百物語
三題噺もどき―さんじゅうに。
夏の話。
お題:麦茶・百物語・コーラ
カラン―
溶けた氷が音を立てる。
きれいに四つ重なっていた氷が、崩れた。
(あっづい〜)
ジメジメとした夏の夜。
縁側で、冷たい麦茶を飲みながら、外を眺めていた。
「あっついな……」
「言うなや……」
独り言のつもりで言ったその言葉に、返事。
そう言えば今日は、友人が家に泊まりに来ていた。
2人で、空を眺めながら涼んでいた。
とは言え、風はそんなに冷たいわけでもないし、暑さは引かない。
「なぁー」
どっちだったか、気だるそうに声をあげた。
「んぁー?」
気の抜けた返事。
「百物語しよーぜぇ」
「百物語ぃ?」
突然何を言うのかと。
百物語とは、確かロウソクを消しながら百の怖い話をするものだったか?
百話、話すと、何かがあるとか無いとか。
「何でぇ、めんどくさいなぁ、」
「暑いからいいだろぉ、」
2人の鬱陶しそうなグダグダとした話し声が響く。
「2人で、出来るものでもないだろぉ、」
ああいうのは、それなりの人数でやった方が、楽しいだろう。
二人でやったところで、話がワンパターンになりそうだ。
そう言った所で、
ガラッ―
と、戸の開く音がした。
親でも来たのかと思った。
「お前、何してんだ?」
それは、今日泊まりに来ていた友達だった。
「はぁ?何言ってんだよ、お前ずっとここにいたろ?」
突然、百物語したいとか。
「何言ってんのはこっちのセリフだっつうの。」
あきれたように、こちらを見やる。
嘘をついているようには見えなかった。
「え?お前、何してたの?」
どうも、要領を得ない。
会話がかみ合っていない。
「寝てたけど?さっき、便所行って帰ってきたらお前が1人で喋ってたから。」
大丈夫か―なんて言いながら、それでもどこか呆れ顔で。
(1人―?)
「そんなはず……」
そんなはずがないのだ。
だって、確かに、そこにいて、話をして、百物語しようとか、言い出して…。
―?そういえば、電気が消えているとはいえ、表情があまり見えなかったような。
そもそも、よく考えろ。
夕飯を食べ終わって、客室用の部屋があるからと、彼を案内したのは、誰でもない自分だ。
その後、そこで別れたではないか。
こんなところに、来るわけがなかろう
―寒気が走った。
コーラみたいな炭酸に、体ごと突っ込まれて、皮膚の表面を泡が走っていくようだった。
訳の分からない恐怖が全身を包んだ。