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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
3章 吸血鬼たちの暇潰し
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4話 未来視④

「おやぁ、一二三(ひふみ)さんじゃないですか」


 騒然としている駅にヨレヨレにコートを着た刑事が現れた、私たちに度々情報の提供をしてくれる浦崎(うらざき)刑事だ。


「どちらかと言えば、樹里(じゅり)ちゃんよりあなたの方が疫病神なんじゃないですかねぇ」

「……不謹慎です」


 確かに樹里と出会ってから、事件に巻き込まれることが増えた。だからといって私と樹里のことを疫病神呼ばわりは失礼にもほどがある。


「その様子ならまだ大丈夫そうですね。今日はもう帰っていただいで結構ですよ。念のため身体検査とバッグの中は確認させてもらいますがね」

「……どういうことですか」


 浦崎が真面目な顔で私の顔を見つめる。


「年長者、そして経験者として忠告しておきます。……人の死に慣れたら、もう人間には戻れなくなりますよ」

「そ、そんなこと、わかってますよ」


 ……嘘だ。

 老人の死を目撃した時、私が最初に感じたのは恐怖ではない。どうやって犯人は老人のことを殺したのだろうという興味だ。


 死という非日常に入り浸ってしまった私の身体は、樹里と同じように謎を求めてしまっている。そんなの、普通の人間ではないと理解していても抑えることができない。


「なら、樹里ちゃんは……」


 彼女の体質を私は知っている。

 赤崎(あかさき)樹里は謎がなければ生きていけない。


「樹里ちゃんは最初から……」


 だとしたら、彼女は産まれつき人間ではないとでもいうのだろうか。

 そんなの、残酷すぎる。


「樹里ちゃんだって昔は普通の女の子でしたよ。あの事件が起こるまでは」

「あの事件……?」

「あれ、とっくに本人の口から聞いていると思っていたのですが」


 聞こうとしなかった樹里の過去。それが彼女の体質の原因になった。

 そんなこと、知らなかった……。いや、ずっと知るのを拒んでいた。



「お待たせ」


 バスから降りると、待合のベンチに樹里が座っていた。


「そっちはどうだった。……いや、聞くまでもなかったな」

「うぅん……、まあ電話で話したことから特に進展はないかなぁ……」


 浦崎刑事は何も教えてくれなかった。意味深なことだけ言って、私のことを現場から追い出してしまった。


「二度目の予言殺人。しかもまた一見他殺とは思えない状態で的中させたわけか」

「うん。少なくとも誰かが被害者に毒を盛ったりするのは無理…だと思う」


 二人で手を繋ぎ、歩道を歩きながら事件について話す。

 傍から見たら異常だが、これが私たちの日常だ。そんなことを考えていると、先程浦崎に言われたことを思い出してしまう。


 ……もう、私たちは人間ではないのかもしれない。


「どうかしたのか?」

「……なんでもない」


 樹里の過去。それが気にならないと言えば嘘になってしまう。

 だが、今は事件に集中するべきだ。自身にそう言い聞かせた。


「それが事実だとすれば、犯人は会場で毒を盛ったことになるな」

「でも、そんなことしたらすぐにバレるんじゃ……」


 樹里が頷く。

 確かにそれなら犯行が可能だが、吾妻(あずま)自らインチキを認めているようなものだ。恐らく彼は自分の力が本物であると主張するために、リスクはできる限り排除しているだろう。


「そもそも、被害者を死に追いやった毒がなんなのか、浦崎に聞かないといけないな」

「……素直に教えてくれるかなぁ」


 浦崎は私たちに情報提供してくれるのだが、だからといってなんでも教えてくれるわけではない。自分たちだけで解決できると判断すれば、私たちはただの部外者と同じだ。勿論、私たちが十分特別な存在であることは理解しているのだが。

 先日のアリバイ崩しの件が特殊だったのだ。


「まあ、十中八九事件性はないとして処理するだろうな」

「ど、どうして⁉」


 毒の出所がわからなくても、毒死した時点で他殺の可能性の方が高いはずだ。それに予言の件もある。事件性がないと判断するとは思えない。


「もし、毒が出なかったとしたら?」

「……え?」

「死因が毒物ではなく、例えば心臓麻痺だとしたら、よほどの証拠が出ない限り他殺を証明するのは不可能だな」

「……でも、そんなこと可能なの?」

「不可能ではないな」


 人為的に心臓麻痺を起こす方法、しかも証拠を出さないで……。そんなこと、本当に可能なのだろうか。


「それよりもだ。まずは吾妻について調べるぞ」


 私たちが向かっているのは我が家ではない。どこにでもあるレンタルビデオ店だ。

 バスに乗っている間、スマートフォンでこの店舗にそのDVDが借りられずにひっそりと棚に眠っていることは確認してある。だが、私はあれを借りる羞恥心に勝てるだろうか。

 樹里の顔をチラリと見る。いつも通りの表情、きっと彼女は余計なことは何も考えずに借りるだろう。……少しだけ羨ましい。



 無事目的のものを入手し、帰宅した私たちはさっそく借りてきたDVDをプレイヤーの中に入れた。

 広告を飛ばし、本編を再生する。


「本当に見るの……?」

「別に二人で見るんだから何も問題はないだろ」


 使用人である(あかね)も今日は休みだ。だから部屋には私と樹里の二人きりなのだが、やはり今からこれを見ると思うと恥ずかしくなってくる。


 私たちがレンタルビデオ店で借りたのは、半年ほど前に発売された吾妻の活動を記録した映像だ。ジャンルとしてはドキュメンタリー……なのだが、かなり胡散臭い内容だ。


 淡々と映像を眺める。

 だが、吾妻の下で働く人間たちが映ったシーンで、突然樹里が一時停止のボタンを押した。


「どうかしたの?」

「なんでこいつがここに……」


 樹里が画面を指差す。

 画面には何人もの人間が映っている。一人ずつ顔をよく見ると……、そこで思わず呼吸を忘れてしまうような衝撃が私を襲った。


 映っていたのは、今日亡くなったあの老人だった。彼は吾妻の関係者だったのだ。


「あれ、でもなんで樹里ちゃんが……?」


 樹里は老人の顔を一度も見ていない。つまり彼女が反応したのは別の人間だ。

 そして、彼女はテレビの画面を指で触った。


「そうか、そういうことか……」


 触れた位置には、女性が立っていた。私はその顔を一度も見たことがないが、樹里が知っているということは……。


北条(ほうじょう)愛恵(まなえ)……、あいつは吾妻(つばさ)と繋がっていたんだ」

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