未知なる力
「貴様、名は?」
「リア。貴方は?」
「アイアコス。貴様を殺す者の名だ。覚えておけ。」
「私は死なない。必ず倒す。」
「不可能。身を持って知れ。」
私とアイアコスお互いに剣士だった。
それなら私の方が上手。
私は風や大地から相手がどんな動きをするか、何となくだけど教えてもらえる。
剣士に取って相手の行動の先を読めるのは利点でしかない。
この勝負は私が勝つ。
「今!」
私は相手の切り掛かってくるタイミングで反応し、剣を捌いて切り掛かった。
だけど相手はそれよりも早く私の動きを察知し剣を持ち替えて防いだ。
「嘘……」
相手の動きを読んだ上での行動が破られてしまった。
完璧に不意をついたつもりだったのに…
「この程度。造作もない。」
不意打ちがダメなら今度は私の方からねじ伏せる。
「剣の舞!」
私は無数の斬撃を繰り広げた。
相手の避ける動きが何となく分かる私にとってこの奥義は避けられた者のいない技だ。
「右左縦縦左左右縦左縦右右突き右左右縦縦左最後に払い!!」
「ぐっ……嘘。」
全ての攻撃を避けられてグサリとお腹に痛みが走った。
私の剣の舞は型があるわけでも流れが決まっている訳でもない。
技を知っているなんて事はあり得ないはず。
なのに何で…
アイアコスは剣を抜き私は膝をついた。
「俺には勝てない。お前エルフ故、人の動き。何となく察知できるだろう。だが俺は筋肉の動きでどう動くか分かる。貴様がどう動こうと、俺はその先が分かる。」
そんなの信じない。そんな超人みたいな技があっても対応出来るはずがない。
「剣の……舞!!」
「無駄だ。」
両腕に今まだに感じたことのない痛みが襲ってきた
体が軽い…
いいや違う、私はもう剣を持てないんだ…
「エルフの察知能力は高いと聞いたがこの程度。呆れた。ユグドラシルもすぐ潰す」
「一族の事!馬鹿にしないで!!」
私は剣を咥えてアイアコスへと向かって行った。
「その心意気見事。華麗に散れ。」
抵抗虚しく私はアイアコスに切り伏せられてしまった。
視界が赤く染まっていく。
「キリヤ…ゴメン。」
私は意識が遠のいて行った。
ーーーー
私は考えた事があっただろうか。
自分の無力さ故に仲間が傷つくのを見ているだけになる状況を。
仲間が瀕死なのにも関わらず、何も出来ずに泣くことしか出来なくなる世界線を
私は想定していただろうか。
自分の我儘で、愛する人が傷つく事を。
キリヤとの一つ一つの世界線での思い出、ルナやリア、アリエスとの他愛もない交流。衝突。喧嘩。
どれも捨てがたい、かけがえの無い思い出。
だけど……
「皆が目の前でやられちゃうぐらいなら、何も出来ずに見てるだけしか出来なくなるぐらいなら、思い出なんていらないよ…
死んじゃったら…これからの思い出なんて作れないじゃん…。」
「……クララ…。」
「キリヤ……?」
「……クララ頼みがあるんだ。」
「…………うん。」
「クララには、俺だけを見て欲しいんだ。」
「私は今もこれからもキリヤ一筋だよ…」
「クララの頭の中には色々な世界の俺の姿が記憶として残っているんだろ?正直俺は嬉しかったんだ。アリエスも、ルナも、リアも、最初は俺に牙を向けてきた。だけどクララだけは最初から俺を受け入れてくれた。クララならどんな俺でも受け入れてくれるって安心感があったんだ。」
「キリヤ……」
「だからこそ、クララには今この世界にいる俺の事だけを見て欲しい。他の世界線の俺の事も好きだと俺が嫉妬しちまうだろ?」
「どの世界線にいる俺よりも今目の前にいる俺が必ずお前を一番幸せにする。だから頼む。他の世界線の俺の事を忘れて、俺の事を信じて俺たちを助けてくれ…
もう……目の前で大事な人たちを失いたくないんだ。」
お前を幸せにする。
どの世界線を覗いても言ってくれなかった言葉だった。
どの世界のキリヤもプロポーズはしてくれなかった。
「それは……プロポーズと受け取っても良いのかな?」
「当たり前だろ?それ以外で一番クララを幸せに出来るかよ。」
「約束……だからね?責任……取ってよね?」
「あぁ…クララ。力を貸してくれ。」
「勿論だよ。」
私はキリヤの頬に手を当てて額をつけた。
「パージ!!」
私の体がスーッと軽くなっていく気がする。
段々と頭の中に入っていた筈の思い出が消えていく。
けど、不思議と嫌じゃ無かった。
この世界のキリヤとなら、どの世界線の私よりも幸せになれる気がした。
そしてそう。私はキリヤを、家族を守る為の力が欲しかったんだと。
ーーーーー
「パージ!!」
俺はクララの思い出を消して行った。
それと同時進行で自分の傷口にもパージをかけて癒して行った。
三体の魔族がアリエスの方向に向かっている。
流石に四体同時は厳しいものがあるだろう。
「クララ…大丈夫か?」
「うん。ちゃんとキリヤの事大好きだよ?」
そういう事を聞いたわけでは無かったんだけどな。
「それよりキリヤ、ルナとリアを救ってあげて。特にルナは危険な状態みたいだから。」
「相手は四体いるんだぞ!?」
「私に任せて。クレスト様の一番弟子にして聖賢の加護トップクラスのメモリー容量があるんだから。」
なんだか、今のクララはすごく頼りになる気がした。
俺はすぐにルナとリアの元へと向かった。