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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
1章 盤上世界の閉じた箱
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20話 遊戯世界:堕ちる愚者

「さて、少し整理するか」


 ひさしぶりの遊戯世界、廃墟と化した古城のような場所だ。だが、魔女はいない。


「……案外、寂しいものだな」


 『双貌(そうぼう)の魔女』を名乗る人物もいない。この世界に一人きり……。せめて一二三(ひふみ)が隣にいてくれれば……、そう願ってしまう自分がいた。


平塚(ひらつか)(あかね)の言葉を信じるなら……、被害者の金井(かない)智昭(ともあき)は彼女に夜勤と偽って外へ出た。そして彼は駐車場で転落死した」


 あのマンションに屋上はない。

 ということは、駐車場で転落死するにはベランダから落ちないといけないはずだ。つまり被害者は自室から出た後、別の部屋に入ったことになる。


「何故だ……?」


 そもそも自殺するだけなら自室で可能だった。茜を泊めたのもリスクでしかない。

 だがこれは他殺だ。何故自室を出たはずの金井がベランダから駐車場へ落ちたのか。それを解き明かす鍵は茜の見つけた、壁の穴だ。


「そしてロープ……。恐らくあの穴はあれに使ったはずだ……」


 手首を縛った跡、壁の穴、消えたリュック……。あれが見つかれば私の推理が正しいということになる。だが、そうだとしても疑問が残る。


「何故被害者はあのタイミングで……?」


 推理が合っていたとしても、茜の存在がリスクであることは変わらない。だがそのタイミングでそれをしようとしたなら……。


「今日しかタイミングがなかったということか……?」


 そう考えれば辻褄が合う。そしてもう一つの可能性が考えられる。


「もしくは茜に疑いを向けるためにわざと、という思惑もあるかもしれないな」


 どちらにせよ、死者はもう何も語ることはしない。被害者の行動の理由なんて、想像することしかできないのだ。


 ……残る問題は犯人だ。私が遊戯世界に来る前に言った通り、まだ私たちは犯人に会っていない。


「整理はできた。後はあれが見つかるのを待つだけだな」


 そして私は棺桶に入り、目を閉じた……。自分の意志でこの世界に来たおかげか、私の意識はすぐに現実世界へと浮上した。



「見つかったか?」


 身を起こし、私のことを心配そうに見ていた茜に聞く。


「う、うん……。でもこれって……?」


 彼女は頷きながら見つけたものを渡してきた。

 ……頑丈そうなフック。壁にネジを複数刺して取り付けるタイプのものだ。


「もしかしてこれで……」


 茜も真実に気づいたようだ。

 恐ろしく危険な方法、本来なら金井はこれをここから下に降りるために使ったのだろう。……それでも危険なことに変わりはないのだが。

 しかし、今晩は茜がいた。だから彼は別の方法をとらざるを得なかった。そしてトラブルが起きた。


「あぁ、後は証拠を処分される前に犯人を追い詰めるだけだ」


 タイムリミットは朝。それまでに犯人を見つけなければいけない。

 時刻は午前四時、十分に時間はある。


「でも一つ一つ見て回るの?」

「そうなるな……」


 だが人手は私たちだけじゃない。彼らに協力してもらえば……。


「本当にあんな方法で……?」


 私たちの会話を聞いていた警察官が半信半疑の様子で言う。

 確かに、かなりくだらない方法だ。しかしそれが真実なのだ。


 どんなに奇怪な事件も、蓋を開けてみればただ些細なこと、それを私はあの島で経験している。


「そうだ。犯人はきっと……、本当なら今日ここにはいなかったやつだ」


 そう言って私は部屋から出る。

 ……長い夜が間もなく明ける。私には祖母のような予知能力はないが、それだけは分かった。

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