ルナとリアの葛藤
「大丈夫でしたか!!??」
ドーメルさんが外の騒ぎの落ち着きを感じ様子を見に来てくれた。
「あぁ、何とか対処はできた。相手も深傷を負っているからそうそうすぐには襲ってこないだろう。」
「何とお礼をしたら良いのか…」
「良いんだ、俺たちの冒険に必要だったからな。それよりも傷を負った者たちを休ませたい。場所を貸してくれないか?」
「それぐらいなら是非とも協力させて下さい。」
俺たちはルナとリア、そしてクララが目を覚ますまで少し休むことにした。
「ん……んん…」
一番最初に目を覚ましたのはリアだった。
正直一番出血が酷かったのはリアだったし勿論顔色もあんまり良く無かった。
「目が覚めたか…」
「キリヤ…助けてくれたんだ…。」
「当たり前だろ?それに今回はクララが一番頑張ってくれた。」
「その…力になれなくてゴメン。ちょっと風にあたりたい。」
リアは歯痒そうに外に出て行った。
俺は別にリアが力になれてないとは微塵も思ってはいない。
けれども、彼女達がぶつかった壁を乗り越えるのは彼女達だ。
辺に取り繕ったり気を遣った言葉をするのは逆効果だ。
俺はルナとリアの事も信じている。
こんな所で挫けて終わるような器じゃないと。
次に目を覚ましたのはルナだった。
ルナは急にパチっと目を開けると俺と目が合いボロボロと泣き出した。
「うわぁぁぁキリヤぁぁぁぁっ!キリヤも死んじゃったのぉぉ!!私が!私が死んじゃったせいでぇぇあぎゃぁぁぁぁっ!!」
アリエスからのゲンコツが飛んだのは言うまでもない。
「アリ…エス??」
「人に勝手に死ぬなと言っておいて勝手に死ぬな馬鹿者。私たちが家族を見捨てるわけがなかろう!」
ルナは辺りを見回してここが研究所の中である事を認識した
「クララ…が助けてくれたんだ…よね?」
近くに横たわるクララを見て申し訳なさそうにルナはつぶやいた。
私がもっと強ければ、私があいつに勝てれば。クララに迷惑をかける事も無かったし、記憶を消さなくても済んだ。
プライドが高く、周りに頼りきりの状況が悔しかったのだろう。
ルナは唇を噛み締めた。
「ちょっと気分転換に散歩行くね。」
ルナもそそくさと外に出て行ってしまった。
「アリエス…あの二人を頼めるか?」
「頼むも何もこう言う壁は自分で乗り越えなければ…」
「あぁ、分かってる。だけどあいつらの気持ちを一番分かってやれるのもアリエスだと思う。それに俺はクララとの約束もあるしな。」
「全く。手のかかる旦那様だ。オマケにどさくさに紛れてクララにプロポーズもしよって。この女たらしが。
……まぁ。そうだな。今回は特別に目を瞑ろう。二人の事は任せてくれ。」
そう言うとアリエスはルナとリアを追って行った。
「ルナ!見つけた。」
ルナを見つけて声をかけるとビックリしたよくに背筋をピンと伸ばした。
私に気がつくと少し申し訳なさそうに目線を逸らした。
「アリエス…どうしたの?」
「どうしたじゃないだろう。急に行ってしまったら心配するに決まってる。」
「その…今回は…ゴメンね、凄く凄く迷惑をかけてしまって。」
「迷惑だと思っている奴は一人もいないさ。」
「……うん。でもやっと分かったよ。自分の無力さで何も出来なかった時の気持ちが…」
「それでもキリヤはルナを責めたり追い出したりはしないさ。」
「分かってる。分かってるんだよ。でもどうしてもこれから先キリヤにまた迷惑をかけると思うと不安で怖くて…」
「だが、ルナは今までも不安や恐怖に立ち向かい続けて来ただろう。どれだけ追い返しても立ち上がって追いかけて来るルナの姿を見て来たぞ。」
「アリエス…」
「私はルナの事を大切な家族であり一番のライバルだと思っている。」
「ライバル?」
「あぁそうだ。キリヤの事も実力もルナにだけは負けたくないと思うし、キリヤの全てをルナには奪われてしまうのではとヒヤヒヤする事も多々ある。
一方で私が道を踏み外した時は引きずってでも正しい道へと導いてくれるし私もルナが道を踏み外しそうになったら導きたいとも思っている。」
「でも私にはそんな力は…」
「今は…だろ?
今は正妻が私だがキリヤの一番になるなんて言っていた威勢はどこに行った。
こんな所で折れる奴じゃないって事は私が一番分かっているし、信じているからな。」
私はルナにそう告げるとリアを探しに向かった。
「アリエス…ありがとう。」
ルナは大丈夫そうだな。
むしろ余計なお世話だったかな…
彼女ならきっと自分で立ち向かうはずだ…
「……………迷子になってしまった。」
私は膝から崩れ落ちた。
何だこのデジャヴ。
リアをいくら探せど探せど見つからない。
こんなに見渡しの良い海だぞ?
姿一つ見えないなんてそんな話があるか?
「アリエス。また迷子…」
後ろから声をかけられたと思ったらリアがいた。
「リア!探したぞ!」
「探したのはこっち。アリエスが迷子になったってキリヤが。」
…んなっ。
いつの間にか私の方が探されていたのか。
これは不覚…
ではなくてそうではない。
「何で私から逃げていたんだ?」
「何でそう思うの?」
「こんな視界の開けた場所で何も手がかりが無い訳ないだろう。私の気配を察知して逃げていたと思うのが普通だ。」
「どうしたら良いか分からなかった。」
「どうしたら良いかって…そんなの」
「私は皆とは違う。私はルナみたいに竜人の血も通ってない。クララみたいな才能もない。アリエスみたいな王族の血も通ってない。ただのエルフ。」
「でもお前には聖霊の加護が…」
「聖霊の加護だけでは一番にはなれない。キリヤの一番にも。アリエスのライバルとしても。」
「リアさっきの会話を…」
「うん。聞いてた。
……今は。一番になれない。
特別になれれば良いって。思ってた。
でも。悔しいし。やっぱり一番になりたい。
私、負けないから。認められなくても。ライバルだと思ってるから。」
「あぁ。私も負けないぞ。」
「それよりも今、クララとキリヤが良い感じな気がする。一番盗られる。」
「うぇっ」
「ルナお前いつから…」
「えへへぇ。心配になっちゃって。それよりもだよ。早く戻らないと!プロポーズ後なんでしょ!」
しまった…
すっかり忘れていたがタイミング的には今一番クララが有利ではないか。
急がねば!!
私たちは急いでキリヤの元へと向かって行った。