表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語をさがして  作者: ふりまじん
会議は踊る
9/20

3話いなり

九十九(つくも)…とは、ワタクシの事でしょうか?」

ふいにクニオが能面(のうめん)の様な少し、怖い笑顔で客人の青年に聞きました。

その暗く低い声に、春枝は、えたいの知れない何かを感じて鳥肌がたちました。

それは、春枝が知らないクニオの気配でした。

春枝は(つば)を呑み込んで、恐る恐るクニオを見ました。

そうして、クニオの瞳の奥に、見たこともない強い光を見つけて驚きました。

クニオを見て驚いたのは、春枝だけではありません。

客人の青年も、一瞬、クニオに何かを感じて、軽く目を見開いてから、やはり、張り付くような笑顔でクニオを見て、それから、わざとらしく丁寧な謝罪をかえします。

「これは、これは……、いなり様でしたか、失礼いたしました。

私も『神』としてこの国に祀られて日が浅いもので、まだまだ、微弱な神光を見極めるまでのスキルがありません。」


スキル……(-"-;)春枝は、なんだか嫌な予感が胸の辺りから沸き上がってきました。


-_-)微弱……クニオも何か、気に入らないように口を閉じてしまいました。


が、青年だけは嬉しそうに饒舌(じょうぜつ)に自己紹介を始めました。


「ああ、これは失礼いたしました。

(わたくし)、西の国から参りました『メフィストフェレス』と申します。

生まれは、希臘(ギリシア)。しかし、有名になったのは、西洋に来てからでございます。

かの国では、シェイクスピアと申す、ろくでもない劇作家(おおうそつき)に、悪魔と呼ばれ、嫌われものにされてしまい、

ゲーテ…ああ、あの忌々(いまいま)しくも、女々しい詩人(きょげんへき)に、ファウストを(だま)したつもりが、ざまぁされた、チャラ男的キャラにされちゃいましたがね……。」


客人、あらため、メフィストは、楽しそうに自分語りをしていますが、春枝は聞いていませんでした。


クニオが、いなりとなっていたなんて!!


そちらの方が驚きだったからです。

クニオは、柳田先生が退職して日本を旅するときに、同僚が渡したしおりの精霊です。


アイルランドと言う地域では、古くから、四つ葉のクローバーを持つと、妖精に化かされないと伝えられていたのにちなんで、

東北の妖怪の話を探しに行く柳田先生の無事を祈ったものでした。


メフィストが言う、九十九さまとは、『つくも神』と呼ばれる妖怪の事です。

日本では、長く使われる品物は、やがて魂をもち、妖怪となって悪さをするとされていました。


そこで昔の人は、立春と呼ばれるときに、古い品物を処分していました。


妖怪になれなかった品物は、『九十九神』とよばれて恐れられていました。


が、良い魂をもち、100年の時を経ると、ごくたまに、神様になれるモノも現れるのです。


それらを人は、異なる神と書いて『いなり』と呼びました。


いなりと言えば、豊穣の神様の使いのキツネが有名ですが、あちらは稲荷と書いて、いなりになります。

「こんな事、してる場合じゃないよ。」

春枝は、脈絡(みゃくらく)なく立ち上がり、少し、不機嫌そうなクニオを見つめました。

クニオは、さっきから、チクチクと嫌な話し方をするメフィストに腹が立っていましたが、

しばらく、だまって見つめていた春枝に、『きゃー』と叫ばれて抱きつかれてしまい、ビックリした拍子に怒るのを忘れてしまいました。


「よかったね…クニオさんっ!いやぁ〜イナリさまって呼ぶべきかね。

1919年…あれから、100年がたったんだね。」

春枝の目が、嬉し涙で潤むのを、クニオは少し照れながら見ていました。


見つめあう二人…


が、何かを思い出した春枝は、クニオの気持ちをおいてけぼりにして、勢いよく家守の方へ顔を向けて叫びました。


「家守!シャンパンだよっ。信州のシャンパンを出しておくれっ。

お祝いをするんだから、ケチケチしちゃ、いけないよ。」

春枝の声が部屋に響くと、家守は、いつも通りの落ち着いた足取りで春枝のもとへと行くと、こう聞きました。


「スパークリングワインにしましょうか?

それとも、華やかなリンゴのお酒、シードルを用意しましょうか?」

「はあ?だから、シャンパンだよっ、信州のっ。

外国の客人に、日本にも、最高のシャンパンがあるのを知ってもらうんだからねっ。」

「Ma、darm。それは無理でございます。

シャンパンとは、フランスのシャンパーニュ地方のスパークリングワインの事。他の地方にはシャンパンは存在しないのです。」


(´ヘ`;)…


「じゃ、家守、あなたのオススメでお願い。

あと、私は、マダムじゃないし、春枝と呼んでくれていいから。」


春枝は、家守の様子を堅苦しいなと、少し、面倒くさく感じました。


けれど、家守は、『春枝と呼んで欲しい』と言われて、なんだかチョッピリ照れていました。


大切なお嬢様を…下の名前で親しげに呼ぶなんて。

家守は、少し赤くなる頬を見られないように、急いでお辞儀をして、スパークリングワインを探しに消えました。


いなり神については、諸説あるようです。

ついでに、九十九神についても、アレンジが土地や家庭で加えられるようで、どこまでがオフィシャルなのか、分かりません。

が、100年経過しないものをつくも神であり、経過したものについての記述を見つけられませんでした。

私は、100年経過すると、物神になると聞いて育ったので、そんな記事がネットで探せなかったことの方が驚きでした。

九十九神と書きますが、99年経過しなくても良いらしく、基本は神と書いても妖怪のようです。

妖怪は、別名、物の怪。物に魂が宿ったもの、と言うところでしょうか。


物の怪や妖怪については、どうも、聖徳太子の時代、つまり、仏教が日本に入る頃から登場するらしく、

歴史を思うと、聖徳太子に追い落とされた物部氏、もしくは、その御神体を権力者が貶めた、とも、考えられなくもありません。

聖徳太子が教科書から消えたとしても、小説を書いたりするなら、覚えておいて良い名前だと思います。

後、100年過ぎたモノがどうなるのか、その辺りは私の創作です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ