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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
3章 吸血鬼たちの暇潰し
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2話 未来視②

 都内某所にある雑居ビル内。そこで吾妻(あずま)(つばさ)主催のセミナーが開かれていた。

 私が来た時には席は全て埋まっていて、壁際で立ちながら参加することになってしまった。


 今日は私一人、樹里(じゅり)はいない。


『私は関係者を調べてくる』


 そう言って朝早くに出かけてしまった。

 普段は引きこもりの彼女だが、こういう時だけ率先して外出する。正直、複雑な気分だ。


「色んな人が来てるなぁ……」


 孤独感を誤魔化すために、わざとらしく独り言を呟く。……なんだか更に虚しくなってきた。

 セミナーの参加者は老若男女様々だ。明らかに高級そうな服装をした妙齢の女性もいれば、ヨレヨレになったシャツを着た若い男性もいる。


 主催者側からしたら貧富の差なんて関係なく、ここにいる全員がカモに見えているのだろうか。


 セミナーに参加するにあたって、吾妻のことを軽く調べた。

 結論を先に言うと、ネットで飛び交っている彼への数々の憶測はほとんどデマだが、いくつか真実があった。

 その中でも一番特大のネタがこのセミナーだ。

 吾妻は月に一度、大勢の客を集めてセミナーを開く。内容は自身がどうやって未来を見る力を手に入れ、今に至ったかについてだ。

 その中で、彼はこれで力を育てたと言って不気味な置物を参加者に見せるらしい。そして置物の力を分け与えたレプリカを参加者に売るそうだ。……数百万円という莫大な金額で。


 ネットでその被害にあった人間が何人も見つかった。


 私は何故そんなあからさまに胡散臭い詐欺に引っかかるのか理解できなかったが、今やっとわかった。

 この会場に漂う異様な雰囲気、それが参加者の判断を鈍らせているのだ。

 詐欺でよくある手口だ。巧みな話術やサクラを使って会場を盛り上げ正常な判断力を奪い、法外な金額の品を買わせる。


 だが肝心の吾妻が登場する前からこの会場の様子は流石有名人といったところだろうか。

 勿論その裏側ではサクラが暗躍している可能性が高いのだが。


「皆様、大変長らくお待たせいたしました」


 腕時計をチラリと見た進行役と思われる男が全員に聞こえるように大声で言った。

 ついに吾妻が現れる。そのことに会場の熱気は更に盛り上がる。


 そして扉が開き、一人の男が歩いてきた。スーツを身に纏ったどこにでもいそうな男性だが、彼の発するオーラが普通とは違うことだけは私にもわかった。


「皆様、こんにちは」


 吾妻が参加者たちを見渡しながら挨拶をする。こうしてセミナーが始まった。


 内容は正直言って眠くなるようなものだった。確かに吾妻の話し方は上手いのだが、肝心の内容がお粗末というかありきたりというか。欠伸(あくび)を堪えながら参加者たちの様子を眺める。

 全員真剣に吾妻の話を聞いている。……一人を除いて。


 老年の男性が身体を震わせている。そしてついに我慢の限界を迎えたのか、男が立ち上がり叫んだ。


「みんな騙されるなっ! こいつはインチキだ!」


 顔を真っ赤にして老人は持っていた杖を振り回す。

 それを見ていた進行役は顔を引きつらせているが、吾妻は笑みを崩さずに男に一歩ずつ近づいていった。


「なるほど、では少し早いですが貴方のことを占ってみましょう」


 参加者たちのどよめきが会場に響く。

 彼らの目的は吾妻に占ってもらうことだ。だがそんな貴重な体験、それを吾妻をインチキ呼ばわりする老人に奪われるなんてたまったものではないだろう。

 進行役もイレギュラーな事態に戸惑っているようだ。


「……また俺のことを騙そうってことか?」

「フフッ、人聞きの悪い。私の力は決してインチキなんかではありませんよ」


 笑いながら自身の力を本物だと主張する。


「……どうぞ」


 老人の隣の席に座っていた女性が吾妻に席を譲る。吾妻は「どうも」と呟きその席に座った。そして目を閉じ、ブツブツと何かを呟き始めた。


「……見えました」


 一分ほど経ち、吾妻が目を開けた。


「そこは…電車です。そこで貴方は……、苦しみ…そして死にます」

「へぇ……、なら気をつけないとなぁ。あんたの信者に殺されないように」


 老人は明らかに吾妻の予言を信じていない様子だ。

 私だって勿論信じていない。だが、一つ気がかりなことがある。依頼者の北条(ほうじょう)祐介(ゆうすけ)、彼の兄のことだ。

 北条曰く、彼の兄は吾妻に殺されたらしい。その証拠が、吾妻のした予言だ。


 北条の兄は吾妻の予言通りの死を遂げた。もしこれが事故死でないとすれば、確かに犯人は吾妻、もしくは彼の信仰者ということになる。後者だとすればもはや質の悪い宗教団体だ。

 そして老人にした予言、これは犯行予告と取ることもできる。


 結局、セミナーは半ば中止という形で終了してしまった。参加者は皆不服そうな顔で会場を後にする。

 私はこっそりと老人を尾行することにした。犯行を阻止するためというのもあるが、うまくいけば北条兄殺しも立証することができるかもしれない。


 老人は迷うことなく駅へ向かった。やはり予言は信じていないようだ。

 改札口を通り、普段は乗ることない電車に入る。

 乗客は(まば)ら、尾行がバレないか少しだけ不安になってしまう。


 ……大丈夫、会場で私の顔は見られていないはずだ。そう自分に言い聞かせる。

 そして電車が動き始めた。


 何事もなく、数駅ほど通過した。


 このまま何も起きずに老人が電車から降りるのではないか。そう考えたところで、異変が起きた。


「ぐっ…、あ…がぁ……」


 老人の周りに人はいない。それどころか電車が動き始めてから老人に近づいた人間もいない。

 それなのに、突然老人が胸を押さえて苦しみだした。そして倒れた。


「だ、大丈夫ですか⁉」


 異常事態に乗客たちが老人に近づく。

 真っ先に近づいた女性が老人の身体を揺さぶった。


「ま…さか……、ほん…も……」


 一度ビクンと身体が動いた後、老人は二度と動かなくなった。


 吾妻の予言通りに、電車の中で苦しんで死んだ。

 これには何かトリックがある。そう考えるが、怪しい場面がなかったのは私がこの目で見ている。

 会場を出てから、特に誰かが老人に接触するようなことはなかった。


 ……なら、会場で何か毒を盛られた?

 しかし、そんなことをしたら吾妻たちの犯行であることがすぐにバレてしまうだろう。そんなリスクの高い手段を取るとは思えない。


 あの時、吾妻の目には何が見えていたのだろうか。

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