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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
3章 吸血鬼たちの暇潰し
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11話 追憶編その死:確信①

 夕陽が窓から入り、廊下を照らす。どうやら長居しすぎてしまったようだ。外を見ると、部活を終えた生徒たちが校門から帰路に就いているのが見えた。


「悪かったな。長時間付き合わせてしまって」

「いいよ。それにサボる口実にもなったしね」


 山根(やまね)はバツが悪そうに頭を掻く。彼女はあまり真面目な生徒ではないようだ。


「……最後に一つだけいいか」

「なに?」

琴子(ことこ)のクラスに案内してくれないか」


 昨日の現場は浦崎(うらざき)刑事たちが捜査をしていて、()()()の私では、調べることなんて不可能だろう。


 なら、他の調査をすればいい。

 山根に教室への案内を頼んだのは、単純な好奇心が半分。そしてもう半分が証拠を探すためだ。

 どんな些細なものでもいい。琴子を攫った犯人に繋がる証拠を、私は探さなくてはならない。とはいっても、教室にそんな証拠があるとは思えないのだが。


「まあ、それくらいならいいけど……。こっちだよ」


 廊下を進み、そして階段を上る。


「……ここ」


 『2-7』、それが琴子の在籍しているクラスだ。


「あいつ、二年生だったのか」


 今まで私は彼女の年齢すら知らなかった。興味がないわけではない。だが、彼女といつも会っているあの場所では、年齢なんて些細なことに思えたのだ。


 スライド式の扉を開けようとするが、びくともしない。


「鍵かかってるのかな」


 今は春休み。部活以外で学校に来る生徒はほとんどいないだろう。扉に鍵がかかっているのは当然だ。


「職員室行って借りてくるね」

「いや、そこまでしなくてもいい」


 本当は教室の中を調べたいが、これ以上山根に無理を言うわけにもいかない。

 扉には中を覗くことができる小窓がつけられている。


 なんとなく、私は小窓から教室の中を覗いた。

 そこには……。


「……蹴破るぞ」

「え⁉」


 困惑する山根を無視して、私は扉に思いっきり体当たりをした。

 扉は衝撃で外れ、室内に倒れた。


「ちょっと! 何して…る……の」


 山根も教室の中に倒れているアレを見てしまった。


「いやあああああああああぁぁ‼」


 誰かが争ったのか、机と椅子がいくつも横倒しになっている。だがそんなこと、今はどうでもいい。

 血の海の中心に倒れる制服を着た少女。そして教卓には己の存在を誇示するように、ナイフが夕陽と血で赤く輝いていた。

 彼女は既に死んでいる。その事実だけが、私たちのパニック状態の脳でも理解できた。


「は、はやく警察を……」

「そうだな」


 山根が通報している間に、何かできることはないか辺りを見回す。すると、私が蹴破った扉が目に入った。


「なんだこれは……」


 ……扉の側面に何か透明な液状のものが塗られている。


「何してるの⁉ これ以上荒らさないほうがいいよ!」


 山根に制止され、私の捜査はここで終わってしまった。



『現場は密室。故に人の子による犯行は不可能』

「……密室なんて存在しないよ」


 樹里(じゅり)の受け売りだが、その言葉が自然と口から出ていた。

 犯人は人間だ。決して、魔女でも吸血鬼でもない。密室のように見える現場も、きっとなんらかのトリックがあったはずだ。


『でも、鍵は職員室にあったんでしょ? それに山根って娘の言い方だと、生徒でも簡単に借りることができたみたいだけど』


 確かに、普通に考えたら『双貌の魔女』の言う通りだ。だが、アーランドは人間には不可能であるとハッキリと言った。

 勿論これはハッタリだ。しかし、そんな簡単な方法で解き明かすことのできる謎だとは思えない。


『否定する。職員室の鍵は使用されていない』

『なんでそんなことが貴女に解るわけ?』

「……職員室にはずっと、先生の誰かが最低でも一人はいたってこと?」


 それなら、鍵を使って施錠することは限りなく不可能に近いと言っていいだろう。

 鍵を使えば教師によって目撃される。そうなったら計画が全て台無しだ。


『肯定する。後に盤上世界でも語られるが、職員室には常に教師が一人存在していた。故に、鍵を使い密室を生成することは不可能と知れ』

「……でも、それ以外の方法なら」

一二三(ひふみ)、何か思いついたの?』


 樹里が見つけたあれなら、鍵を使わずに密室を作ることが可能だ。


──扉の側面に何か透明な液状のものが塗られている。


「犯人は多分…、接着剤を使ったんだ」

『接着剤?』

「うん、犯人はスライド式ドアの壁に触れる面に接着剤を塗ったんだ。それが樹里ちゃんの見つけた透明な液状の物体の正体」

『でも、もし山根が鍵を取りに職員室へ行ってたら、すぐに犯行がバレたんじゃないかしら』

「それは私も同じことを考えたんだけど……、もしかしたら犯人は樹里ちゃんの行動がわかってて密室を作ったんじゃないかな」


 今の樹里なら恐らく落ち着いて行動することができていただろう。だが、まだ未熟な頃の彼女なら、パニック状態で短絡的な行動をしてもおかしくはない。それを犯人は読んでいたのだ。


『なら犯人はやはり……』

「うん……」


 疑念が確信に変わる。

 ……犯人は、日守(ひもり)琴子だ。



「そう、犯人は接着剤を使ったんだ」


 樹里の声で我に返る。

 私の隣でコーヒーを飲みながら事件を語っているのは赤崎(あかさき)樹里本人。決してアーランドではない。


 ……そういえば、私は遊戯世界のアーランドと話していたのだが、樹里にはどう聞こえていたのだろう。彼女の様子を見ると、恐らく普通に話していたようだが……。


 ……やはりあの世界のことはよくわからない。


「それで、犯人は……」

「勿論その可能性は考えていた。だが、あの時はまだあいつを疑おうとすると思考が別の方向へ勝手に動いていた。必死にあいつ以外の犯人を捜していたんだ」

「まだ……。ってことはやっぱり」

「あぁ、あの事件の犯人は琴子だ。……まだ信じたくないがな」


 その結果彼女は……。


「やっぱり、まだ寒いしそろそろ家に帰ろっか」

「……そうだな」


 ベンチから立ち上がり、樹里と手を繋ぐ。

 ……大丈夫。少なくとも今の彼女は私を見てくれている。たとえそれが日守琴子の犠牲の上に成り立っていたとしても。


 そんな黒い感情を必死に飲みこみながら、私たちは帰路に就いた。

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