1話 舞姫
トントン…ドアをノックする音がして、家守が入ってきました。
「お嬢様。お客様がいらっしゃいましたが、いかが致しましょうか?」
家守は、そう言って礼をします。
「お嬢様…ですか。」
クニオは小声で呟いて微笑みました。
「(///∇///)…家守、お嬢様はやめておくれ。」
春枝は顔を赤くして頼みました。家守は笑顔でそれに返して話始めました。
「かしこまりました。お嬢様。
それで、お客様の事ですが、紹介状をお持ちになられたようです。」
と、家守は上品な深紅の封筒と金色のペーパーナイフを春枝に渡しました。
春枝は封筒を受けとると差出人の名前を確認しました。
「太田富太郎?誰だろう。」
春枝は不思議そうな顔をして封筒を開きました。
「太田富太郎さん…ですか。で、手紙には何が書いてあるのでしょうか?」
クニオは、その名前に聞き覚えがあるようです。
春枝は、クニオの様子を見て少し安心したように便箋を開きました。
「何やら我々の相談にのってくれるらしいよ。
牛頭様の関係のヒトかねえ?」
春枝は見知らぬ客人の事を考えて、少し不安な顔をしました。
「そうかもしれませんね。
太田富太郎さんとは、『舞姫』の主人公の名前ですからね。
どうです、呼んで差し上げたらいかがでしょう?」
クニオはそう言って笑いました。
「舞姫…?小説…ああ、森鴎外さんのお話だね。」
春枝は『舞姫』と言う題名の物語を思い出しました。
『舞姫』は100年以上昔、森鴎外と言う偉い先生が、ドイツに留学した経験を元に作られたラブロマンスです。
何度か映画やドラマにもなり、その切ない物語を美男美女の俳優さんが演じる様子に春枝も胸をときめかせた記憶がよみがえりました。
物語の主人公から、お手紙を貰うなんて…
春枝は、主人公の名前をすっかり忘れていたことなんて知らないように胸をときめかせるのでした。
「そっ、そうだね。豊太郎さんからの紹介なら、仕方ないね。」
春枝は、照れ隠しをするように、すまし顔で言うと、家守を見ました。
「その客人を通しておくれ。」
春枝にそう言われると、家守は軽く頭を下げて、ドアのノブに手をかけました。
舞姫、ほとんど内容を忘れていましたが、今回、調べて郷ひろみさんが富太郎役をしていたことを知りましたよ。
ネット時代、若くてハンサムなひろみさんの富太郎の画像を見ました。
春枝で無くとも、少し、ときめきますかねε-(´∀`; )