歪みの是正
街の外へと出ると俺がいつもタイムトリップを使っている丘に大きな亀裂の様な歪みがえた。
「大きいですね…」
本当に雑魚敵しかいないのだろうか?
フィリアスの奴盛大なフラグを立てたんじゃないかとさえ思う。
それはそうとアリエスの格好が少しおかしいのだ。
アリエスはローブに杖といった格好で騎士としては少し違和感のある格好だ。
「アリエスは騎士になるはずじゃ無かったのか?」
「私もずっと騎士を志望していたし本来であれば騎士になっているはずだったのだがおばば様が…」
またあいつは何かやらかしたのか…
「時の勇者様の伴侶となりそばに立つ者が剣を持って戦場に突っ込むのはいかがなものか。それは勇者様がやる事だ。お主は聖女の加護を持っておる。魔法使う聖女となり勇者様を守りなさいと…」
フィリアスの奴…
長生きするわやりたい放題で歴史も何もかもめちゃくちゃにしてるじゃないかあの馬鹿。
こんな歴史そのもの大きく変えてしまってたら…
案の定どんどんと歪みは大きくなっていく。
ゴゴゴゴゴゴゴと大きな地響きと共に亀裂が大きくなっていく。
すると大量のゴブリン達が湧き上がってきた。
「行くぞ!アリエス!」
「はい!!」
まず初めにアリエスは俺に身体強化の魔法をかけてくれた。
「はぁぁぁぁっ!!!」
「ライディン!!」
俺は剣を一太刀
アリエスはライディンを放つ。
俺の斬撃は多くのゴブリンを薙ぎ倒し、アリエスの雷は多くのゴブリンを消滅させた。
「身体強化ってこんなに凄かったのか…」
斬撃が飛んでいくなんて異世界チックでワクワクしてしまう。
元々のステータスも化け物じみた数値をしていたらしいが、身体強化でパワーが倍増されている。
溢れるように出てくるゴブリン達を二人で次々と倒して行った。
「オババ様の言う通り大した事なかったな。」
ゴブリンを殲滅したところで一息つくが、肝心の歪みは消えていない。
まだフィリアスの馬鹿が立てたフラグを回収していないのだ。
すると歪みから先程よりも大きな地響きと共に歪みが大きくなっていく。
「キリヤ…来ますね。」
「あぁ分かってる」
大きな歪みから見たことのある魔物ミノタウロス一体とニワトリみたいな魔物あれは恐らくコカトリスだろうか。
合計二体の魔物が出て来た。
「キリヤ、どうする?」
アリアスの問いかけに対しての俺の答えは決まっていた。
あの時の借りを返したい、そう思っていた。
「おれはあの牛と戦う。アリエスはあのニワトリ倒せるか?」
アリエスが頷くのを確認した俺は剣を構えミノタウロスと対峙した。
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アリエス視点
キリヤからコカトリスを託された私は杖を構えコカトリスと対峙する。
「まさか、こんな形になるとはな…」
これは何かの運命なのだろうか。
巡り合わせというのは面白いものだと感じてしまう。
コカトリスは猛毒のブレスを吐いてきた。
「アリエス!避けろ!!それは毒だ!!」
キリヤは焦って私のことを心配してくれている。
それもそうだよな。キリヤが変えてくれた100年前の歴史では毒に対抗する術なんて無かったんだから。
「癒しよ…」
私の周りの毒が一瞬にして消し飛んだ。
キリヤもビックリしている。
「キリヤは自分の敵に集中して。私は大丈夫だから。おばば様の一番弟子を舐めないでよね。」
「アリエス今のって…」
「状態異常回復魔法だよ。昔ね、どっかの誰かさんがね、この世の中には知られてないオリジナルの魔法とかがある。何て事を言った人がいたらしく、おばば様が編み出したんだよ。」
キリヤはさらに歴史を捻じ曲げた事に頭を抱えている。
でも本当はねキリヤ。この話には続きがあるんだよ。
「良いかいアリエス。これから先お前達は過去を潰した者達と戦っていく事になるじゃろう。その為には歴史通りではいかんのじゃ。時の勇者様を支える為には歴史を潰せる者達に対抗し得る手段を持たねばならんのじゃ。私ゃ何を文句言われても良い。ただ、胸張って時の勇者様の隣に居れる人になりなさい」
って…
最初は何を言ってるかわからなかったし、今も完璧にはよく分からない…けど。
「私だっておばば様が命を懸けて。歴史を捻じ曲げてでも守りたいと思ったものを守りたい。
全てを焼き尽くせ!ファイヤストーム!!」
炎の渦がコカトリスに襲いかかっていく。
コカトリスを倒し全てを焼き尽くした私は役割を終えた。
正直結婚とか好きとか良くは分かっていないけれども、胸張っておばば様の一番弟子として守りたい人と意志を継ぐ。今はそれだけでも十分かなと思う。
キリヤの方もそろそろ終わりそうだ。
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キリヤ目線
アリエスの方は炎の渦で敵を倒した。
後は俺だけか。
目の前には鼻息を荒げるミノタウロスがいる。
今思えばコイツと出会ってから、ろくなことがない。
考えるだけで腹が立つ。鼻息を荒げたいのはこっちだ。
俺とミノタウロスはほぼ同時に自分の武器で攻撃を仕掛けた。
剣と斧がぶつかり合い力の押し合いになる。
敵のステータスが分からなかったが故に気が付かなかったが、どうやら俺は現代の歴史を変えた時にミノタウロスクラスの魔物では全く苦にしない程度のステータスを手に入れていたようだ。
押し合いに負けることもなく、一度ミノタウロスを吹き飛ばした。
今の状況を理解出来ないミノタウロスは冷静さを失いどんどんと大振りになってくる。
「本当は俺が一番この世界で戦う際に足りてない実践経験を積みたかったんだけどな。」
ステータス差がありすぎて練習にならなかった。
ミノタウロスをスパンと一閃食らわせて呆気なく倒してしまった。
これはステータスが伸びすぎる前に程々の相手と実践経験を積まないと、ステータスに実践経験が追いつかなくなってくるな。
実践経験を積める相手がいないぐらいステータスが上がりすぎると練習相手が居なくなりいざ、戦闘の上手い敵と対峙した時にやられてしまう。
時の勇者について。自分達の世界に戻る方法について意外にも自身に課題を感じた戦いとなった。
ミノタウロスを倒した後歪みは段々と消えていくように無くなった。
「…帰ろっか」
戦いを終えたアリエスが近づいてくる。
「帰る…か。」
こっちの世界に来て即追放されて居場所を失っていた俺にとっては何ともむず痒く、そして温かい言葉だった。
「そうだな。フィリアスの馬鹿に言いたい事も沢山あるしな。」
俺は照れ隠しをするようにアリエスとルミナス王国へと戻っていった。