プロローグ
私はリリス・オーギュスト。
オーギュスト公爵家の長女だ。
父と母は貴族には珍しい恋愛結婚で私とお兄様はそれはそれは愛されて育った。
幼少の頃から家族の仲は良く、私を愛してくれる婚約者様もいて、その時私はこの先もずっとこの幸せが変わらないのだと信じて疑わなかった。
そんな時だった、彼女が我が家にやってきたのは。
彼女の名前はシルビア・ヘインズ。
お父様の弟君であらせられるヘインズ伯爵家のご令嬢だ。
私やお兄様にとっては従姉妹にあたる。
どうやらご両親が不慮の事故で亡くなってしまったようで我が家で引き取ることになったそうなのだ。
お父様がお母様とお兄様と私の前に彼女を連れて紹介した。
お父様は何故か彼女を気に入っていて、その目は私たちと一緒にいるとき以上に優しかった。
そしてお父様だけではなくお母様とお兄様も使用人達でさえシルビアを気に入り、彼女に対して過保護になった。
私も歩み寄ろうと努力した。
だが何故だがいつもシルビアに誤解されてしまうようだった。
その度に両親やお兄様から叱責され、私は使用人達からも白い目で見られるようになった。
今では私の味方は邸には誰もいない。
毎日のように冷遇されている。
今日もまた、いつもと同じ光景が目の前に広がっている。
「シルビア、美味しいかい?」
お父様が優しくシルビアに問いかける。
「はいっ!とーっても美味しいです!」
シルビアが笑顔で答えた。
「あらシルビア。嫌いなものもしっかり食べなきゃダメよ。」
お母様が苦笑いしながらシルビアに言った。
「えっ・・・は、はい・・・。」
シルビアが悲しそうに目を伏せる。
「まぁまぁ、母上。いいじゃないですか。シルビア、それは私が食べてあげよう。」
お兄様がシルビアの皿に手を伸ばす。
「わ~っ!ありがとうございます!お兄様!」
それを使用人達は微笑ましい目で見つめている。
ここだけ見れば、さぞ幸せな家族だろう。
私さえいなければ。
私だけ一人黙々とご飯を食べている。
家族はそんな私を気に留めない。
3年目なのだからもうほとんど気にしていないが。
私は食べ終わるとすぐに席を立つ。
幸い食べるのが早い方だったのですぐにあの嫌な空間からは抜け出すことができた。
自室へと戻って一息つく。
(いつから・・・こうなったんだっけ・・・。)
昔は、お父様もお母様もお兄様も私に優しかったような気がする。
まぁ、うろ覚えで今じゃもうほとんど思い出せないが。
私はこの公爵邸では完全に「いないもの」である。
使用人達も私の言うことを聞いてくれないし両親も兄も私を無視する。
だけどもうすぐだ。
もうすぐこの地獄が終わる。