魔族の強襲と加護の真実
「……んってて。。」
キリヤ達が過去へと向かって少し時間が経った頃、紬は首元の痛みを感じながら目を覚ました。
「はっ!ハジメは??」
紬は幼馴染のハジメを止める最中で気を失った事を思い出して、辺りを見回した。
「もう行ったよ。どうせ止められない事分かってたくせに。」
紬が気を失ってからは朱理が紬の事を見てくれていた。
「私はあそこで嘘はつかない。本当に止めたかったさ。」
自分の無力さに歯痒さを感じていた。
その時だった。
また先ほどよりも大きな地響きが鳴り、空が裂けるように歪みが出て来た。
「クソッよりによってこのタイミングで…」
紬は空を見上げたがあまりの光景に膝が震え腰を抜かした。
「なん…だあれは?」
空からは大型の魔物群れ。そして明らかに人では無い人型の何かがいた。
「ラダマンティス、ミーノス、アイアコス、ヒュプノス。何で…」
アリエスは震え上がるように声を上げた。
100年前デイユドメールを襲撃した魔族4体までもが襲撃に参加して来た。
「朱理!お前だけでも逃げろ!!」
「そっそんな事出来るわけ…」
紬も朱理も震えながらに叫びあった。
長谷川朱理も地響きの時に全員を避難させようとしたが、魔力が全く足らなかった。
「ハジメが過去で未来を変えたように、私達のこと、助けてくれ。スマン私には力足らずで才能もなく何も出来ない!
何でもかんでも押し付けたくはなかった。けど、今は朱理しかいないんだ。このクラスを救ってくれ。」
紬は朱理の肩を掴んで声を強めた。
朱理も震えながらに分かっていた。
この状況を変えられるのは自分だけしかいない事を。
「すぐに助けに来る!!待ってて!」
長谷川朱理は過去に助けを求めて遡って行った。
「一人消えたか…だが。」
「100年前に見た強い女戦士に似た奴がいる。見るからに別人だが消しておいた方がいい。」
魔族四人は一斉にアリエスへと向かっていく。
「究極合体!!」
それを阻止したのはドーメルだった。
タダサズが何体も集まりパーツごとに分かれて5メートルぐらいの巨大なロボットに変身した。
ここにキリヤがいたら恐らく目を輝かせていただろう。
「そのお方には指一本触れさせません。恩人との約束ですから。」
「先ずは目障りなあの巨体から片付けるか。」
四人はバラバラに分かれて四肢を攻撃し始めた。
勿論この魔族四人を相手に対抗する為を目的に作られたロボットでは無い。
ロボットはあっという間に壊されてしまい胸のドーメルの残るコアの部分だけ残った。
「こんなもので我々に勝てるとでも思ったか老人。」
「クククク。時間さえ稼げればこっちのものです。ワープ!!」
ドーメルは魔族四体を引き連れて何処かへと消えてしまった。
「かなり遠くまで飛ばされた。」
ドーメルと魔族4体は辺り海面の広がるど真ん中までワープして来た。
「がぁぁぁぁ!!」
ラダマンティスがドーメルの胸を貫いた。
「小癪な真似を、無駄な悪あがきをする老害がいたと笑い話に刻んでおいてやる。」
ドーメルはそのまま海の中へと沈んで行った。
「クソッ!!キリがない!」
紬はクラスの皆とルミナスの兵士、闘技場参加者の人たちと協力して何とか魔物を退けていた。
「あっあぁぁぁ!!!」
一人のルミナス兵士が悲鳴を上げた。
その方向からは猛スピードで向かってくる魔族の姿があった。
「あれから10分ぐらいだぞ!いくら何でも早すぎる…」
むしろ、あんな化け物相手に10分も時間を稼いだあの老人に感謝をしなければならないのかも知れない。
ヒュプノスが剣を構えてアリエスに斬りかかった。
「貰った!!」
その直後、ガキン!!という音がした。
紬は何事もない事を願うように、夢である事を願うように強く目を瞑った。
ーーーーーーー
「成程、未来ではルミナス王国が出来ている。そして魔族が復活している。
ユグドラシルは霊樹として過去の記憶を無くし勇者を待ち続けエルフから崇められる存在となる。
石になったライブラは、一族に聖賢の加護としてパラレルワールドを見たり上書きしたりする拠点となり
ドラグの末裔はどんどん龍人の血が薄くなって行ってると言う事か。
そして、私の聖女の加護も体が頑丈になるレベルまで退化してしまうとは。」
「そもそも聖女の加護とは何だ?」
俺は素朴な疑問だった。
ルナもリアもクララもそれなりの加護と力を持っている。がアリエスはというと、鍛えられ方が強いというイメージだ。
「聖女の加護は様々な種類の魔法を使える不老不死の魔術師みたいな存在なんだ。」
ルミナスの思いもよらぬ返答に驚愕した。
「何それ!ピッチピチの状態でずっとキリヤのそばにいれる加護なの!!?ズルい!!」
いや、確かにそうなんだけど着眼点がルナらしいというか何と言うか。
「聖女の加護は一子相伝。自分の認めた弟子に魔法を教え、魔術師として一人前となった際に加護を譲り渡す儀式をするんだ。それと共に経った時やダメージが一気に進んで体が耐えきれずに滅んでいくんだ。」
ルナは自分がバカな事を言ってしまったと自覚したのか少し縮こまって俺の後ろにポジションを移動した。
お陰でもっと大切な様々な種類の魔法を使える所について聞きそびれてしまった。
……あれ?紬は聖女の加護を持っていたような。これって何か変じゃないか??
俺はこのやりとり自体に違和感を感じた。
聞く限りは聖女の加護は一人しか持てないはず。なのに俺たちの世界では何で二人も??
「はいは〜い。私からも聞きたいことがある。キリヤと一緒にいるとパラレルワールドで見えなかった事や予測できない事が他の世界線でも多々あるんだよねぇ。」
「それは僕に対しての質問だねぇ。パラレルワールドってのはもしもの無数に枝分かれした世界線の事なんだけど…
正直誰が異世界から転生してくるとか分からないじゃない?
だからそもそも異世界の人っていうのは僕らのパラレルワールドに新たな選択肢を作り出していくんだよねぇ。」
……成程。よく分からん。
よく分からんけど、俺がいる事によって不可能を可能にすることが出来るメリットがあるのは伝わった。
「だから単純に君がキリヤくんと結ばれない世界線だって創り出せてなくて見えてないだけかもしれないって事だねぇ。」
ライブラの一言にご満悦だったのはリアとルナだ。あれだけ高らかに運命だと言ってたもんなぁ。
「まぁ話は長くなっちまったが、お前ら、魔族に勝てんのか?」
ドラグの言葉にルナもリアも硬直した。
そう、俺が仮に勇者の剣の力を取り戻したとしても一人では限界がある。クララにもメモリーの限界があるし、個々のレベルアップは必須だった。
「だろうなぁ。正直俺たちでも魔族の幹部達には苦労したんだ。お前ら見てるとそいつらよりも弱いもんな。」
俺達は何も言い返せなかった。
言い方に棘があるがドラグの言っていることは正しい。
「よし、そこの龍人の血を引く奴。ちょっくら鍛えてやらぁ。着いてこい。」
「……キリヤ。ちょっとだけ時間ちょうだい。私はもっと強くならなきゃ行けない。」
「そこのエルフ。来い。精霊の加護の使い方。教える。」
「キリヤ。私も修行する。もう足手まといは嫌。」
「じゃあそこの似たもの同士の子は僕が修行をつけるね。」
「私はこの前魔族に勝ったからキリヤの側にいようかなぁ〜なんて、」
ライブラはクララの耳元で何か話すと一気に顔が引き締まった。
「キリヤ、私ももっと皆の役に立ちたいから、修行をつけてくるね。」
三人は散り散りに去っていった。
多分生半可な修行では無いことは想像がつく。後で様子を見に行こう。
「キリヤさん、実は私たちの仲間が今危険な状態でして助けるのに協力が必要何です。お願い出来ないでしょうか?」
となると、残ったのは俺とルミナスさんだけで、何なら手が必要みたいだ。
俺は快く了承して案内されたアステカ帝国へと向かった。