鈍感な男
「父上様フィリアス只今戻りました。」
「おぉ戻ったか。」
「あの、得体の知れない奴はもう帰ったのか?」
「ゆっユリアス兄様、はい、また旅に出られるとの事で助けて頂いた場所でお別れしました。」
フィリアスは、背筋を伸ばして頬に汗がつたっている。何が見えているのだろうか。
「そうかよ、んで?何かウチに有益になる収穫はあったかよ?」
「いえ?まだ旅も始まったばかりで、他の地域の事などは何も存じ上げておりませんでした。」
ユリアスは使えねぇなぁと舌打ちをするとそっぽを向いた。
「父上様、一つ相談なのですが、私も今後のルミナス王国の事を考えた上で王族としては勿論なのですが、一人の女性として男性を支える一つの嗜みとして、料理などの家事が出来るようになるべきだと思うのです。なので、暫くの間厨房での料理の勉強をさせて頂きたいのですが……」
「ふむ…しかしフィリアスは聖女の加護を持っている。そちらの力を使いこなせるようになった方が国のためにはなると思うのだが…」
国王の意見はごもっともだ…
一旦作戦は仕切り直しか…
「いいや父上様、フィリアスが聖女の加護を持っている事は事実、ですが聖女の加護の力を使いこなせるようになるかどうかもまだ不透明。あらゆる可能性を想定して一人の女として一人前になっておくのも良いのでは無いでしょうか?
……それにフィリアスの奴、助けられたからかキリヤとか言う男に惚れ込んでそそのかされたのかもしれません。女ってのはそう言うタイミングのが伸びやすいんですよ。」
ユリアスはニンマリと笑いながら国王に助言をしている。怪しさ満載だ。
「ちっ違います!!私はただ…」
フィリアスは顔を俯き少し赤らめている。こいつ意外と演技上手いんだな。
「そうかそうか。ユリアスが賛成するのであればよい。好きにすると良い。だが、怪我はするなよ」
「はい、ありがとうございます。それでは私は部屋に戻ります。」
最後のユリアスのニヤリとした顔を俺は見逃さなかった。
ーーーー
ユリアス目線
「おいグロウ!」
「ユリアス様…お呼びでしょうか??」
「フィリアスの奴厨房で料理の勉強をするらしい。メイドに化けんのも慣れたろ?毒を盛ってじじぃに食わせろ。フィリアスに責任を押し付けて奴を国から追放する。」
「かしこまりました。」
グロウはスゥーっと消えていった。
「フィリアスのやろう生きて帰ってきたと思ったら自分から将来を絶とうとするとは愚かな奴だ。これで俺が…ククククク。あーっはっはっはぁ」
ーーーーー
「フィリアスさま。お着替えはどうなさいますな?」
「部屋に置いといて。自分で着替えるから入ってこなくて良いよ。」
「かしこまりました。」
フィリアスの部屋に入り付き人を部屋の外に出した事を確認して隠密を解いた。
それにしてもフィリアスって本当に王族なんだなぁ。
「本当に違うからな…」
は??なんで、体を震わせてるんだ??
「私がキリヤに惚れ込んでるとかって話!本当に違うからな!!」
……はい??
今その話持ってくるんか?
「大丈夫だって分かってるから。」
「ちっとも分かってない。」
適当にいなすと、フィリアスが何かぶつぶつ言った気がした。
そしてジーッとこちらを見ている。
「何だよ?」
「着替えたいんだけど。」
何かムスッとしててよく分からなかったが流石にガン見する訳にもいかなかった。
「ねぇ、キリヤ、レディーが一緒の部屋でお着替えしててドキドキしない?」
フィリアスがクスクスと笑っているが全くドキドキしない。
むしろ、この退屈な時間早く終われとさえ思っている。
「バーカお子ちゃまのお着替えでドキドキするほど俺はガキじゃねぇーよ」
何故かバリーンと音がして頭に激痛が走る
「いってぇぇ何すんだ!」
フィリアスは思いっきり近くにあった花瓶を投げつけてきていた、俺が振り向こうとする
「ひゃぁぁっまっまだ見るなぁぁ」
フィリアスはまだ途中だったようだ
バタバタと足音が近づいてくる
「隠密」
おれはすかさず姿を消した。
「フィリアス様!!今大きな物音がしましたが大丈夫でしょうか??」
「ゴメン手が滑って花瓶をね」
「お気をつけて下さい。怪我でもしたら危険です。今片付けを」
「あぁ良い良い!!私が片付けるから!それよりもまだ着替えの途中だ、席を外しておいてくれ。」
「そうですか……かしこまりました」
付き人は残念そうな顔をしながら戻って行った。
付き人がいなくなった事を確認して隠密を解く
「姿を消して私の事見たりしてないよね?」
「見てねぇーよ。それに見られて困るようなもんねぇだろ。」
「お前はレディーの扱いを一度一から学ぶべきだな!!」
フィリアスは牙を出しガルルルルとこっちを威嚇しているように感じる。
「冗談だよ。それよりも早くしろ。過保護な付き人がまたいつ来るか分からないしな。」
「………バカ」
最後にフィリアスが何か呟いたような気がしたが気のせいだろう。
「……待たせたな。」
後ろを振り向くとフィリアスがメイド服のような格好をしていた。少し可愛いと思ってしまったのはここだけの話にしておこう。
「じゃあ、行くか…」
頬をポリポリと掻きながら目線を逸らす。
「待ってキリヤ…その…さっき兄上様会った時なんだけどね。既に兄上様から人間ではないようなドス黒いオーラが出ていたの。付き人のグロウもそうだった。
もしかしたら急な戦いになるかもしれないから、覚悟だけしておいて。」
正直そんな気はしていた。
けど、付き人まで巻き込んでいたとはな。
いずれにせよ、聖女の加護の力を使えるフィリアスもいて、俺もタイムトリップで急成長している。中途半端な敵には負けないだろう。
「あぁ分かった行こう。」
俺は隠密で姿を消してフィリアスの後を着いて行った。