物語をさがして
暖炉に新しい薪をくべ、春枝は部屋を暖かくすると、椅子に座り話をはじめました。
「牛頭さまに頼み事をされるなんてはじめてだからね。
どうしたものか…。
クニオは、何か、考えがあるのかい?」
春枝は興味津々でクニオをみました。
クニオは、大正時代に学者の先生に取り憑いて近代化を始める日本中を回って、
消え始める昔話や風習を集めていました。
今から100年前、今と同じように世界中にスペイン風邪と呼ばれた恐ろしい病が流行しました。
そんな1919年、クニオの取り憑いた学者先生は、その時、貴族院書記官長を辞任して旅に出るのです。
きっと、同じように不安を感じた子供たちを勇気づけた物語をたくさん知っているに違いありません。
「いいえ…私も、春枝さんに大仏建立の裏話など、色々と伺いたいと考えていたくらいです。」
クニオは、困ったようにそう言いました。
「そうかい…私も大仏…?
大仏?疫病で建立…奈良の大仏Σ( ̄□ ̄)!
752年って…1268才オーバー(-_-;)
そこまで年増じゃないわよっ、ちょっと。」
春枝さんは、指を折りながら計算して不機嫌になります。
1268才は、魔女でも若くはないのでしょうか?
春枝さんが不機嫌になったので、クニオは慌てました。
「す、すいません。山姥の…」
「(`へ´*)」
「いえ、山の精の年齢は、良く分からなくて。
今回のような大流行と言うと、奈良の大仏建立のきっかけになった、『天平の疫病大流行』くらいかと思いましたので、何も考えずに発言してすいませんでした。」
クニオさんが困った顔を見て、春枝は怒るのをやめました。
「そうね…、私も、見たわけでは無いけど、天平の疫病は、天然痘が流行したらしいからね。医療だって、今みたいに発達はしてないし。」
春枝は、遠い昔に風の神や、道の妖怪にきいた話を思い出しました。
土産物屋でファギアが人気の真っ赤な体の妖怪『さるぼぼ』などは、病気から人を守ると言われています。
立山連邦に住む、さるぼぼ爺さんなら、あの時代のお話を知っているかもしれません。
でも、立山に探しに行ってる暇はありませんから、他の話を考えたいと春枝は思いました。
「そうですね。でも、考えてみれば、そんな時代でも、ご先祖さま達はこうして命を紡いでくださったのですね。
そんな風に考えると、少しだけ前向きな気持ちになりませんかね。」
クニオは、少し寂しそうに微笑みながら言いました。
「はぁ…。まあ、そう言われれば、そんな気もするけど、子供には分からないと思うよ?
我々は、人間の子供達が、未来に希望をもって、笑顔になるような…
牛頭さまが力を取り戻せるような、
そんな話を頼まれているんだからね。
先の祇園祭の牛頭さまの神楽舞いの凄まじさと来たら…
美しさに殺気がみなぎる、恐ろしいくらいの神々しさだった。
あれで一度は、病神を祓えたと思ったのに…
この度の病神は、しつこくて、何度でもこの国にやって来るのだから、
大きな神社はもとより、小道の道祖神まで疲れて、力が出ない有り様だよ。
神様の力が弱くなると、人の心も荒んでくるから、悪い方向に物事が運ぶようになる。
それを危惧して、お使者の方達が、我々のような小さなモノにまで頭を下げて、面白い話を探しているんだからね。」
春枝は、やって来たお使者の事を思い出しました。
夢や希望と、子供達の笑顔こそ、未来を開き、福を呼ぶのだと、お使者は言いました。
春枝達の作ったお話は、夢を司るバク達に運ばれて、子供達に楽しい夢を見せてくれるはずです。
子供達が夢の未来を信じてくれたら、
それは、現実の福になって、神々の力をふやしてくれるのです。
だから、もっと、こう…
分かりやすくて楽しい話を考えるべきだと春枝は思いました。
すいません、この辺り、クニオの設定が国男ですね。
クニオは、柳田國男について旅をしていた指導霊、みたいな設定なのですが、今日はなおせません。
ごめんなさい。