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第八章 <招かれざる来訪者>

 皇弟率いる綜竜の軍勢が進軍を開始して、数日経ったその日。

 

 皇弟及び、今回の討伐軍に参加した中でもある程度の地位を持った人間は、辺境付近に住まう豪族の屋敷を借り、寝自宅を始めていた。

 

 そのうちの一人、借りた屋敷の中でも最も良い部屋に居る人間――皇弟、岺龍れいろんは、扉も窓も締め切った部屋の寝台の端に腰掛け、渋い表情でこれからのことを思案していた。

 

 しかしそれは、遅くとも数日後には始まるであろう反乱の鎮圧を憂いてのものではない。

 

 戦闘に苦戦するということは、あまり考えていないからだ。

 

 反乱軍が既に雪桔を占拠したとの情報は届いている。

 そのため、追討軍のうち、半数以上の兵たちは動揺を隠しきれてはいなかった。

 だが、異能を身に宿す武官たちは、そんなことに動じたりはしない。

 

 いとも簡単に、一国が占領されたのは、雪桔の異能者たちの多くが反乱軍(あちら側)についた。ただ、それだけの話だからだと、自らも異能を持つ彼らは、容易に想像することができる。

 だが、小国である雪桔の異能者の力は、大国、綜竜の上位貴族の異能よりも基本的に弱い。

 そのため、この軍に中位貴族と上位貴族の異能者が一定数組み込まれた上、皇帝を除けば最強の異能を保持する者――すなわち、東宮が軍を指揮している限り、反乱軍との戦いはそこまで辛いものになることはないと、何も言われずとも理解しているためだ。

 そのため、彼らは戦場を目の前にしながらも、余裕を保っていた。

 

 この中では最も強い異能の使い手である岺龍も、また然り。

 

 だから彼は、反乱を鎮圧したその後のことについて悩んでいるのだ。

 

 岺龍の悩み。

 それは、反乱軍の者たちの処遇に他ならない。

 誰一人として姿を表すことなく一国を占領することを可能にした高度な作戦に、それを実行することが可能な実力、闘志。

 

 ――反乱者として処刑するのは、とても惜しい。

 

 できることなら、対妖魔軍へ引き抜きたいが、こちらに反旗を翻したものを信用することができるはずもない。

 

 ……どうしたものか。

 

 はぁっと、思わず溜息がこぼれた、その瞬間。

 

 ふわり。

 

 風が、岺龍の体を、くすぐった。

 窓は、閉めていたはずだ。

 

 反射的にそちらを振り向けば。


 そこには、一人の人間が居た。

 

 何もかも見透かしているかのような、黒翡翠のような切れ長の瞳に、透けるような白い肌。

 昼間でも夜間でも目立ちにくい朽葉色の胡服を身に纏い、闇に溶けるような漆黒の長髪を後ろで無造作にまとめた人間は、美人といって差し支えない顔だちをしている。

 

 中性的な容姿をしたその人間は、色素の薄い唇に弧を描いて、真っ直ぐに岺龍を見据えていた。

 

 その堂々とした佇まいに、少しばかり驚きながらも、彼は素早く短剣を握り、切りかかる。

 これしきのことに異能を使う必要はないと判断したためだ。

 

 しかし、相手はそれを軽い動作で避け、室内へ着地した。

 

 二人の目線が交差したとき。

 来訪者は、すっと片膝をついて言葉を口にした。

 

 「こんばんは。お初にお目にかかります、皇弟殿下。わたくしは――」

 

 晶麗華と申します。

 そう名乗った少女は、顔を上げてにっこりと笑んだ。

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