勘当
今日は私の婚約者であるヘンドリック公爵家のラウル様が来てくれる日なのだ。
私は彼が大好きだ。
昔、ラウル様はいつも私に優しくしてくれた。
シルビアが来てからは冷たくなったが、彼を慕う気持ちは変わらない。
むしろこの地獄の公爵邸から抜け出せるならそれでもよかった。
私は今18歳でもうすぐラウル様と結婚する。
それだけが今の私の生きがいだった。
結婚して妻になればきっとまた昔のように優しく接してくれる。
そう信じていた。
だが、そんな願いは一瞬で崩れ去ることとなる。
「リリス、私との婚約を解消してほしい。」
会ってすぐ、そんなことを言われた。
「えっ・・・？」
ラウル様が私を見る目は氷のように冷たく、侮蔑と嫌悪を含んでいる。
「な、何故ですか！？私の何がいけなかったのでしょうか！？」
するとラウル様は苛立ちを含んだ声で私に冷たく言い放った。
「見損なったよ、リリス。」
「えっ・・・？」
「君はずっとシルビアに嫉妬して嫌がらせをしていたんだろう？」
（何を・・・言っているの・・・？）
「シルビアが言っていたぞ。君がいつもこの邸から出ていけだのなんだの嫌味を言ってくると。」
「私はっ・・・そんなことしていませんっ！」
「シルビアが嘘をついているというのか！？」
（ラウル様・・・どうしてなの・・・！どうして私を信じてくださらないの・・・！）
「・・・このことは公爵にも伝えておく。そんなことをする女を妻にするわけにはいかない。そして私はシルビアと正式に婚約を結ぶことにするよ。」
そして私は、お父様に呼ばれた。
久しぶりに入るお父様の執務室にはお母様とお兄様もいた。
3人とも私を蔑むような目で見つめている。
「まさかシルビアにそんなことをしていたとはな。お前は勘当だ！！！」
「恥ずかしいわ。こんなのが一時でも私の娘だったなんて。」
「二度と俺の前に姿を現すな！！！」
そうして私はあっという間に勘当され、公爵家から追い出されてしまった。
廊下を歩いている時使用人達からは
「あの女、追放先で野垂れ死んでしまえばいいのに。」
「シルビア様に嫌がらせをするなんて万死に値するわ。」
などとひどいことを言われた。
私は自室にあった物を持ちだすことすら許されず、家を追い出された。
（何故なの？何故・・・こんなに人に嫌われなければいけないの？私が何をしたっていうの？）
そう思いながら、私は市井を一人歩いていた。
自身がシルビアのように愛想が良く、皆から愛される子であれば。
何か違った未来があったかもしれない。
「あっ」
私は段差につまずいて転んでしまった。
（あぁ・・・私このまま死ぬのかな・・・。うん、でもそれも悪くないかもしれない・・・。）
そう考えながら、私は目を閉じた―
