第四章 <計画>
「何、ですって?雪桔を再建する?何のために…」
私は、雪桔は滅ぶべくして滅んだと思っている。悪政を行っていたわけではないが、別段、良い政治を行っていたとも思えない。
貧しい者は貧しいし、金持ちは金を溜め込んでいる。
そんな、典型的な貧富の格差が大きく開いた国だったから。
「それが…」
晴嵐は、苦虫を嚙み潰したような表情で、理由を述べる。その内容は、もう二年近く雪桔から離れていた私には、にわかには信じ難いものだった。
綜竜が雪桔を支配下に置いてから、雪桔を治めるを仰せつかった貴族は、雪桔の皇族、晶家こと、我が一族の分家に当たる男で、叙 孔明という者だった。だが、その男はほぼ縁がないも同然だった、晶家当主にして、雪桔を統べる立場に浮かれ、職権乱用しているというのだ。
側室を大量にめとる然り、酒池肉林を極めようとする然り、気に入らない臣下を排除する然り、賄賂に溺れる然り、とまあその他もろもろ。
もちろん、国政はほったらかしで、国の治安は悪くなる一方である。
暴動が起こるのも、時間の問題とのことだ。
私としては、これを聞いた時、雪桔の元我が家である城に乱入し、孔明をぶん殴りに行こうかと思ったが、不毛であることと、どのみち雪桔の皇家の直系である私は、許され、統治まで任された要領のいい分家である叙家とは違ってお尋ね者なので、孔明をぶん殴ることに成功しても、即刻捕らえられ、皇帝の御前まで強制送還される可能性を危惧し、断念した。
その場にいる兵たちを一人でボコボコにすることは容易いが、それを引き金に、人相書きでも配られた日には西の国への逃亡or東にある海の向こうの島国への逃亡くらいしか手段がなくなってしまう。
姉の仇を討つために、できればここら辺で一生を過ごしたいと願っている私としては、そのような一時の感情で、人目のある場所で大きく動くのは、非常に不味い。
というか、そんなことをするのは、馬鹿以外の何者でもない。
私が動くのは、夜、人目のない暗闇と静けさの中で妖を狩る時、姉を殺した鬼を探す時のみ。
そんな中で、晴嵐は、民を助けるために動くつもりなのか。
「つまり、貴方は民を味方につけ、暴動を起こそうとしているというわけね。それで、私に実権を握らせようとしている…」
晴嵐は、無言で頷いた。
「私のほかに、もう十人程計画に賛同してくれた、元雪桔の貴族がいます。そのうちの六割は、まだ爵位を剝奪されてはおらず、孔明の下にいるため、間諜としての役割も任せられると存じます。」
「話は分かったわ。でも、私には何の得があるの?」
やや冷えた目で晴嵐を見ると、彼は悔しそうに目を伏せた。
「…でも、民が苦しむのは本意ではないからね。いいわ。協力してあげる。」
「ほ、本当ですか?」
目に見えて晴嵐の顔が明るく変わる。
「ただ…まともにやっては雪桔が落ちても綜竜が黙っていない。だから、」
ここで言葉を切り、晴嵐を真っ直ぐに見据える。
目が合ったことを確認し、言葉を繋げる。
「綜竜の支配下に置かれたまま、支配権を手に入れましょう。」
カクヨム様に、この話の数代後の綜竜のお話を載せています。雪桔もちょこちょこと出てきます。
よければ、こちらもよろしくお願いします。m(_ _"m)
そして、当分の間、更新をお休みします。
エタるつもりはないので、再開すれば、良ければ読んでやって下さい。