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第三章 <来訪者>

 「いらっしゃいませ、どの薬をお求めですか?」

客に対し、口調こそ丁寧語だが、ニコリとも笑わず、淡々と言葉を紡ぐ。姉さまが死んで以来、私は泣くことも、笑うこともしていない。

もしかしたら、一生このままなのかもね。

そんなことを考えても、自嘲の笑みすら浮かんでこない。

そんなことを考えているうちに、客は数回口を閉開した後、声を発する。

「…薬では、ありません。」

じゃあ何だよ。私か?

声色から判断するに、どうやら男性のようだ。まあ、性別が何でもいいのだが、万が一の場合があるので、少々警戒を強めた。まあ、黒頭巾を被って来店した時点でかなり警戒していたので、今更ではあるが。

自分が商いをさせてもらっている以上大きな声では言えないし、言うつもりもないが、この辺りは治安が悪い。綜竜の都とはいえ、否。都だからこそ、その活気の裏で黒いものがうごめいている。

また、ここらの側には花街という一夜の桃源郷があったりする。そして、煌びやかな場所には、無論影がつきものだ。

ただでさえ他の地域よりも警戒が必要な場所で、黒頭巾を被って来店した男性。おまけに、目当てが薬ではないとくれば、かなり警戒させていただくことも致し方無いことと言えるだろう。

「…そう警戒しないでくれませんか?」

「この状況で警戒するなというほうが無理ですよ。」

「…」

あ、なんか黙った。客相手に言い過ぎたかな。

「分かりました。これは外します。」

苦虫を嚙み潰したような声色で、客は頭巾を外した。客は、鳶色の髪を持った、かなり整った顔をお持ちだった。だが、この顔、どこかで…

ちりっ。

そんな音を立てて、昔の記憶が蘇る。

「…えっ?」

思わず、声が漏れてしまった。この、男は。まさか。

「…せいらん?」

声が震えてしまう。もし、そうなら。死んだと思っていたかつての友人なら。私は。

「はい、そうです。お久しぶりです。麗華様。」

柔らかに微笑んでそう返した彼は、紛れもない私の幼馴染。

れん 晴嵐せいらん。今は無き雪桔の貴族、廉家の次男で、雪桔が滅びる前は割と仲良くしていた。

「生きて、いたのね…よかった。」

「ありがとう、ございます。」

久しぶりに会った動揺で、意味のない問答を繰り広げていたが、この辺りでやっと冷静さを取り戻し、

「で、何しに来たの?」

と、いつも通りの表情と声色で尋ねる。すると、

「ふ…ふふ。やはり、麗華様は麗華様のままですね。安心いたしました。」

と、言われた。

「いいからさっさと要件を言いなさい。暇じゃないんだから。」

「つれないですね。折角生き別れになった幼馴染と再会したばかりなのに。」

「そんな言い方すると私たちが恋人か何かだったみたいじゃない。そんな気持ちは一度たりとも感じたことがないし、感じる予定もないから撤回してね?」

「ハイハイ言われなくても取り消しますよ。僕も貴女とそういう関係になることは頼まれても遠慮させていただきますし。」

「言ったわね。どう仕置きをしたものかしら?」

「げぇ~。勘弁して下さい。」

こんなやりとりですら懐かしい。少しだけ。

「雑談はこれくらいにして…本題に入りましょう。」

大分じらされたことに若干苛立ちながら告げると、晴嵐は一瞬顔を青ざめた後、予想していなかった言葉を発する。

「麗華様。僕たちの計画、雪桔の再建に、お力をお貸しください。」

盛り上がってきました!

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