19話 不死殺し⑥ 永遠
真犯人の証言
「浜口稔、神崎芽衣のマネージャーをしていました」
していた! つまり、過去形だ。
もうあの女はこの世にはいない! 俺が殺したんだッ!
「神崎が撃たれた瞬間、私は入場口のスタッフに指示を出していました。楠瀬さんもそれを見ているはずです。私には神崎を殺すことなんてとても……」
そう、俺には完璧なアリバイがある。
だが一つ残念なことがあるとしたら、あの女が撃たれた瞬間を直接見ることができなかった点だ。風間のせいでそれができなかった。
どうせなら、観客たちにもあの最高の光景を見せてやりたかった!
「言い方は悪いかもしれませんが、神崎は私たちにとって大切な商品でした。できることならずっと観客を楽しませるような、永遠の存在になってほしかったというのに……」
なんでどいつもこいつも俺の考えが理解できないんだッ! あの女はまだまだ金になる! なら手元に置いておくのが当然だというのにッ‼
「脅迫状が届いた時に通報しなかった理由は、ただ単にイタズラだと思ったからです」
警察なんて呼んだら計画が台無しだ! だから俺はスタッフに口止めをさせて、この探偵に依頼した。
どうせ金と暇を持て余した凡人のお遊びだと思っていたのに。まさかそれがこんなことになるとは予想外だった。
「怪しい人物……。やはり、野々村くんではないでしょうか」
本番中に事件が起きれば、確実にあいつの仕業にすることができたはずなのに! クソッ、どこまでも無能なやつらだ……。
それより、いつまでこんなくだらない質問をされ続けるんだ?
「おい、なんでさっきからずっと時間を気にしているんだ?」
「ずっと時間を気にしていると言われても……。この後も予定がありますし、今回の件も上にどう報告したらいいのやらで……。それに、これから警察からの事情聴取だってあるじゃないですか。それもいつまで続くかわからないし、時間が気になるのも仕方ないとは思いませんか?」
「そうか、なら続けるぞ」
クソッ、気に入らない……。どうしてこの俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。
「……二年前の事故? それが今回の件と何か関係が?」
なんでこいつがそれを知っている⁉ いや、確かにあれは当時どこかのゴシップ誌が記事を出していたような……。当時の衣装担当は適当に追い詰めて辞めさせたし、他のスタッフたちにも忠告しておいたはずなのだが……。
一体いつになったら解放されるんだ……!
「ほら、また腕時計を見てる」
「なっ……。だから、時間を気にするのは仕方ないって言ってるじゃないですかッ! ……すみません、こんな状況で私も混乱していて」
落ち着け。冷静になるんだ。ここで焦ったところで、状況が悪化するだけだ。
とにかくさっさと切り上げなければ。
「……これ以上お話しできることはありません」
「そうか。まあ、私たちからも質問は以上だ。……しかし、ずっと腕時計を見ていたな」
赤崎樹里……。俺はお前のことを絶対に許さない。
この場を逃げ延びたら、いつか絶対にお前のことを殺してやる……。
☆
「貴方が犯人です。浜口稔さん……!」
この場にいる全員の視線が浜口に集まる。
彼がどうやって芽衣のことを殺したのか。私はそれを知っている。
「まず、事前に用意した実弾の入った猟銃を隠し持っていた貴方は舞台裏に道具を運ぶのと同時に、猟銃の入れ替えを行ったんです。そして野々村さんの銃を鞄に入れて、倉庫に戻した……。その時中身を空にしなかったのは、単純に時間がなかったのと、本当は神崎さんが撃たれるのがもっと後だったからですよね」
「お前の本来の目的は公演本番中に神崎芽衣を他のスタッフの手で射殺させることだった。猟銃をすり替えた時間と本番の時間に差があればあるほど他のスタッフたちに容疑を擦り付けることができる。それに空砲を処分する時間も生まれるからな」
「でも、イレギュラーが起きてしまった……」
本来は本番で発砲されるはずの銃は、犯人の目論見に反して本番よりも前に役目を果たすことになった。
風間が自身のことを指差す。
「……もしかして、私?」
「あぁ、提案したのは神崎芽衣だが、結果的にお前は本番よりも早い時間に彼女のことを撃ってしまった。そのせいで浜口稔のトリックは未完成で終わってしまったんだがな」
「な、なら風間さんが犯人だって可能性もあるじゃないですか!」
浜口が負けじと反論をする。だが、風間にはこの犯行は不可能だ。
一つは、舞台に行く彼女が野々村の準備した猟銃以外のものを持っていなかったというのがある。そしてもう一つ……。
「二年前、風間香子はここにいなかった。つまり彼女に二年前の事故を再現することなんてできないんだよ」
「な、なんでそこで二年前の事故が……」
「二年前の事故もお前が犯人だったからに決まってるだろ」
樹里の発言にスタッフたちがざわめきだした。
些細なアクシデントとして処理された一件が殺人未遂だと明かされたのだから、驚かない方がおかしいくらいだ。
「ど、動機は⁉ 私には神崎を殺す動機がありません!」
「マジシャンを辞めたい神崎さんと、貴方は何度も口論になっていたそうですよね」
「確かにそれは認めます。しかしそれで殺してしまったら元も子もないでしょう⁉」
確かに、芽衣を殺せば結果的に彼女がマジシャンを辞めるのと同じことだ。だが、それでも浜口は彼女を辞めさせるわけにはいかなかった。
「……神崎芽衣というマジシャンの存在を永遠のものにするため、ですよね?」
『できることならずっと観客を楽しませるような、永遠の存在になってほしかったというのに……』
そう語っていた時の浜口の表情は、まさに狂気的としか言いようがなかった。
普通に引退すれば、芽衣の存在は徐々に人々から忘れ去られていく。しかしこのまま引き留め続けることも難しい。
……もし、普通の引退じゃなかったら。
彼女が死亡という形で引退をすることになったら。きっと彼女の存在は多くの人々に強く刻まれることになるだろう。
……そんな理由で、浜口は芽衣のことを殺したのだ。
「そしてお前は二年前、今回と同じトリックで事件を起こした。その時何故神崎芽衣が死ななかったのか、今となっては知る術もないが……」
「二年前も成功したはずなんだ」
突然浜口が怪しげな笑みを浮かべながら言った。
成功……? しかし芽衣はその時怪我すらしなかったという。更に、血糊の袋が破られなかったこと、そして衣装が赤い液体で汚れたこと。この三つ全てが真実だとしたら、どうしても矛盾が生じてしまう。
きっと私では思いつかないようなトリックを使ったのだろう。
……いや、私は目を逸らしている。真実を既に私たちは彼女の口から聞いているというのに。
「二年前、俺は神崎のことを撃った。だがあいつは死ななかった……。だから、今度は特別なものを使ったんだ。……調べればすぐ解るよ」
「……続きは署でお伺いしますよ」
「……これで閉幕、実にくだらない事件だったな」
浜口は浦崎たちに連れられ、現場を去った。私には解くことのできない謎を置き去りにして。
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「……そういえば、報酬は⁉」
帰り道で突然美鈴が思い出したように叫んだ。
「神崎芽衣の護衛は失敗、それに加えて依頼人が捕まったとなれば……、まあ報酬金なんてあるわけがないだろうな」
「そんなぁ……」
美鈴が項垂れる。
今となってはわからないが、恐らく浜口は最初から私たちに金を支払うつもりなんてなかっただろう。
「……今日は本当にすまなかった。私の見通しが甘かった」
「何度も謝られる方が気まずいんだけど」
「そうだよ、樹里ちゃんは何も悪くないよ」
「……少し一人にしてくれ」
樹里が思い詰めた表情で呟いた。




