冥界と繋がる不思議なラジオ『ミッドナイトタウン』
「ふー」
エイキはそう息をつきながらドアを開けた。スマホの時計を見ると2時。やっとの思いで仕事が終わり家について疲れたのとほっとしたのもあり靴を脱いでその場に座り込んだ。
帰るのがこの時間になるとは思わなかったのでかなり疲れていた。
「はー疲れたー」
そう言いながらも力を振り絞ってエイキは疲れた体を起こし台所へと向かう。手には袋入ったコンビニの弁当をぶら下げており袋から取り出すとそのまま電子レンジに入れる。そして近くのテーブルにあったラジオのスイッチを入れる。ラジオはジ...ジジ...と音を立ててラジオからは雑音の後に声が聞こえる。
「はーい、冥界とつながるミッドナイトタウンへようこそ。お相手は私、Kuuがお送りします」
「ミッドナイトタウン...これがラジオのタイトルか?聞いた事ないな。って言うか冥界と繋がるって..なんの冗談だよ」
「突然だけどみんなは地縛霊って知ってる?自分が死んだことを受け入れられなかったり、自分が死んだことを理解できなかったりして、死亡した時にいた土地や建物などから離れずにいるとされる霊のことなんだ」
「んなのいるわけ...」
「今そんなのいるわけないって思ったでしょ?」
「っ!!」
まるで会話をしているかのようにKuuという人物はそう言う。おそらくこれを聞いていたほとんどがそう思った事だろうしそれを予想した返しなのだろう。そのKuuという話し手は淡々と話幽霊のを続ける。
「いるんだよ。幽霊がね」
「はあ...幽霊なんて」
「ゆ...い...これ...見....自分...幽....気づ...見...」
「おいおい!」
ジジ..と言う雑音と共に人物がと言う音と共に途切れ途切れで声が聞こえる。ラジオを叩くと声ははっきりと聞こえ始める。このラジオは安物でよくこうやって聞こえにくくなるのだ。
「ではラジオネーム猫大好きさんから」
「私には好きな人がいます。でもずーっと無視され続けます。どうしたらいいですか??ほーそれは難しいですねえ。まずは勇気を持って話しかけてみましょう。では次、ラジオネームスコスコスココさん」
戻ったと思ったら内容はいつのまにかお便りを読むコーナーになっていた。まあこんな深夜にあんなオカルトチックなもの聞くよりかはいいだろうとエイキはラジオをそのままにした。
「自分は気づいてしまいました。もしかして自分って幽霊なのかもって。ほー...幽霊かあ...」
「幽霊!何を言ってるんだこの人は」
少し笑いながらエイキはそう呟いた。なかなか独特な世界を持っている人なのだろうか。チン!という音と共にレンジが終わりを告げる音がしてエイキはレンジから弁当を取り出す。ホカホカの弁当をテーブルに置く。話題は、いつの間にかこの前あったトラック事故の話になっていた。
「そういえば×○市内でトラックの事故があったってね。怖いねー。そこで男女1人づつがトラックに巻き込まれて死亡したって。みんなも気をつけようね。さて、そんな暗い話題はやめて今度はスイーツの話にしよう」
「物騒だなあ。ってこの近くじゃないか!」
○×市内はエイキのこの家のすぐ近くだ。歩いて普通に行ける距離。男女が亡くなったと言っていたが確か女性の方は10代のメガネの長髪の女性だったとか。まだ先は長かったろうにとエイキは思いながらも弁当の蓋をあけた。湯気が出ていて美味しそうだ。ご飯にシャケやミートボールといったおかずが美味しそうに盛り付けてある。早速割り箸を割って食べようとしたその時だった。
ピンポンピンポーン!!
突然のチャイムの音にビクッと体を震わせる。そしてドンドンと言うドアを叩く音が聞こえてくる。エイキはどこかに身を隠そうと影に隠れる。ガチャガチャと言う鍵を開ける音がして入ってきたのはこのアパートの大家だ。小太りで水色のボタンのついたシャツを着ていて上り込んでくる。
「まだ、未払いだから今顔を合わせたくんしんだよなあ...」
「いるのか..?返事してくれー!」
大家は合鍵を使って入ってくる。扉が開いた音がして少し覗くと、ズカズカと大家が中に入ってくるのが見える。必死に声を殺して身を潜める。バレたら今まで払ってなかった分要求されるだろう。だが今はそれを払えるほどのお金はない。だから、エイキは見つかるわけにはいかないのだ。
大家は誰も居ないのを確認すると出て行こうとする...のだが。その時近くにあったものを軽く蹴ってしまったのかガサッという音が聞こえる。その瞬間大家が足音を立ててこちらに向かっている。エイキはドキドキしながら見つからないように祈っていた。
「いるのか...!!」
エイキはふと大家と目があった。ちょうど部屋の戸棚の後ろに隠れていて様子を伺うために大家を見たのだが、大家の方もエイキの方を見たのだ。これはまずい!バレる...!!エイキは終わったと思ったが、大家は「おっかしいなあ...?」と頭をポリポリかきながらラジオを消して部屋を出て行った。
「助かったのか」
俺はほっと胸を撫で下ろして大家が消したラジオをつけた。だがラジオはまたジジ....ジジジという雑音を鳴らすばかりだった。
「おい!頼むぞ!!」
「でなー。その時の犬が...」
「よかった」
「さーそろそろお時間がやってまいりました。今これを聴いているアナタ!そろそろお迎えがきますよ!いつまでもそこにいないようにね!!」
「は?迎え?何を言ってんだ?」
「ほら、もうじき来るからね。では、また次の機会にお会いしましょう。お相手はKuuでした!!」
「はあ?おい!」
そこからラジオから声は止んだがジジジジジジジジと雑音がずっと流れていく。だが少しして声がした...のだが、その声はあのKuuというやつの声ではなかった。一緒に行く?とどまる?一体なんの話をしていたんだ?
「ジジ....コウ...イッショニ...行コウ!」
「はあっ!?」
突然ラジオからそんな声が聞こえてくる。おそらくあのKuuというやつのイタズラか何かだろう。そうだ!きっとそうだ!!そうに決まっているとエイキはそう繰り返しながらラジオからの声に怯えていた。
スッとラジオの音が消えてエイキは安堵した。そしてエイキが横を向くとそこには青い白い肌の髪の長いメガネの女性が....。しかも「イッショダヨ」というような声と共に...。
「あの...それって本当なんですか?」
「本当ですよ!間違いないです!!」
大家は警察にそう告げた。目の前にはエイキの部屋。部屋の前で昨日起こった出来事を警察に話している。
「誰もいないはずの部屋からラジオの音が聞こえてきたんですよ!そして入ってみると弁当が置いてあって...明らかにレンジでチンした状態だったんです!」
「強盗じゃないですか?」
「よく見ましたが誰もいませんでしたよ!」
すると警察は「あの...もしかして...」と呟いてこんな質問をした。
「そのラジオ、『ミッドナイトタウン』って言ってませんでした?」
「あーそうそう、何だか冥界がなんとかとかって」
「やっぱり」
「やっぱりとは?」
「おそらくそこには地縛霊がついています。しかも自分が死んでいると気づいていないタイプの」
「ええ」
その『ミッドナイトタウン』というラジオは、地縛霊がいるところにだけ流れるもので、地縛霊を冥界に送るためのラジオと言われていて、おそらく冥界に送られたのでしょう。
「それじゃあ!」
「ええ。この部屋のにすんでいた、数日前に男女1人を巻き込んだトラック事故で亡くなった八代エイキさんの地縛霊が...」