ノストラダムス
「どうでしょう?ここは、経験者に話をきくと言うのは。」
クニオが本を取り出して春枝に言いました。
「経験者?」
「ええ。ノストラダムスさんです。」
「ノストラダムス?!あの…1999年〜恐怖の大王で人類滅亡とか言ってた、あの人かい?」
春枝は、嫌な予感を感じました。
「そうです。ミシェル・ノストラダムスさん。
あの方も、今から500年前に、世界的に大流行をしたペストと闘い、現在でもベストセラーを執筆した作家でもありますから、
このような時代に、受け入れられる物語のヒントを下さるかもしれません。」
クニオは、革の本を春枝に見せて言いました。
「わ、私は、英語の本は読めないし、外国人は…ちょっと苦手だよ。」
春枝は、ノストラダムスと聞いて腰がひけてきます。
「いえ、ノストラダムスは、プロバンス地方のフランス人ですよ。」
「フランス人…」
春枝は、プロバンスと聞いてドキドキしてきました。
そんな遠くのきらやかな人を探してくるくらいなら、立山連邦を探しまくり、さるぼぼ爺さんを見つけた方が良い気がしてきます。
「わ、私は、プロバンスは…ちょっと…探しに行くのも時間がかかりすぎるし…
ここは立山のさるぼぼ爺さんで、手を打つわけには行かないものかね?」
春枝は、寒いなか、立山まで行くのは嫌だけど、仕方ないと諦め顔で言いました。
クニオは、そんな春枝を見て、優しい笑顔で上品に左右に首をふり、本を開きました。
「いいえ、本人を探しに行かなくても、意見を聞くことは可能なのです。
西洋では、『ビブリオ・マンシー』と呼ばれる召喚術がありましてね。」
と、クニオは立ち上がり、本を開いて呪文を唱えました。
すると、どうでしょう?
みるみる本が輝きだし、開いたページの向こうから、髭のおじさんが、こちらを覗いてきました。
「こんにちは。ミシェル。」
クニオは声をかけました。
すると、本の中のおじさんは、驚いたようにこちらを除きこみます。
どうも、鍋のようなものに水をはって、こちらを覗いているようです。
この髭のおじさんが、ノストラダムスのようです。
「こっ、こんばんは。」
ノストラダムスは、少し緊張したように、少し高めのかすれた声で返事をしました。
「ノストラダムスにつながったのかい!!」
その様子を見ていた春枝は、興味津々でクニオに近づくと、ページの向こうからのぞきこむ髭のおじさんを見ました。
「こんばんは、ノストラダムスさん。私達は貴方に伺いたい事があるのです。」
クニオがそう言うと、ノストラダムスは少し驚きながら頷きました。
「はじめまして、ノストラダムスさん。」
春枝も髭のおじさんに声をかけました。
ページの向こうの世界では、ろうそくの薄明かりに中で、髭の男が会釈をしました。
「私が、神秘の世界の方々に役に立つような話が出来るでしょうか?」
ノストラダムスは心配そうに言いました。
「出来るも何も…私は、ぜひとも教えてほしいよ。
何しろ、あなたは世紀のベストセラー作家なんだからね!」
春枝は、乗り出すように本をのぞきこんで言いました。
「ああっ…私が、ベストセラー作家に!?神よ、ありがとうございます。」
奇跡の神託を聞いていると勘違いしているノストラダムスは興奮したように言いました。
「ごめんなさいよ、そっちもペストで大変だろうけど、こっちも色々大変なんだよ。
私らも、頼まれて物語を作る予定なんだけどね、
ひとつ、不思議に思っていたんだよ。
なんで、あんな恐ろしげな詩を書いたりしたんだい?」
春枝は、世紀末のひと騒動を思い出して、つい、もんくを言ってしまいます。
「なんの事でしょう?」
ノストラダムスは、怯えながら答えます。
「1919年、人類滅亡なんて言ったじゃないか、人騒がせな。」
春枝が叫びました。
「そんな事言ってませんよ。
私は、ただ、未来についての夢の詩を記しただけです。」
ノストラダムスは、少し不満そうです。
確かに、ノストラダムスの予言の詩は、人類滅亡の話として20世紀末ににぎわいましたが、ノストラダムスは、そんな風には書いていませんから、混乱しているのです。
「でも、死や戦や飢えの内容の詩ばかりですよね?
これのどこが希望なのでしょう?」
クニオが聞きました。
「ずーーっと、何百年も先の話だからですよ。
戦争が何百年も先にあるなら、現在は、安泰でしょ?
未来の話は、少し暗めに書いた方が、お客さんがやる気になるから、面白くなるって、旅の一座に教えてもらったんですよ〜。」
ノストラダムスは、少し自慢げに言いました。
「なんだい、まさか、あの予言の詩って、SFだったのかい!」
春枝は、思わず叫びました。
サイエンス フィクション…
近未来の物語は、少し不幸な未来から展開し、
主人公が、よい未来に導こうとする内容が好まれますが、
ノストラダムスの予言がSFだなんて、春枝は考えても見ませんでした。
「SFとは、なんの事ですか?」
ノストラダムスは不思議そうに聞きました。
「未来について、語る話のこちらの呼び名ですよ。
そうですか。
確かに、あなたは天才です。」
クニオがそう言って楽しそうに笑いだしました。
クニオの集中が切れたので、ノストラダムスとの交信も切れてしまいました。
けれど、春枝もノストラダムスも、みんな、そんなことは、どうでも良いと思いました。
「500年先…2521年の物語かぁ…
確かに、そんな先をリアルに感じさせられるなら、それがどんなに恐ろしい未来でも、夢がある気がするね(-"-;)」
春枝は、複雑な顔をしました。
そんな春枝を見つめて、クニオが質問します。
「春枝さんも500年先の予言でも作りますか?
抽象的な詩なら、早く仕上がるかもしれませんよ。」
春枝は、少しからかうような、クニオを軽く睨んで
「ふざけちゃいけないよ。
500年も先の世界なんて…私だって生きているか知れないんだから…。
なんて、バカ言ってないで、早く話を探さないと。
子供達が、眠るのが楽しくなって、
牛頭さまが元気になるような、そんな夢のある話を。」
春枝は、そう言って新しい紅茶をいれはじめました。
窓の向こうの梅の木に、少し和らいだ北風が、春が近いと励ましていました。
最後までお付き合いありがとうございましたm(_ _)m
とにかく、参加する事に意義を見出したお話で、色々、突っ込みどころばかりですが、
すいませんm(_ _)m
今年はこれが限界でした。
基本、ここでお話は完結です。
この先は、完結するか分かりません。ご了承下さいm(__)m