10話禁じられた遊び2
クニオと家守の物悲しい演奏を春枝は懐かしそうに聴いていました。
メフィストは、真似っこをしてギターを演奏し始めたクニオを少しズルいと思いながら見つめています。
「ああ、これは『禁じられた遊び』だね。」
春枝がつい、漏らした独り言を、メフィストは見逃しませんでした。
チャャーンスッ♪ (#^ー°)v
メフィストは、『禁じられた遊び』と呟いた春枝にジリジリと近づくと、とても嬉しそうに春枝に笑いかけました。
そうです、解説自慢をとるチャンスが来たのです。
「フランス映画…でしたね?」
メフィストは、少し高めのすました声で春枝に耳打ちをします。
「『禁じられた遊び』あの映画は、私も見たんですよ。ポーレット役のブリジットの無邪気な演技が素敵ですよね。
ふふっ。
でも、このギターの曲名は『禁じられた遊び』では無いのですよ。
『愛のロマンス』って題名なんです。
ちなみに、演奏者のナルシソ・イエペスが作曲したように思われる方も多いのですが、
違うのですよ。」
メフィストは、雄鶏のように胸をはりながら、身ぶり手振りで解説をしました。
けれど、春枝は上の空でした。
『禁じられた遊び』は、春枝がまだ少女の姿だった1953年、欧米の封切りから一年遅く日本で上映されたのでした。
この年、ラジオ局が青森やら熊本など、全国で開局し、NHKがテレビジョンの放送を本格的に東京で始めた、華やかな時代でした…。
華やかと言えば、6月にはエリザベス女王の戴冠式がありました。
この女王の戴冠式はテレビ放送され、女王の美しい姿は……白黒の画像ではありましたが、日本の少女や妖怪たちを興奮させるのにに十分の威力を発揮したのでした。
春枝は信州の妖精ですが、日本アルプスには、江戸時代の終わりから明治にかけて、山を登りに来た英国人についてやって来た英国の妖精も住み着いていて、なんとなく、ひとごとではない盛り上がりでパーティをしたのでした。
「映画は…昔の映画は、本当に楽しかったね…、美しくて、賑やかで。」
春枝は、沢山の人間たちで賑わう映画館のスクリーンいっぱいに広がる西洋の風景と、手を叩いたり、はしゃいだりするお客さんを思い出して目を細めました。
立ち見も出る映画館で、人にもみくちゃにされながら、まだ、少年だった家守と初めて映画を見に行ったのです。
何もかも、物珍しく、そして、家守と出掛けることが楽しかったのを春枝は思い出して目を細めました。