平和な未来へ
上空に飛んでから少しして白い雷が落ちていくのを確認した。
「あっちはそろそろ終わりそうかな?」
俺はマジックバリアを足場にして魔族と対峙する。
「人間がときが我に歯向かうとは。」
今上空に魔族がいることにより街は大混乱に陥っている。
「人間は人間らしく下にいる奴等のように我らに怯えながら暮らしていればいいものを。」
「あーもう、そういうの良いから。上とか下とか興味ないんだよね。それよりも…」
俺は指をポキポキと鳴らして剣を握った
「こっちには約束があるんだわ。これ以上国を荒らされたら色々と面倒でね。」
「ふん、愚かな…人間風情がどれだけ耐えられ…」
俺は一気に間合いを詰めて剣を振う
「なっ…」
すかさず防御されるも思いっきり吹き飛ばした。
「人間だと甘く見ていたが中々やるようだな。良いだろう。全力で行かせてもらう。」
魔族は力を溜め込むような素振りをするとどんどんと大きくなっていく。外から何かの力を吸収しているようだ。
だけど正直な所……
「本気を出すまでも無いな」
魔族が振りかぶった時に一撃剣で薙ぎ払った。
魔族は悲鳴をあげて消滅して行った。
この戦いは多くの国民に目撃されてしまっていた。
国のヒーローになるのは色々と面倒だ。
俺は国民に向かい剣をかかげた。
「我が名はキリヤ。ルミナス王国ユリアス及びフィリアス殿によって未来より召喚されし者。この国は魔族の手にかかりそうになっていた。危機を感じた二人は我を召喚し共に魔族を討ち払おうと。王城で一頭、今ここで一頭。ルミナス王国の手で全ての魔族を討ち払ったぞ!!!」
国民はうぉぉぉと拳を突き上げ歓声を上げる。
この噂は国中瞬く間に広まって行った。
一芝居も打ったことだし、フィリアスの方も心配だ。
俺は急ぎ王城へと戻った。
「兄上様!!兄上様ぁぁ!!」
王城へと戻ると、何か吹っ切れてスッキリとした顔立ちのユリアスが横たわっていた。
そう、長くは持たないだろう。
「フィリアス…か?すまな…かっガハッ」
フィリアスはずーっと回復魔法を使ってギリギリの所を引き伸ばしている。
「良いんです!それよりも兄上様しっかりして下さい!!兄上様が望んでいた平和で平穏なルミナス王国はこれからなんです!!」
「俺が…愚かだったな。聖女の加護による力の支配を恐れて対抗しようとして自分が力に溺れてしまうとは…
お前の力とお前の事、最後まで信じてやらなかった兄を許してくれ。」
「最後なんて言わないで下さい。私がなんとかしますから!私だけではダメなんです。頭も弱いし家事だって一つこなす事さえ出来ないんです。また二人でやり直しましょう。」
フィリアスの目からはボロボロと涙が溢れている。
何で俺ってこうもそんな役回りになってしまうんかなぁ…
「ユリアス……」
「キリヤか…迷惑をかけたな…妹を宜しく頼むよ。」
これだけボロボロになっていれば、自分の死ぐらい悟るよな…
「ユリアス……俺はお前を許さない。」
ユリアスは限界を感じながらも少し驚いた雰囲気だ
「お前のせいで俺はバカなお前の妹に勝手に名前をつけられてた挙句忠誠を誓わさらて兄弟喧嘩にまで巻き込まれて散々だ!挙句の果てには妹を宜しくだ??ふざけんな!
こんなガキの面倒見るのは散々だ、ガキの面倒ぐらい自分で見ろ!」
「………ったく。女の子にボロボロや泣かれんのは昔から好きじゃねぇーんだよ。」
人一人の失いかけている命、そのダメージそのものを無かった事にするなんて、どんぐらいの魔力消費すんだろ。
まぁ無くなったら無くなったで城で休ませてくれんだろ。
こんな馬鹿げた力なんて使いたくは無かったさ。
「パージ」
ユリアスの魔族による力の供給。フィリアスの攻撃による体へのダメージ。
全て無かったことにしてくれ…
ユリアスの顔色が良くなってきているのが分かった。
一方で自分の体はとてつもない倦怠感に襲われて一気に全ての力が抜けていくような気がした。
「あれ……ヤバいかも。」
目の前がぐるぐると回っていく。
フィリアスの叫び声がかろうじて聞こえる。
ユリアスはどうなったんだ??
自分に今何が起こっている?
何もかもが分からなかった。ただ一つ分かったのは自分の意識が遠のいている事だった。
「ん……ここ…は??」
俺はうっすらと目が開き始めて自分が何とか生きている事を認識した。
まだ目はボヤけているが、何となく手にポカポカとした温もりがあった。
「……フィリアス??」
視界が段々とハッキリしてきて、ここは城内の一室で傍でフィリアスが看病してくれていたのか、スヤスヤと寝ている
「……んにゃむ…んん……キリヤ??目が覚めたのか!!」
フィリアスも目を覚まし、目を覚ましている俺に気がつくと目をかがやかせた。
「これは一体どう言うこおぃっ!!」
まだ現状が把握出来ていない状況であるにも関わらずフィリアスは俺に抱きついてきた。
「あんな馬鹿げた技二度と使うな。完全に魔力が0になって死ぬ所だったんだぞ!」
あーそうか。魔力って無くなると死ぬんか。
フィリアスは目に大粒の涙を浮かべている。
「おいおい、だから泣くのはやめろって。」
フィリアスは目をゴシゴシと擦るとすぐに泣き止んだ。
「それにしてもキリヤ、私のキュートな寝顔といい熱い抱擁と良い役得だったと思わない?」
フィリアスはニヤニヤとしながら変わらずに煽ってくる。たまには違った路線で弄ってやろう。
「……あぁ。最高に可愛かった。」
「そうかそうか……??はっはニャァっ」
フィリアスは分かりやすく目をぐるぐると回し、みるみる顔が赤くなっていく。
はニャァって何さ…
「目ぇ覚ましたら手まで握ってくれちゃっててさ」
「よ…よせキリヤ」
「あの熱い抱擁なんて…」
「やめろぉぉぉ!!」
フィリアスは耳から湯気をポッポーと出すとポカポカと殴りかかってきた。
こういう弄りもありだな。
フィリアスと、こういったワチャワチャする事も随分楽しいと思い始めて来ていた。
だけどお互いずっと一緒には入れないことは分かっていた。
「キリヤ殿目を覚まされたか。」
国王が、俺が目を覚ましたとの情報を聞きつけて顔を出しに来てくれた。
「お陰様で無事目を覚ましました。」
「キリヤ殿、お疲れの所申し訳ないが少し話があるんだ。」
大方予想通りだった。
この後褒美の話とか勲章とかの話になるんだろうが、俺はそういう類はゴメンだった。