王家
その日私は食材の買い出しで町を歩いていた。
(これくらいでいいかな・・・。)
「おい、知ってるか?オーギュスト公爵家が三年前に勘当したご令嬢を血眼になって探しているらしいぞ。」
―っ!?
私の近くにいた一人の青年が友人であろう青年に向かって言った。
「へぇ、そりゃまたなんで?自分から勘当したんだろう?」
もう一人の青年が不思議そうに尋ねる。
「さぁな。お貴族様の考えることは分かんねぇぜ。」
―公爵家が、私を探している?
―何故なの?
―何のために?
私は公爵邸での日々を思い出し、震えが止まらなかった。
レストランに戻るとカインさんとハンナさんとロンが深刻そうな顔で話していた。
「リリッ!!!」
ロンは私を見ると駆け寄って抱きしめてくれる。
「その顔・・・やはりお前もあの噂を聞いたのか?」
ロンの問いに私はこくこくと小さく頷く。
「大丈夫だ。リリは俺たちで守る。リリを虐げた公爵家のやつらになんか渡したりしないさっ。」
ロンは力強い声でそう言った。
「ロン・・・。」
それに続いて二人も声を上げた。
「そうだそうだ!リリちゃんのことは何が何でも守るぞ!」
「もちろんよ!」
「お義父様・・・お義母様・・・。」
だが、やはり平民ではどう頑張っても貴族に勝つことはできなかった。
「リリス・オーギュスト公爵令嬢ですね?」
一人の騎士が私に対して言った。
「違います。私は平民のリリです。」
「ご冗談を。その髪の色はオーギュスト公爵家の証。誤魔化せませんよ。」
この騎士はなかなか引き下がらなかった。
そんな時―
「リリ!!!」
ロンとお義父様とお義母様が向こうから走ってきた。
「おい!リリをどうしても公爵家に連れ戻すってんなら俺も容赦しないぞっ!」
ロンが私を背に隠した。
騎士はそんなロンを冷たい目でじっと見つめる。
そして次にこう言った。
「―我々は、王家の者です。」
・・・・・・え?
王家?
なぜ王家の人間が私を・・・?
騎士が王家の紋章の入ったものを見せた。
それでもロンたちは警戒を緩めない。
「王家の人間が、リリに何の用なんだっ!?」
王家の人間が私を探しているだなんて。
でも私は王家の人間とあまり関わった覚えがない。
「王妃陛下からの命により、あなたを探していたのです。」
王妃陛下。
国王陛下の唯一の妻であり、聖女でもある人物だ。
「何故王妃陛下が私を探しているのですか?」
「話したいことがあるそうです。オーギュスト公爵家と、シルビア嬢について。」
何を話すつもりなのだろうか。
「リリス嬢。分かりますね?これは命令なのです。断ればあなたもその周りの方々も命はないですよ?」
っ!
その言葉で私は覚悟を決めた。
「・・・分かりました。行きます。」
それを聞いたロンたちが止めに入る。
「リリッ!!!」
「ロン、お義父様、お義母様。私は大丈夫です。必ず帰ってきますから待っててください。」
「リリ・・・。」
未だ心配そうな目で私を見つめる三人を置いて私は騎士について行った。