オーギュスト公爵家③
父の執務室から出たアーノルドは自室に戻り、座り込んでため息をついた。
「ハァ・・・。」
アーノルドは魅了が解けてからずっとこんな感じだ。
「リリス・・・。」
リリス・オーギュスト。
たった一人の妹であり、目に入れても痛くないほどに可愛らしい存在。
それがいつからシルビアに変わったのだろうか。
(何故だか分からない。何故かシルビアを見ると守りたいっていう気持ちが強くなって・・・。気づけば彼女に妄信していた。)
魅了魔法とは恐ろしいものだなと思った。
シルビアの言うことを全て信じ、妹を追い出してしまった。
父は仕事が手につかないほどで母はあれからずっと寝込んでいる。
アーノルド自身も疲れ果てていた。
鏡に映る自分はひどくやつれていて、20代前半だとは思えないほどだ。
医師によると、魅了魔法の後遺症のようなものらしい。
アーノルドと、公爵、公爵夫人、そしてオーギュスト公爵邸の使用人たちはシルビアと一緒にいた時間が長い。
つまり、魅了魔法にかかっていた時間も長かったということだ。
だからこんな風に後遺症が残ってしまったらしい。
(・・・私は、これから何をすればいいんだ・・・?)
自室のベッドに横になって考えた。
今までは公爵位を継ぐために父の仕事に同行し、勉学に励んできた。
だけど今の自分はとてもじゃないが公爵位を継げるような状態ではなかった。
ふと最後に会ったリリスの言葉を思い出した。
『私は・・・どうしても思い出せないのです。確かに、十歳の頃までは貴方達に愛されていたと思います。ですが、その時のことがもうほとんど思い出せません。今の私にとって貴方達は家族だった人たちです。それ以上でもそれ以下でもありません。それに私には・・・新しい家族がいるのです。』
(家族だった人たち・・・か。)
自分には傷つく資格もない。
分かっているが胸がズキンと痛んだ。
リリスにとってこの公爵邸には辛い記憶しかないはずなのに、アーノルドたちはリリスを連れ戻そうとした。
(・・・今考えてみると物凄く自分勝手だったな・・・。)
自分もそのうちの一人なので家族たちに文句は言えないが。
それでも公爵たちはリリスに戻ってきてほしかった。
シルビアが現れる前までは確かにリリスを愛していたし、話せばきっと分かってくれるだろうと思っていた。
リリスはようやく幸せを掴み取ったのだ。
今幸せの絶頂にいるだろう。
それだけがアーノルドにとって嬉しかった。
(リリス・・・。すまなかった・・・。そしてどうかこれからもずっと幸せでいてくれ・・・。)
アーノルドは心の中でもう一生会うことのない妹の幸せを願いながら、目を閉じて眠りについた。




