表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
2章 不平等な螺旋
46/210

7話 ツガイ②

「なるほどな……」

『それで一旦現場を離れたんだけど、そしたらエレベーターがまた動かなくなっちゃって』


 まさか、鳩飼(はとかい)蓮華(れんげ)が死ぬとは……。完全に予想外だった。

 顔を潰された死体。消えたカードキー。気になることはいくつかあったが、私には現場を調べることはできない。なら一二三(ひふみ)に調べさせればと考えたが、それも無理となると完全にお手上げだ。


 電話を切り、ため息をつく。

 ……せめて現場の状況を見ることができれば。


「しかし、あのエレベーター……」


 動作している状態と止まっている状態を繰り返しているエレベーター、それは一二三の方でも同じようだ。だがその原因がわからない。そしてそれを聞こうにも桔梗(ききょう)は一向に現れる様子がない。


 桔梗を探すために、廊下へ出る。


「……樹里(じゅり)さん」


 丁度同じタイミングで部屋から出てきた来ヶ谷(くるがや)が不安そうに私のことを見る。


「お前も同僚から聞いたんだな」


 無言で頷く。


「桔梗に伝えないとな」

「……そうね」


 ただどこにいるのか、それがわからない。

 四階を探せばいるだろうか。そう考え、私はエレベーターに乗ろうとした。

 カードをかざすと、先程まで動かなかったエレベーターの扉が開いた。


「……は?」


 確かに私は願った。鳩飼蓮華が死んだ場所を調べることができれば……と。だが何故ここに彼女が……。そう考えた直後に気づいた。これは蓮華ではないと。


「嫌…、なんで……」

「犯人は両方の塔を行き来する方法を持っているのか……?」


 エレベーターの狭い部屋に飛び散っている赤い液体。そして床に倒れている肉塊。


 ……鳩飼桔梗。彼女がエレベーター内で死んでいた。



 桔梗の遺体を調べる。

 一二三の報告と同じ死体の状態。死因は後頭部の殴打。壁に血が激しく飛び散っているが、抵抗した様子はない。

 遺体の硬直具合を見る。どうやら死んでからそれほど時間が経っていないようだ。

 そして蓮華同様、桔梗の遺体からもカードキーが持ち去られている。


「へ、平気なの……?」

「……お前は見ない方がいい」


 エレベーターに入ろうとする来ヶ谷を制止する。

 潰れた顔面。惨状を目の当たりにして流石に私も顔をしかめてしまう。これを一二三も見たのだろうか。


「やはり、同じだ」

「同じって、もしかして……」

「あぁ、鳩飼蓮華が死んでいた現場と同じ状況だ」

「ってことは……」

「二人を殺したのは同一人物だろうな」


 だがどうやって……。

 現在私たちは閉じ込められていて、二つの塔を行き来することはできない。つまり、犯人は私達を閉じ込めた人間と同一人物の可能性が高いということになる。

 仮にそうだとしても、閉じ込めた理由も方法もわからない。両方死んでしまったのだから、犯人は双子ではない。わかっているのはそれだけだ。


「ん、この傷……」


 桔梗の手首を見ると、リストカットの傷痕があった。そういえば、一二三がリストカット痕を見て遺体が蓮華だと判断したと言っていたことを思い出す。

 だが実際には桔梗にも傷痕はあった。……だからどうしたという話でもないが。


「うわああああああああああぁぁぁ‼‼」


 突然鶴居(つるい)の叫び声が響く。


「やっと来たか……」


 ぼやきながら振り返るが、そこには青ざめている来ヶ谷しかいない。


「今度は何が……?」


 震える来ヶ谷を連れて廊下を歩く。すると、鶴居が百瀬(ももせ)の部屋の前で尻餅をついていた。


「どうかしたのか?」

「あ、あれ……」


 部屋の中を指差す。私は視線をそちらへ向けると、衝撃的な光景が広がっていた。


 百瀬が椅子に座っている。ただそれだけならなんてことのない光景なのだが、あきらかに異常なのがわかる。


「もう、いや……」


 カーペットの上に無造作に散らかっている赤い塊。それがなんなのか、理解するのに時間はそれほどかからなかった。

 百瀬の腹にポッカリと空いた穴、刃物で切り裂かれたのだろう。そこから臓物がこぼれ落ちていた。


「これで三人目か……」

「三人……?」

「あぁ、双子も何者かに殺されていた」


 百瀬宗太(そうた)。彼も双子同様、残酷な方法で殺されてしまった。まさか犯人は自分一人になるまで殺人を続ける気なのだろうか……。



 一旦情報を整理するために、私たちはラウンジに集まった。厨房から勝手にインスタントコーヒーを拝借し、それをコップに注いで鶴居と来ヶ谷の前に置く。自分の分を注いで席に座ったが、二人は固まったように動かない。


「鶴居、あの時部屋の扉は開いていたのか?」

「え…、は、はい……」


 コーヒーを口にしながらあの部屋の状況を思い出す。まだ詳しく調べたわけではないが、あんなことをしたら返り血は凄まじいことになっているはずだ。だが、二人の服装は変わっていない。勿論犯行の間は別の服を着ていた可能性も否定できないが……。


「部屋で横になっていたら、突然どこかから叫び声が聞こえたんです」

「叫び声……?」

「はい。多分、下の階…このラウンジから……」


 叫び声なんて私は聞いていない。来ヶ谷の方を見ると、彼女は首を横に振った。ということは、その声は鶴居しか聞いていないということになる。

 だが彼が嘘をついているとは思えない。もしこれが本当だとしたら、その時に桔梗か百瀬が殺されたのだろうか。

 だがラウンジに争ったような形跡はない。二人が殺された現場はここではなく、それぞれの遺体を発見した場所と同じはずだ。


「何があったか気になったけど足が動かなくて、それからしばらくしたら今度は廊下が騒がしくなって」

「私たちが鳩飼桔梗の死体を見つけた時だな」

「それで今度こそ確認しに行こうとしたら、百瀬さんの部屋の扉が開いていて……」

「百瀬の死体を見つけたんだな」

「はい……」


 簡単に考えれば、犯人は来ヶ谷と鶴居、二人のどちらかになる。だが、鳩飼桔梗と蓮華の殺害は二人にできたのだろうか。

 あきらかにあれは同一人物による犯行だ。つまり閉ざされた二本の塔を行き来する術を犯人は持っているということになる。


 ……鶴居が聞いた叫び声。

 そこに何か大きなヒントがある気がした。


「今日はもう寝ましょう……」

「そ、そうですね……。これからどうするかは明日にでも……」

「……そうだな」


 本当は二人からもっと話を聞きたかったが、あえて止めなかった。

 ……早く現場を調べたい。そんな欲求が胸の中で暴れていた。


 ……最低だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ