リアの成長とアイアコス再戦
「着いた。ここが訓練場だ。」
リアはユグドラシルに連れられて森の奥深くまで来ていた。
「ここは‥?」
「やる事。簡単」
ユグドラシルが指をパチンと鳴らすと仕掛けが発動しユグドラシルに向かって無数の槍が襲い掛かる。
「危ない!!」
リアが槍を振り落とそうとするのをユグドラシルは制した。
「ここ。」
ユグドラシルはスッと体を動かして止まると無数の槍はどこも掠らずに素通りして行った。
「凄い。」
「お前、これが出来るようになれ。」
「でも、どうやって。」
「ハッキリ言う。お前が今一番弱い。才能も無い。加護も見劣りする。ただのエルフ」
リアは唇を噛み締めた。
リアが一番分かっていた。他の仲間と比べて血筋もただのエルフ。加護も精霊と簡単な意思疎通が出来るレベルだ。
正直に言って何を取っても誇れるものがなかった。
「だが、一番弱くめぐまれてなくても君は一番強くなれる。勿論危険な修行。死と隣り合わせ。最初は傷だらけになる。やるか?」
「やる。私はもう足手纏いは嫌。強くならなければならない。」
「分かった。じゃあ目を瞑って動きを感じろ。立て続けに攻撃がくる。風に、そして大地に耳を澄ませるんだ。僕らが目指すのは相手の行動の未来を掌握しダメージを受けない事。」
「分かった。」
リアは目を閉じて意識を集中させた。
ユグドラシルがパチンと指を鳴らすとリアに向かって無数の槍が襲いかかる。
「感じる。物の動き。流れ。でもまだハッキリと…うっ!!」
槍を避けながら意識を集中していたが、槍が脇腹を深めに掠ってしまう。
ハッと気がついた時には心臓に向かって槍が飛んできていた。
間に合わない!!
その時はユグドラシルが槍を叩き落とす。
「この槍は無数に飛び交う。けど、実戦に備えて確実に即死になる攻撃もある。痛みで気を散らすと本気で命を落とす。気を抜くな。次は見捨てる。」
ユグドラシルはリアにヒールをかけると距離を取りまた指を鳴らした。
ーーーーー
「貴様強くなったようだ。だが俺には勝てない。」
「やってみればわかる。」
リアは目を瞑って息を吐いて意識を集中させた。
「もらった!!」
アイアコスは目を瞑った相手など造作もない。
などと思いながら間合いを詰めてリアに斬りかかった。
「聞こえる。相手がどのタイミングで、どう切り掛かってくるか。空気の流れ。大地の振動。全てが聞こえる。見える!」
「ぐっ!!」
「浅かった。」
アイアコスも不意をつかれた形にはなったが反射神経とリアの筋肉の動きで自分の行動を察知されていると分かったのだろう。
致命傷にはならずにリアの斬撃を何とかかわした。
「油断した。だが次同じ手は効かない。なっ!!ぐぁぁああっ!!」
アイアコスが珍しく声を荒げる。
気がついたらリアが目の前にいて腕に斬撃が繰り広げられていた。
「ただ、避けるだけが能力だと思わないで…」
ーーーーーーー
「目を瞑っての修行。もう出来る。次のステップに進む。」
数日間の修行の成果もあり、槍はリアを掠める事は無くなっていた。
「次は実践。目を開いて、俺から一本取ったら終了。」
「分かった。でも私も実戦は積んでる。そんなに時間はかからなっ……」
リアは決して気を抜いたわけではない。
しっかりとユグドラシルを相手に剣を構えていた。
しかし、既に首元に剣があったのだ。
「戦場だったら死んでる。気を抜くな。風。大地との会話を怠るな。」
どうしてこうなったのかを教えてくれないユグドラシルに対してリアはムスッとして頬を膨らませた。
「……まぁ言いすぎた。」
案外素直な所もあるんだなぁとリアは思いながら再度剣を構える。
「簡単に且つ大袈裟に説明する。」
ユグドラシルは小石を拾って真横に投げた。
「なっ!!」
すると気がつくと目の前にユグドラシルがいて再び首元に剣が据えてあった。
「対峙しているのは人間。即ち生き物。生き物は無意識的に行う動作や癖がある。今、リアは小石を目線で追った。それも無意識。
相手の魔族。筋肉の動きを見ると聞いた。数手先が見えると。
だが、魔族とて生き物だ。必ずそいつの癖や視線の動きなどがある。それを察知できるようになれ。」
「目の動きさえも風に聞くって事?」
「その通りだ。空気に触れている物の僅かな振動も見逃すな。自分の思うがままに誘導しろ。そして未来を掌握しろ。未来を掌握した者。敗北など無い。」
「分かった。貴方から一本取った時。私は魔族の未来を掌握する!行くよ!!」
リアは剣を構えて気合いを入れ直す
そしてユグドラシルに全集中をして対峙をして、斬りかかった。
「おっ、リアここだったのか。」
キリヤの登場と共にパチーンという木刀の音が鳴り響いた。
もちろんリアの視線はキリヤの元に行く。それと共におでこに広がる激痛と共にリアの目の前がスーッと真っ暗になって行った。
「ん…んん。」
気を失ってから数時間ぐらい寝てしまっていたのだろうか。
リアは目をゴシゴシと擦りながらボヤける視界が鮮明に見えてくる。
頭がポカポカと温かい。
「おはよう、リア。大丈夫か?」
自分の瞳の中には大好きなキリヤが膝枕をして頭を撫でているという夢のような光景が広がっていた。
「夢か…」
このまま夢がずーっと続いてほしい。
もし夢じゃなかったらそれはそれで良い。
そんな複雑な感情を抱きながら再び目を閉じる。
「夢じゃ無いぞ。」
少し腹の立つ男性エルフの声が聞こえて、イラッとしながらも慌てて目を覚まして、起き上がった。
「リア、すまない、タイミングが悪くて。」
「気にするな。仲間のピンチで気を逸らしたら。こいつは死ぬ。だから複数人パーティは嫌いなんだ。」
相変わらず素っ気なく冷たいユグドラシルの対応に本当にこの人は未来の霊樹本人なのかと疑いたくもなる。
「でも、ユグドラシルも複数人で動いてたじゃ無いか?分かってるんだろ。1人で出来る事には限度があるって。」
「………今日は暫く休め。リア、数日間寝てない。体壊したら困る。俺の唯一の弟子だからな。」
ユグドラシルは踵を返すと、一人で何処かへと行ってしまった。
掴みどころが分からないのは相変わらずなんだな。
「キリヤ…眠い。続きして。」
リアは目を擦りながら俺の膝に頭を置いて目を瞑った。
程なくして可愛い寝息を立てて眠り出した。
タイミングもそうだが俺に拒否権は無かった。
頭を撫でながら俺は目を瞑りリアと共に眠りについた。
「はぁぁぁぁっ!!」
リアの大きな声とパチーンという剣の音で俺は目を覚ました。
目を擦って視界が開けるとそこにはユグドラシルの首元に剣を添えているリアの姿があった。
「合格だ…」
ユグドラシルにとっては、まさか一晩でと驚きの顔と少しばかり悔しさに満ちた顔があった。
ユグドラシルは俺が目を覚ました事に気がつくと近寄ってきて膝をついた。
「少年。貴方はリアの力の源であり、原動力だ。決して無理はせずその自覚を持ってほしい。我が弟子にして歴代最強となり得る可能性のある器だ。これからも宜しく頼む。」
改めてこう言われるのも何だか少し恥ずかしい。
だが、リアもユグドラシルの弟子という表現には満更でもなさそうだった。
「あぁ。任せとけ。」
ーーーーーー
「ほう、そんな事があったのか。」
フィリアスは何か物言いたげな表情で俺の話を聞いていた。
何か相変わらずタイミングの悪い男だのぉ。
なんて言いそうな顔をしているなぁ。
だけど、あのユグドラシルから一本取ったリアならアイアコス程度造作もないだろう。
再び俺はリアに視線を移した。
「そうか、お前も強くなった。それは認める。だが勝つのは俺。何故なら俺は未来が見える。」
アイアコスは目を大きく見開いていた。
腕は斬られて相当な痛みが走っているはずだ。
少し気が動転しているように見える。
「気が動転しているように見えるだけ。
ちゃんと目は私を見据えている。
私の動きを性格に捉えようとしている。」
リアはアイアコスとの間合いを詰めるように走り出した。
「剣の舞!!」
「馬鹿め!同じ技は通用しない!再び切り刻んでくれる!!右左縦右斜ガッグッがぁぁぁぁっ!!」
アイアコスの読みとは裏腹に浅くはあるが斬撃が徐々にヒットしていく。
「はぁはぁ……何故だ。何故攻撃が当たる。ちゃんと筋肉の動きはハッキリと見えている。間違えてないはず。未来は見えているはず。」
「最後に一つ。教えてあげる。アイアコス。もう剣の舞から逃れられない。貴方の癖は全て見切った。貴方の未来。私が掌握した。」
「そんな筈はない。俺にはハッキリ見えている!お前の筋肉の動…き…が??」
ここでアイアコスは何故筋肉の動きを察知するのではなく、ハッキリと見えているのか疑問に思った。いつもよりも明確に、ハッキリと見えているのだ。
それがリアに見せられている動きだと気がついた時には遅かった。
もう、無意識的に追ってしまう癖はどうしようもできない。
敗北が目の前にある窮地では尚更だ。
「これで、終わり。剣の舞。」
無数の斬撃は全てアイアコスにクリーンヒットした。
アイアコスは何もいう事なく砂のような塵へとなって行った。
「ユグドラシルの一番弟子、リア。貴方なんかには負けない。」
リアが剣をしまう姿はカッコよくて且つ綺麗な佇まいをしていて見惚れてしまう程だった。