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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
2章 不平等な螺旋
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6話 螺旋に眠る秘宝②

 ラウンジに全員が集まる。

 テーブルの上には既に朝食が置かれていた。パンとサラダとスープ、他の従業員が見えない以上、これは桔梗(ききょう)蓮華(れんげ)が作ったのだろうか。


「そういえば、まだお互いのこと知らないですし、自己紹介でもしませんか?」


 女の一人の言葉に私たちは頷いた。そして女は「まずは私から」と呟き、一度息を吸った。きっと緊張しているのだろう。


「私は来ヶ谷(くるがや)友加里(ゆかり)。雑誌記者をしています」


 来ヶ谷が私たちに名刺を配る。名前の隣に有名なゴシップ誌と、それを発行している会社名が書かれている。


「あまり評判の良くない雑誌の人間ですが、宿泊中はよろしくお願いします」


 恥ずかしそうに短い黒髪の頭を掻いた。

 彼女が務めているのは、オカルトや芸能人について、あることないことを節操なく書いている雑誌だ。ハッキリ言ってかなり印象は悪い。

 きっとここには例の噂を調査しに来たのだろう。


「じゃあ次は僕で。鶴居(つるい)伸二(しんじ)、ここには妻と来たのですが……」

「別の塔に行ったわけか」

「多分、そうだと思います……」


 気弱そうな中年の男、鶴居が自己紹介を終えパンを(かじ)る。

 表情は青ざめていて、何かに恐怖している様子だ。……無理もない。いわくつきの土地で妻と離れ離れになったのだから。


「何故奥様とわざわざここへ?」

「僕はあまり乗り気ではなかったんですけど、妻がどうしてもと」


 来ヶ谷の問いに鶴居が答えた。普段から振り回されているのか、彼の話し方はかなり言い慣れているように感じた。


「……百瀬(ももせ)宗太(そうた)。友達と来ました」


 片目が長い前髪で隠れている少年がぼそぼそと言った。そしてそれ以上は何も言おうとしない。


「最後は私か。赤崎(あかさき)樹里(じゅり)、探偵だ」


 探偵という単語に宿泊者全員が驚愕の眼差しをこちらに向けた。仕方のないことだ。私は彼らにとって不吉な存在で間違いない。


「では、自己紹介も済んだところですし、私達から当ホテルの説明をさせていただきます」


 タイミングよく表れた桔梗がニッコリと笑う。それがあの『魔女』に似ていて、虫唾が走る。

 ……きっとただの偶然だ。そう言い聞かせる。


「皆様ご存知の通り、この土地には良くない噂があります。数百年前、この土地に山賊が秘宝を隠しました。しかし、その秘宝には悪霊が憑いていたのです。それから、ここは秘宝に近づくものを襲う、呪われた土地になってしまいました」


 ……呪われた土地。その言葉に全員が息を呑む。


「前のホテルのオーナーもそうでした。彼は秘宝を見つけ、このホテルのどこかに隠し、そして悪霊に殺されたのです」

「このホテルに秘宝が……?」

「えぇ、改修の際にも探したのですが、結局見つかりませんでした」

「なら、そんなもの本当は存在しないんじゃないか?」


 もし存在したのなら、改修時に見つけているはずだ。それで見つからなかったということは、秘宝なんて存在しないということだ。


「いえ、秘宝は存在します」


 桔梗は言い切った。まるでそれを見たかのように。


「そこで、私達から皆様にお願いがあります。呪われた秘宝を皆様に見つけてほしいのです」

「呪いを誰かに押し付けたいというわけか?」

「フフッ、そう捉えてもらって結構です。見つけた秘宝は差し上げます、私達には不要なものですので」

「でも呪いが……」

「勿論、無理にとは言いません。呪いを迷信だと思える方のみで大丈夫ですので」


 呪いなんて存在しない。きっと前のオーナーが死んだのも誰かの悪意があった、もしくは本人に不幸な事故が起きただけだ。

 秘宝にも興味はない。私は欠伸(あくび)をした。……退屈だ。


「こ、こんなことしてる場合じゃない……!」


 百瀬が立ち上がると、階段へ走った。


「私も、秘宝には興味ないけど悪霊はおもしろそうですね」


 来ヶ谷も彼に続いて去ってしまった。

 鶴居は気まずそうにスープを飲んだ。私もパンを齧る。


「お二人はどうなさいますか?」

「ぼ、僕は呪われたくありません……」

「私は秘宝になんて興味ないしな」

「そうですか。……では、ごゆっくり」


 桔梗がニヤリと笑った。……やはり、気味の悪い女だ。



『もしもし、樹里ちゃん?』


 部屋に戻ると、内線電話が鳴った。それに出ると、電話の向こうから一二三(ひふみ)の声がした。


「よく、ここの部屋がわかったな」

『うん。蓮華さんに教えてもらったんだ』

「そうか……」


 当たり前なのだが、あの双子には互いに連絡する手段があるということだ。


『でも、どうして私たちを二つの塔に分けたんだろうね』

「秘宝を効率的に探させるため……、だとしてもやはりここは何かがおかしい」

『それになんでわざわざ私たちを一緒に連れていかないで、時間を遅らせて……』


 確かに。私たちが塔へたどり着いた時点では、一二三たちはまだ来ていなかった。何故そんなことを……。


「考えても埒が明かない。一度合流するぞ」

『そうだね』


 そして電話を切る。

 そう、離れ離れになったとしても、外へ出て隣の塔へ行けばいいのだ。それで問題は何もないはず。

 私は部屋から出て、エレベーターにカードをかざす。しかし、いくら待ってもエレベーターはやって来ない。


「遅いな……」


 痺れを切らした私は階段を使うことにした。


 やけに長い階段を下りて一階にたどり着く。一階のエントランスには来ヶ谷もいた。彼女は信じられないといった表情で入り口の扉を見つめている。


「どうかしたのか?」


 私が訊ねると、来ヶ谷が青ざめた表情でこちらを見た。そして腕を震わせながら扉を指差した。


「扉が開かないんです……」

「は……?」


 そんな馬鹿な。

 私は来ヶ谷の言葉を嘘だと切り捨て、扉を開いて外へ出ようとした。だが、扉は開かない。


「そんな……」


 いくら力を込めて押しても、逆に引っ張っても、扉は重く閉ざされたままだ。

 どうして、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。


 これじゃ誰も逃げられない。

 ……そうか、それがあの双子の目的か。


「私たち、閉じ込められたんです!」

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