由ない暮らしを約束します。ちなみにあなたが聖女の資質を持っていることは国王陛下もまだ知らないから安心してね。」
王妃陛下の提案は一介の平民からすればとんでもないものだろう。
だけど私は・・・