24話 ネクストプロローグ: 非 日常
悪意を抑止していた存在は消え去った。赤崎サチヱ、あの老婆は死ぬまで僕たちを牽制していた。これはチャンスだ。……だが、イレギュラーが発生した。
彼女の死の直後に起きた連続殺人事件。それを解決した少女二人の名はすぐに私たちの耳にも入った。
赤崎樹里と四条一二三……。サチヱの孫娘たちだ。
特に前者、……赤崎樹里は狂っている。
きっと彼女が、新たな抑止力となるのだろう。
……だが、それは何年も後の話だ。
彼女の頭の中に湧く知恵の泉はまだまだ成長するだろう。
赤崎樹里という人間が善の存在であればこちらから接触する必要もなかった。だが、彼女は正義感ではなく、好奇心で動く。それは善でも悪でもない、混沌としか呼ぶこのができない存在だ。
……だからこそ、成長途中の今排除しなくてはならない。
まずは小手調べ。ここで敗退するのなら期待外れだったというだけだ。
僕はあの二人に電話をかけた。
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とある高級マンションの一室。
顔の良く似た姉妹が、暗い部屋の中一糸もまとわぬ姿で映画を見ていた。
見ていたと言ってもただ視界に捉えているだけ。姉は妹の身体に触れ、妹はただ快楽に身を任せている。
すると、スマートフォンが着信音を鳴らした。姉が不満げな表情でそれを手に取る。
「もしもし。……あぁ、プロデューサーでしたか。えぇ、丁度仕事を終えたところです」
姉は部屋の隅に転がる肉塊を見た。全裸の中年男性の無惨な姿。男の性器は切断され、意趣返しかのように自身の口へ詰め込まれている。これがこの姉妹の仕事の結果だ。
「なるほど、その子を殺せばいいんですかね。……え? はい、わかりました」
指示は「殺さず能力を見極めろ」、そしてそのための舞台の用意だ。
退屈な仕事と思っているが、姉妹は逆らうことができない。ただ言われたことを実行するだけだ。
「……失礼します」
通話を切る。そしてスマートフォンをベッドの上に放り投げた。
「また…しごと……?」
「うん、だけど大丈夫。今回の仕事は監視するだけだから」
妹がとろりとした目で姉を見つめる。
その監視するための状況を作りだすのが一番難しいのだが。それは敢えて伝えなかった。
だが、当てならある。
誰も寄り付かない土地、そこにひっそりと建っている二本の螺旋。
そこに彼女をおびき寄せることができれば……、その時点で私たちの勝ちだ。
これは『不平等』で残酷なゲーム。
「これが終わったら、私たちはやっと一つになれる……」
唇を重ねる。
神なんて存在しない。だからこそ、私たちが神になるのだ。
そして二度目の賽は投げられた。




