15話 ???:魔女と吸血鬼のティータイム
「フフッ、これでおしまい? 二人は仲良く暮らし続けました。めでたしめでたしってやつ?」
廃墟と化した遊戯世界に、笑い声が響く。それは幼い子供のようにも聞こえ、それと同時にこちらを誘惑するかのような女の声にも聞こえる。
「そんなの、とってもとぉってもくだらないわ! ねぇ、貴女も本当はそうなんでしょう⁉」
まるで二人が同時に喋っているかのような声。それに返事をする相手はいない。
「あら、まだ寝たふりをし続けるの?」
ゆっくりと棺桶が開く。
「起きなさい。『真実の吸血鬼』」
「……誰だ、お前」
吸血鬼が棺桶を開けた人物を睨む。
「私は『幸運の魔女』の代わりに貴女へ謎を届けに来た新しい魔女。……そうね、『双貌の魔女』とでも名乗っておこうかしら」
魔女はクスクスと笑いながら、吸血鬼の白い髪を撫でた。
「私を退屈から救ってくれるのか?」
「あら、気が早いのね。でもまだその時じゃないの」
二人の声が混ざったような笑いに、吸血鬼は顔を歪ませる。
「くだらない、だったら帰ってくれ。私はもう謎なんて……」
「嘘ね。……貴女は謎でしか退屈を紛らわせることのできない体質。そういう異常者なのよ」
……異常者。
その言葉を聞いた瞬間、吸血鬼は悲しい笑みを浮かべた。
「そうだ、私は異常者だ。だからこそ、もうあいつを巻き込みたくはないんだ」
一二三の存在は、樹里の中で自身の退屈を満たすことよりも大切なものになっていた。例え身が腐ることになっても、彼女を危険な目にあわせたくない。それが赤崎樹里の本心だ。
「あら、あらあら。貴女はまだ四条一二三が普通の人間だと思っているの?」
「……どういうことだ」
「だって、彼女も立派な異常者じゃない。あんな事件の後で、平気な顔をして貴女と暮らしているんだから」
「お前っ!」
吸血鬼が激高し、魔女に掴みかかる。それでも魔女は嘲笑するかのような表情を崩さない。
「怖い怖い。真実を追い求めるためなら手段を選ばない孤高の存在だと思って、今日はお茶会のつもりで来たというのに、とんだ駄犬になっていたようね」
「……言いたいことがあるならはっきり言え」
「フフフ、赤崎樹里は四条一二三という名の鎖に繋がれてしまった。だからもう貴女に以前のような価値なんてないの」
すると魔女の身体が徐々に透明になっていく。そして最後には霧のように消えてしまった。
「また会いましょう。とっておきの不平等な螺旋の渦を用意して、私は貴女たちを待っているわ」
その言葉だけを残して。
「くそっ……」
これはただの赤崎樹里が見ている夢。そう言い切ることもできた。だが、どうしても心の中でしこりとして、魔女の言葉が残り続けた。
一二三だけは巻き込みたくない。この願いは誰にも届かず、残酷な神は二度目のダイスを振ることになる。