ルミナス・アリエス
「キリヤ…これはあくまでも私の仮定だが恐らくここは歴史が変わった100年後の世界。キリヤの現代と言うべきか。キリヤが100年過去に遡って来なかったら本来いなかった存在がいるだろう。」
「フィリアス…お前の事か?」
「そうだ。キリヤが100年過去に来なかったら私はあそこでゴブリンに殺されていただろう。だけど私を助けて歴史を変えた。そして現代に戻ってきて本来いるはずだった多くの魔物の存在を消した。」
「それで俺は心当たりのない多くの魔物を倒した事になったのか。」
フィリアスは体を震わせながら頷いた
「だっだけど大丈夫、私が生きていた事で人類滅亡の状態からは良くなっているんだし、私が何とかすれば…」
フィリアスの体は震え目には涙が溜まっていた。正直どうすれば良いのか見当がつかない。
ひとまず過去に戻って落ち着かせようか、そう考えた時だった。
「こんの大馬鹿やろうがぁぁ!!!」
あまりの光景にこちらに走ってくる騎士の格好をした女性の人影に全くと言っていいほど気が付かなかった。
「フィリアス!避けろ!!」
早い間に合わない、くそっこんな時少しだけ過去に戻れる魔法があればと考えるも何も起こらず、女性の拳はメリッと音がしてフィリアスの顔面にめり込んだ。
バコッと音がしてフィリアスを吹き飛ばし壁にぶつかる。
「フィリアス大丈夫か!!」
「いだぁぁぁぁいお前何者だぁ!!」
フィリアスの強がりにも我慢の限界が来たのだろう。号泣し始める。
「私は、ルミナス・アリエス。フィリアス様のクソ兄の孫娘です。」
アリエスは膝をついた。
「先ずはおばばさま。先程の無礼をお許しください。」
フィリアスの頭は急に殴られた事で混乱していて何を言っても理解しなさそうだ。
「アリエスって言ったな。今この時代はどうなってるんだ??」
「時の勇者キリヤ様、私は貴方のことも待っていたのです。」
アリエスは何故か俺の事も知っていた、歴史が変わった事によって何か語り継がれているのだろうか??
「簡潔に申しますと魔族からの攻撃により我がルミナス王国は壊滅状態となってます。」
「魔族…だと??」
フィリアスが段々と冷静さを取り戻してきた。
「はい。今から100年前各種族や国が国交を断絶し始めた頃からルミナス王国は既に魔族の手に染まりつつあったのです。」
「どう言う事?私の周り魔族なんて…」
フィリアスが問いを投げかけるとルミナスは拳を地面に叩きつけた。
「私のクソジジイ、おばばさまのクソ兄様が既に魔族の者と手を組んでいるのです。100年前におばば様がタイミング良くゴブリンの群れに襲われたのは…」
「兄上様の仕業だと…」
フィリアスは信じがたい、あり得ないだけど…と呟いてまた混乱し始めた。
「おばば様がそこで殺されていたら歴史は早く動き始めます。王様はすぐに毒殺され、この時代には既に魔族の手によって滅ぼされて魔物の巣窟となっていたでしょう。」
「それが、歴史が変わる前のこの世界…」
「おばば様が生きていてくれたから、聖女の加護もあり、魔族を退けていましたが数年前から徐々に力が衰えて老衰状態になった所を魔族は見過ごしませんでした。
おばば様は言っていました、本来今現代のルミナスは平穏平和な国であるはずだったと。だけど何者かの手によって過去を変えられて歴史が変わってしまったと。
本来花を咲かせる為には土地や種、水や光などが必要です。逆を言うと種や水が無ければ花は咲かないのです。」
「その何者かが平穏平和なルミナス王国を作る為に必要な物を摘み取ったと?」
アリエスはコクリと頷いた。
「おばば様はそれを起源点と呼んでました。起源点を治してこの国を救って欲しいのです。」
「しかし、そんな事を言われても私は何を信じてどうすれば…」
「この時代のおばば様は手を差し伸べてくれたキリヤ様の未来を受け入れられず、一人で何とかなるとキリヤ様を頼らずに準備を進めていました。しかしゴブリンすらまともに倒せない状態で何をすれば良いのか分からずに時が過ぎて手遅れになってしまったと。
だから亡くなる前に私に言ってたんです。丘の下にキリヤ様と一緒にゴブリンさえ倒せない頃の貧弱な私が来るかもしれない。私は見たもの感じた事でしか物事を信用出来ない性格だ。だから迷っている私を思いっきりぶん殴って目を覚まさせて欲しい、この世界を救えるのはキリヤ様と100年前の私だけなんだと。」
「そんな…そんな事言われても私には力が…」
ルミナスは弱気になるフィリアスに手をかざす。
「今から私の聖女の加護を全ておばば様に譲渡し、眠っている力を解放します。」
フィリアスは光に包まれ、宙に浮いた。
とてつもない力が流れ込んでいるのが分かる。
「これで、大丈夫です。私は国へと戻ります。」
「まっ待てアリエス!聖女の加護を失ったんだ、あんな魔物の大群に向かうなんて死にに行くようなものだぞ!!」
フィリアスが声を荒げてアリエスを止めに入る。
「今のおばば様、私が騎士になると言った時に必死で止めた時とそっくりです。」
「そっそうだ、アリエスも過去に行こう、一緒に過去に行って歴史を変えれば…」
「それはダメなんです。敵に現代と過去を行き来している事を悟られるのは危険です。さっきも言った通りこの国を救うのはおばば様とキリヤ様なんです。」
「死ぬのが…怖くないのか…?」
フィリアスは感情を必死に抑えながら震えている。
「怖くない…わけないじゃないですか?死ぬと分かって死ににいくんですよ?」
フィリアスもハッとして顔を上げるとアリエスは今にも涙を流しそうにして体を震わせている。
同じぐらいの歳の女の子だ当然と言えば当然だ。
「私は小さい頃からおばば様の騎士を目指し修練を重ねていました。おばば様は私にいつも気を遣ってくれていましたが、欲はいけないと思いワガママ一つ言えなかったんです。」
段々とアリエスの震えが大きくなり声にも震えが出てきている。
「おばば様、こんな身勝手な私ですが最後のワガママを聞いてください…
私とこの国を助けてください。」
最後に涙を流しながらこう告げるとアリエスはルミナス王国へと走って行った。
フィリアスの制止を全く聞かずにアリエスは走って行った。
「キリヤ…過去に戻ろう。話がある。」
そこには、ただただ怯えるだけのガキの姿は無かった。