17話 不死殺し④ それぞれの証言
浜口稔の証言
まずは自己紹介から…ですか? はぁ…わかりました。浜口稔、神崎芽衣のマネージャーをしていました。
神崎が撃たれた時間、私は入場口のスタッフに指示を出していました。楠瀬さんもそれを見ているはずです。私には神崎を殺すことなんてとても……。
神崎との関係はただの芸能人とそのマネージャーでしかありませんよ。オフの日に彼女が何をしているかなんて把握していませんし、興味もありません。
言い方は悪いかもしれませんが、神崎は私たちにとって大切な商品でした。できることならずっと観客を楽しませるような、永遠の存在になってほしかったというのに……。
おかしなところですか……。まあ普段からかなり不思議な人でしたが、まあこれといっておかしなところは何も……。お力になれずすみません。
脅迫状が届いた時に通報しなかった理由は、ただ単にイタズラだと思ったからです。一々こんなことで警察を呼んで、もし公演が中止にでもなったらその方が問題だと判断しました。……えぇ、これは私の責任問題でしょうね。ですが、まさか内部犯だとは……。
怪しい人物……。やはり、野々村くんではないでしょうか。凶器の銃も彼が用意したものですし、事前に弾を込めていたのも彼です。間違いありません。
え? 確かに彼のことを四条さんが見張っていたかもしれませんが、彼女は素人ですし実弾を空砲だと誤魔化すことくらい簡単にできたでしょうね。
ずっと時間を気にしていると言われても……。この後も予定がありますし、今回の件も上にどう報告したらいいのやらで……。それに、これから警察からの事情聴取だってあるじゃないですか。それもいつまで続くかわからないし、時間が気になるのも仕方ないとは思いませんか?
……二年前の事故? それが今回の件と何か関係が? まぁ、構いませんが……。
事故と言っても大したことはありませんよ。いつもの野々村くんのミスです。神崎も忙しくなってきた頃だったのでうっかりしていたのでしょう。マジックで使う小道具を用意し忘れてしまったんです。
……えぇ、今日もやる予定だったいつもの復活マジックですよ。観客もトリックには気づいているでしょうが、もはやお約束の掴みネタみたいなものですね。…そうです、用意し忘れたのは銃弾です。
だから、時間を気にするのは仕方ないって言ってるじゃないですかッ! ……すみません、こんな状況で私も混乱していて。
とにかく、犯人は野々村くんで間違いありません。探偵さんもそう警察に伝えてください。……これ以上お話できることはありません。
……ずっと腕時計を見ていた? はぁ……、いい加減にしてくださいよ。
野々村祥吾の証言
えっと…、小道具係の野々村祥吾です……。まさかこんなことになるなんて……、だから僕は警察に連絡しようって浜口さんに言ったんですけど……。
神崎さんが撃たれた時間は、四条さんと一緒にいました。……と言ってもアリバイにはなりませんよね。でもこれだけは信じてください! 僕は間違いなく空砲を入れたんです。きっと誰かが事前に弾をすり替えたんです! ……すみません、でも本当なんです。
神崎さんとの関係? 僕はただのスタッフの一人でしかありませんから、これといった付き合いなんてありませんよ。……えぇ、確かに神崎さんは僕のミスを叱ることが多かったですし、悪い意味で印象に残るスタッフだったでしょうね。
……はい? それで彼女を恨んでいたなんて……、そんなことありません。悪いのは僕ですから。そもそも、こんな僕をクビにしないでくれてありがたいくらいですよ。
おかしいところ……、すみません。叱られる以外で話すことはなかったので……。
さっきから挙動不審になっていると言われても……、そりゃあこんな状況ですし…取調べなんて受ける経験初めてなので……。
怪しい人物なんてわかりません。でも、客観的に見たら……、やっぱり一番怪しいのは僕なんですかね……? あはは……。
え? あぁ、はい…。僕が空砲を込めているところは四条さんが見ていましたよ。……いや、流石に素人相手とはいえ、実弾を誤魔化すなんて無理に決まってるじゃないですか。だから、誰かが弾を入れ替えたんですよ。僕はやってません。
だから言ってるじゃないですか。こんな状況初めてで、挙動不審になるのも仕方ないって。
……二年前の事故? あぁ、僕のミスで起きたってことになっているやつですか……。
はい、確かにあの時神崎さんは銃弾を持っていなかったそうです。……でも、変なんですよね。だって、あの時僕は確かに小道具の銃弾を渡したんです。なのに僕のせいにされて……、当時は本当に怒りましたね。
……そんなこと言ってたんですか? お酒は好きなんですけど弱くて……。もしかしたら酔っ払っていた時につい言っちゃったのかもしれませんね。
え? そんなこと本当に思ってるわけないじゃないですか! 感謝こそしていますが、恨んでなんかいません。
……お話できることは以上です。
ずっとキョロキョロしていたと言われても……。どうやら、赤崎さんも僕を疑っているみたいですね。でも、僕はやっていません。……信じてください。
風間香子の証言
衣装係の風間香子…って改めて言うのもなんか変だね。
犯行時刻のアリバイは…言うまでもないか。うん、私が芽衣のことを撃ちました。……勿論、中に入ってたのが実弾とは微塵も考えていなかったよ?
でもまあ……、私が殺したようなものだよね。私があの時撃ってなかったら……、それでも先延ばしになるだけだったのかな。
芽衣との関係ねぇ……。まあ、見てもわかる通りここは男スタッフばっかでしょ? 数少ない女性スタッフってこともあって、芽衣とはよく一緒にご飯を食べに行くこともあったかな。多分個人的な付き合いはスタッフ内で一番多かったんじゃないかなぁ。
え? あぁ…、仲が悪いなんてきっと浜口さんあたりが流したデマだよ、あの人性格かなり悪いからさ。まあ、あの子も結構言動がおかしかったし……。ほら、私は不老不死の吸血鬼だぁって。……ほんとに不老不死なら、なんで死んでるのよ。
それで、疲れている時にも変わらずにあんなこと言われたら、私だって怒るに決まってるでしょ? それを聞いた浜口さんがみんなに言いふらしたってわけ。
仲がいいにしては落ち着いてる? 確かにそう見えるかもしてないけど……、まだ実感が湧いてないだけだよ。家に帰って、一人でお酒を飲んだら……涙が止まらなくなるだろうね。
……あの時の感触は、多分一生忘れられないと思う。
怪しい人物かぁ……。普通に考えたら野々村くんなんだろうけど……。でも、それだとそのまますぎない? やっぱり私は浜口さんが怪しいと思うなぁ。
あの人、辞めたいって言ってる芽衣と随分もめてたみたいだし。
え? あぁ、うん。前から辞めたいとは言ってたんだけど、ここ最近はかなり病んでたみたいで。やっぱり不老不死の吸血鬼様も色々悩んでたんだなぁって……。でも相談はしてくれなかったんだよね。
……二年前の事故? ごめん、その時は私ここで働いていなかったからあまり知らないの。当時の衣装係の人も私と入れ替わりで辞めちゃったから会ったことないの。大方、野々村くんのミスを浜口さんが誇張して語ってるだけじゃない?
私が話せることはこれくらいかな。
……探偵さん、もしかして私のこと挑発してる? そんなこと言ったって、口を滑らせるようなことなんてしないからね。そもそも、そんな秘密も持ってないし。