告白
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「ママぁ見て見てぇ!これかいたの!」
「凄いじゃない、どうやって考えたの?」
「ママのことみてた!」
「朱理、あなたは必ず私をも超えるデザイナーになるわ。そのキラキラとした目の輝きはいつまでも忘れないでいてね。」
「うん!!あれ?ママ?…ママぁ!!ママぁぁぁぁっ!!」
「ハッ!!……サイアク。」
私は天井を見上げていた。
悪夢のような夢を見ていた。
私はガキの頃に両親と離れ離れになった。
父親が先に行方不明になり、母は他の男に心が靡いて着いて行ってしまった。
「何でこんな夢を見るんだよ。」
私はその後養母に引き取られて生活していた為、ママの事はそういう風に聞いていたが未だに信じられずにいた。
ママは誰よりもパパの事を好きだったのは私が一番知っていたからだ。
他の男に靡くはずがないと思っていた。
しかし、真実を知る間も無くその男とママも行方が分からなくなってしまった。
「長谷川、おはよう。顔色悪いけど大丈夫か?」
「……いーんちょー。おはよ。大丈夫。変な夢を見てただけ。」
「無理はするな。偶には休息も必要だ。」
「あんがと。そーさせて貰うわぁー。」
こっちの世界に来てからどれぐらい経っただろうか。
このアステカ帝国は何か私にとっては居心地がいい場所になっていた。
「ねぇ、いーんちょー。私がこっちの世界に残りたいって言ったらどうする?」
「何をバカなことを、長谷川に限ってそんな冗談を言うと思うか。お前には世界一のファッションデザイナーになる夢があるだろうに。」
「まぁねぇ。あまりにも居心地が良いもんだからふとどれぐらいそう思っている人がいるのかなって。」
「殆どのクラスメイトが帰りたいだろうな。ハジメはちょっとズレてるだけだぞ。」
そう言うことを言いたかった訳では無いんだけどね。
当然他の人たちは帰る場所があって会いたい人がいるんだ。
「私は戻っても帰る場所も認めて欲しい人もいないんだけどね…」
「……長谷川??」
「あ、ううん。何でもない。本当にちょっと疲れてるのかも。今日はゆっくりするわ。」
「あぁ、そうすると良い。それじゃあまた様子を見に来るからな。」
そう言っていーんちょーは部屋を出て行った。
「ママ…どこにいるんだろ。ママのいる所に行きたいな。
……って言っても私こんな見た目だしな。今更会えたとしてもきゃぁ!!」
周りが光に包まれて行った。
光が無くなった時には辺りの景色は変わり自分が何処にいるのかさえ分からなかった。
「ここは…どこ?」
アステカ帝国のような面影もありつつ自分の知っている場所ではない。そんな気がした。
「早く戻らないと…うっ」
急な眩暈と立ちくらみ。吐き気が襲って来た。
こんな場所で気絶するのはマズイ…。
私は意識が朦朧としてきて瞼が重くなり気が遠くなって行った。
「長谷川ー調子はどうだ??」
「あ、いーんちょー。お陰様でもう大丈夫だよ。」
「……長谷川?何かあったか??」
「え?どうしたの急に??」
「いや、気のせいか。何か覚悟を決めたような腹を括ったような清々しい顔をしている気がしてな。」
「私はいつも腹括ってるってーの。何もないから大丈夫だよ。」
「そうか。じゃあ明日からの修行頑張ろうな。」
私は返事をするといーんちょーは部屋を出て行った。
「私も頑張らないと。」
私がさっきまで見ていた数時間の物や話全てのものは恐らく夢でもなく紛れもない現実だったろう。
信じたくない事もあれば信じたい事もあった。
だけど私は私の出来ることをやって向き合うだけだ。
ひたすらに修行をして強くなる。
「時の勇者…誰なんだろう。」
うっすらともしかしたら、彼なのではないかとよぎる存在はいる。
次出会う時があればその時に聞こう。
そしてこのアステカ帝国は何が何でも私が護るんだ…。
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「ここが、天秤谷か。」
俺たちはあの後ユグドラシルの教えの元新たな仲間を求めて天秤谷に向かっていた。
アリエスは天秤谷に近づくにつれて段々と不安げな顔を募らせて行った。
追い出されるとでも思っているのだろうか?
だけども、リアやルナの事もしっかりとケジメをつけないといけない。
言うべき事はちゃんと言わなければ。
「なぁんか人の気配を全く感じないねぇ」
「人はいる。ただ…」
リアが怪訝そうな顔をする。
「生きてる感じがしない。」
「うぇっ…それってもしかして。」
「一先ずそこに向かってみよう。」
「そっその前に食事にしないか!?腹が減っては何とやらと言うだろう。」
「……あぁ。そうしようか。」
ユグドラシルの元を出発してからアリエスはこんな感じだ。
天秤谷に行くのを嫌がっていると言うか先延ばしにしている感がある。
ルナとリアの件もハッキリしなければいけないのだが、中々言うタイミングを逃している。
だけど、このままズルズルと行くわけにもいかないな。
「なぁ皆話があるんだ。」
食べ物を囲んでいる中俺は腹を括って話を始めた。
「俺はルナもリアもちゃんと好きだ。」
「ぶふぅー」
いかん。ルナとリアが噴き出した。
完璧に順番を間違えた。
「どどどどどうしたのキリヤ!??熱でもあるの?ちゅちゅチューする?」
「るっルナ。落ち着いて。落ち着いて。落ち着いて。落ち着いて。」
「いや、リアが一番落ち着こう?顔真っ赤だよ?」
二人がアタフタとしている中アリエスは寂しそうな不安げな顔をしている。
「二人とも落ち着け。俺も考えてたんだ。しっかりと俺と向き合ってくれている二人に対して蔑ろにしていた所もあったし、ちゃんとケジメをつけたかったんだ。二人と過ごした時間も楽しいと感じたし受け入れたいと素直に思ったんだ。」
「だけど、結婚となると俺の方もまだ腹を括りきれないというか、妻として迎え入れる覚悟が出来てないというかその…」
「良いよ、キリヤのペースで。私はキリヤに好きって言われただけで幸せゼッコーチョーだよ!」
「心がポカポカする。凄く嬉しい。こんなの初めて。キリヤの幸せは私の幸せ。」
改めて理解力があり器の大きい二人には頭が上がらない。
「と言う事なんだアリエスさん…どう…かな?」
「勝手にすればいいだろうに。どの道私が何と言おうとそうするんだろ。チラチラと様子を伺われるのも癪だ。」
「ちょっとアリエス!その言い方は無いんじゃないかな?」
「私が何と言おうと私の勝手だろう!それに私とキリヤは正式な婚約者では無いのだ!ルナとリアの二人の方が勇者の妻らしくしてるではないか!」
「何それ!??人の事散々除け者扱いして私が一番だと豪語しておいて、今更関係ありませんって事??誰が正妻かなんてキリヤが決める事でしょ!?自分が足手まといだからって変な所でキリヤに迷惑かけないでよ!!」
「おい!ルナ!!」
「…っている。」
……やっちまったか。どっちが悪いとかじゃなくて俺も悪いんだけど、ルナも最初は随分と酷い扱いされて来ていたし、溜まっているのもあったのだろう。一番アリエスが気にしている事を言ってしまった。
「そんなの私が一番分かっているさ!!足手まといなら切り捨てればいいだろう!!天秤谷で優秀な嫁でも見つけて旅を続ければ良い!!」
アリエスはムキになって怒鳴りつけると、立ち上がって背を向けた。
「リア!そこを退け!」
「何処に行くの?」
「私がここにいても足手まといなだけだ!自分で自分の国に帰る!」
「迷子になる。一人じゃ帰れない。」
「お前まで私のことをバカにするのか!!」
「一人で動いて野垂れ死ぬならここで死んで?探すの面倒。」
「おい、リアまで!!」
「……それに、これ以上自分勝手な行動で私の大好きな人に迷惑かけないで。」
「そうか。お前たち全員私の事をそのように思ったいたのだな…。私にもプライドがある。このまま足手まといでいるようなら、その時はルミナス王国に置いて行ってくれ。ちょっと気を紛らわしてくる。」
アリエスは力が抜けたような雰囲気で背を向けて歩いて行った。
「うぅぅ……キリヤごめん。ついカッとなって迷惑かけちゃった。」
「私も、言いすぎた。」
二人はシュンとして俯いた。
確かに言い過ぎではあったし、言ってはいけない事を言ってもしまった。
「気にするな。俺の事を思ってくれているのはちゃんと伝わっているさ。それに…」
「……キリヤ??」
「アリエスは足手まといのままで終わる女じゃないさ。それぐらい二人も分かっているだろ?」
「そうだね。アリエスなら立ち直ってくれるよね。」
「加護の力も未知数。可能性は無限大。」
大丈夫だ。アリエスはこのまま挫けたままで終わる人間では無い。それだけ強い人だ。
少し休憩してアリエスの気が紛れたら天秤谷へと向かおう。