第一章 <雪桔の滅亡>
それから私は、以前にも増して毒の研究と妖の討伐に没頭した。すべては、姉さまの仇を討つために。姉さまの遺志を継ぐために。私と…同じように、大切な誰かを無くして悲しむ人をなくすために。そのためだけに、生きてきた。
いや…生きている、かな。今も、それ以外の生きる意味は、見つけることができていないから。
そう、あれは…私が十六の時だった。
綜竜と、争いが起こったのだ。
なんでも、この国の外交担当大臣が、綜竜へ滞在中の折、大酒をかっくらって暴れ、向こうの人間を一人殺してしまったのだとか。
しかも、その人というのが結構な身分のお姫様で、おまけに後宮入りの話も出ていたときたもんだ。
その外交担当大臣は追放処分となったのだが、それだけでは向こうが納得せず、交渉を使用にも後任の外交担当大臣がなかなか見つからず、そうこうしているうちに両国の関係はこじれにこじれて戦争にまで発展してしまったとか。
それを聞いた時、何故かあまり慌てたりはしなかった。負けると、わかりきっていたから。落ち着いて、大切なもの、必要なもの、図書館の重要文献を城から持ち出して、研究を行っている庵へ移したりと、逃げる準備を進めていた。
ただ、お父様とお母様、それに桃夏も、私には何も言わずに、何やら荷物をまとめていたのを見て、やはり、自分は愛されていないのだと、痛感させられた。そのころには、もう、慣れてしまったと思っていたけれど。
死んでもいいとまで思われていたことは、少々苦々しく思った。
ただ、彼等の荷造りは、役に立たなかったけれど。
その夜に、奇襲がかけられたのだ。一晩で、雪桔は滅ぼされた。
その時、私は城から離れた場所の見回りをしていたから、少しも気付かなかったけれど。
朝になって、城に戻ると、町が焼けていて、綜竜の兵士が一般人の救助をしていたり、貴族を連行していたりという光景が目に飛び込んできた。
悲しくないと言ったら噓になるのかもしれない。でも、一般人が大体無事で、お互いの被害が最小限なようだったので、それ程感傷的にはならなかった。
それよりも、私は逃げることを優先した。異能を持っていないとはいえ、王族の私は見つかれば即連行されるだろうから。
敗戦国の王族は、新たな戦いの火種にならないよう、断絶するか幽閉するか、今はあまりされないけれど、取り込むかする。
こう言っては何だが、やはり断絶するのが手っ取り早いので、最近はそれが多い。
ただ、それでは困る。
私には、姉さまの仇を討つことと、大切な人を妖に奪われ、悲しむ人をなくすという役目がある。
姉さまの仇は絶対に私が取りたい。それは、あの日に誓ったこと。私の、信念。一番の、生きる、意味だから。
だが…もし、綜竜の、他の国の、異能者の中に、同じことを考えてくれる人がいるのなら。私と…姉さまと同じように妖から一般人を守ってくれる人、守ろうとする人がいるのなら。
その時は、もう、見つかっても、殺されても、悔いはないのだと。そう、思う。
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