絶望
「リア。すまない。私は多分‥」
「問題無い。一人引き受けてくれれば充分。リヴァイアサン、ルナを魔力が引き込まれないぐらい遠くのところで守って。」
リアはリヴァイアサンを召喚すると気絶したルナを引き渡した。
「エルフ風情が。どうやら見抜かれているようだな。」
ラダマンティスがつまらなさそうな顔をする。
「貴方は今吸収した魔力を他の魔族に供給出来る。その魔力回路が既に構成されていた。つまりルナみたいに魔力量膨大な子がいると全員が強くなる。」
だからこそリアはルナを気絶させたのだ。
そしてラダマンティスの干渉できない遠くまでルナを避難させた。
「二人ずつを相手にするの。無謀。我らを舐めている。」
「違う。三人纏めて私が相手する。」
「それを舐めているという。」
アイアコスが剣を抜きリアの元へと向かう
「見えてるよ。」
アイアコスが気がついたら時にはリアの剣の切先が首筋にまで来ていた。
アイアコスは何とか反射神経で剣を交わして後退したが額には冷や汗が流れていた。
「あの女以前にも増して未来を視る力が研ぎ澄まされてやがるなぁ。アイアコス。ここは共闘といかねぇか?俺はあの下等種族を匿ってるリヴァイアサンとかいう奴を引きずり出さなきゃならねぇ。」
「俺も同意だ。あの人外化け物のクララとか言うやつ。今は無能の極みだが潰しに行こうとしたらエルフの奴、しっかりと反応している。凄く邪魔だ。」
「分かった。元々実力差が一番なかったのは俺だ。奴を潰す。」
リアにとって一番苦しい状況となった要因。
それは相手に一度敗北を味合わせる事によって自分一人で倒す等という自己中心的な空気感にならなかった事であろう。
一人ずつであれば向かってくる相手に集中すればいい。
だが三人同時でクララを守りながらとなると容易ではない。
「エクスプロージョン!」
「ライドソードバージョンX!」
ヒュプノスとアリエスの方はほぼ画角だ。
そんな中で近接戦闘向きのラダマンティスやアイアコス。状況に応じてどちらでも対応できるミーノスがヒュプノスに加勢するとこの均衡がすぐに崩れてしまう恐れがあった。
リアは三人からの猛攻を捌く。
ミーノスは今回アイアコスのメモリーをセットして3人一気に近接戦闘で畳み掛けてくる。
恐らくは誰の手柄かを明確にするためだろう。
「ちぃ全く隙がねぇ」
「全てを見透かされているような気がする。」
「だが、チャンスはあるような気がする。上手くカバーされてる。これは‥」
「女の勘。」
リアは汗を垂らしながらそう答えた。
実際に戦闘においてこの勘ほど一か八かの時に役に立つスキルは無い。
現に今回の戦闘でも先を読むアイアコスの反撃を間一髪の所で捌いた事もあった。
形勢はリアの方が優勢だった。
リアの中ではキリヤさえ目覚めてくれれば状況を打開できる。そう言った信頼があったからこそ勝ちではなくあくまでも時間を稼ぐ事に注力していた為気持ち的にも楽だった。
クララを庇いながらも3人には徐々に手傷を負わせ追い込んでいく。
戦闘能力では要やフィリアスとも引けを取らない状態になってきていた。リヴァイアサンからの力の影響もあるのだろう。
三人をどんどんと追い込んで行くリアだったが二つ誤算があった。
一つは自分と対峙しているのが三人では無く四人であると言う事だった。
そろそろ勝負が決まりそうというタイミングで指をパチンと鳴らす音が聞こえた。
勿論仮面の男の動向にも意識はあった。
だが特に怪しい動きもなかった為特に注視はしなかった。
しかし、リアにはもう一つ誤算があった。それは仮面の男の能力だった。
もし、リアの想定していた能力が誤っているものだとしたら。そこまでの気は回っていなかった。
気がつくと仮面の男は消えてキリヤの顔を掴んでいた。
「キリヤ!!!!‥‥‥え?」
キリヤの方向を振り返った時にそこに仮面の男はおらず何事もなかったのようにキリヤが目を覚ましたタイミングだった。
リアがキリヤの方を向き、気を逸らして数秒。今の魔族三人にとっては十分すぎる時間だった。
「がっぁぁぁぁあ!!!」
両腕に激痛が走った。
クララが泣きながらリアの名前を叫ぶ。
「残念だったなエルフ。俺の能力は対象の状態そのものを一定時間戻す事だ。あいつらは記憶を呼び戻したのではない。一番しんどい時の状況に魔法を放つ前の状態に一定時間戻しただけだ。」
リアはずっと気が付かなかった。
戦闘開始から今まで手のひらで踊らされていた事に。
魔族は仲間では無く使い勝手の良い捨て駒感覚だったのだろう。
死んでも生きててもどちらでも良い。使えるだけ使うといった形で
キリヤが一番絶望するタイミングで一番絶望するシチュエーションを用意するために動かしているに過ぎなかったのだ。
能力を勘違いしていたリアなど造作も無かったはずだ。
リアはキリヤがコチラを向いてくるタイミングで胸元を貫かれた所で意識がなくなった。
「り‥‥‥りあ?」
「きゃぁーーーはははは!なんて無様だ。愛する人を目の前で何度も殺されて絶望した顔。実に快感だ。‥‥‥ん?」
仮面の男はキリヤの様子に違和感を感じて少し近寄る。
「チッ壊れてやがる。面白くも無い。」
キリヤの目には彩が無くなり完全に壊れてしまっていた。
「そのエルフだけは復活されたら面倒だ。能力を把握された上に未来まで見られて鋭い勘まで持ってたら今後処理するのに時間がかかる。俺自身も能力を使い過ぎた。殺しておけ。その他の奴らは捕えろ。その男が正気に戻った時に何度も絶望を味合わせてやる。」
「ファイヤーショット!」
リアの首を刎ねようとしたアイアコスの剣を要が撃ち落とした。
「ちぃ面倒だ。いっそのこと全員殺っちまえ!!」
ラダマンティスとアイアコス、そしてミーノスと仮面の男が一斉に二人に向かっていった。
「究極合体!!行けタダサズ!」
窮地を救ったのはしぶとくも生きながらえていたドーメルだった。
だが、タダサズの究極合体はパワーアップ前の魔族に瞬殺されていた。
「2度も同じガラクタで時間を稼げると思うなよ!」
「転移!!!」
ドーメルの言葉に一同が足を止める。
また遠くに飛ばされたらそれこそ逃げられてしまう。
体制も整えられてしまう可能性がある。
「時間は稼ぎました。古くからの約束。果たしましたよ。明日香さん。」
ドーメルはそう言い残すと消えて行く。
「チッ!映像か!まんまと騙された。」
今回のタダサズとドーメルの役割は過去の経験段から転移を使うと思わせて数秒の足止めをする事だった。
その数秒でキリヤ一同は全員光へと消えていった。誰かが時空の狭間へと誘うかのように。