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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
終章 盤上世界の少女は謎を求めた。
203/210

9話 Unknown③

 ため息を吐きながらポスターをもう一度見る。


「アルファベット……」


 そして私はあることに気づいた。


「そうか、そういうことか!」


 ノートとボールペンを取り出し、頭の中に浮かんだものを文字に変換する。

 まずは十年前に起きた最初の事件。神楽坂(かぐらざか)門司(もんじ)を殺すのに使われたのは斧だ。そして次の凶器は爆弾、その次はカッター……。


「Axe、 Bomb、 Cutter……。その次はDustか? 急行列車は少し意味が違うがExpress、火事はFireだ。そして次はGlass」


 スラスラと書いていくが途中でボールペンの動きが止まる。


「Drag……。ダメだ、これじゃ法則に当てはまらない」


 二野瀬加子(にのせかこ)の死因は薬物による中毒症状、だが薬をそのまま表すと犯人が使った凶器の法則に当てはまらなくなる。

 恐らく、別の言葉に言い換えるべきだ。


「Herb……か? 少し無理矢理だがこれなら当てはまる。その次はIce、そして十年前の最後の事件は……」


 Knife……。そう書いたところでまた動きが止まる。

 またしてもそのままでは法則に当てはまらない言葉が出てきてしまった。だが当てはまる言葉が思い浮かばない。


『凶器は小型の折り畳みナイフ、所謂──』


「──Jackknife」


 その単語を書いて私は違和感を覚えた。

 今までは簡潔な単語が使われていたが、岸部行村(きしべゆきむら)の殺害では凶器の細かい名称が使われている。

 十年前と今回の事件の犯人は別、そう考えれば凶器や法則の当てはめ方に差異が出るのは仕方がないのかもしれない。しかし行村が殺されたのは十年前、まだ犯人は変わっていない。そう考えていたのだが……。


「まさか、そういうことなのか?」


 ここで浦崎の遺したあのメッセージが脳内に浮かんだ。


『AZJ』


 最後に付け加えられていた文字の意味が私の想像通りなら、十年前の犯人は彼ということになる。そして十年前の事件の途中で犯人は二代目に引き継がれた。


「だが、そうだとしたら今回の犯人は……」


 一番肝心なことがまだわかっていない。

 真っ先に考えたのは、彼と近しい間柄だった刑事たちのことだ。


「あいつらはなんのため…に……」


 仇を見つけるために必死に捜査をしていた彼らのことを思い浮かべる。

 ……そして私は真実にたどり着いてしまった。


「なんであいつはあの時あんなことを言ったんだ?」


 偽麗奈(れいな)の遺体を見つけた時、彼は明らかにおかしいことを言っていた。

 一二三(ひふみ)に見つかる前に行動をしなければ。私はスマートフォンと拳銃を手に取って椅子から立ち上がった。

 そして電話をかける


近衛(このえ)、私だ! あいつは今どこにいる⁉ あぁ、犯人が解ったかもしれない。私の想像が正しければ、犯人は──」



「なんですか、こんな朝早くに」


 扉を開けた那由多(なゆた)が怪訝そうな顔で私のことを見る。


「少し話したいことがあってな。(あかね)はいるか?」

「……ちょっと待っててください」


 那由多が茜を呼んでくる。

 そして茜が眠そうな顔で玄関に現れた。


「どうかしたんですか……?」

「二人に頼みがある」

「頼み?」


 私は一度深く息を吸った。本当ならこんなこと言いたくはない。しかし、最悪の結末だけは覚悟しておかなくてはならない。


「一二三のことは任せたぞ。……言いたかったのはそれだけだ」


 当然二人は突然のことに目を丸くしている。

 意味なんてわからなくていい。私の想像がただの杞憂であればそれに越したことはない。


「えっと、いきなりなんで……」

「……わかりました」


 茜が呟いた。


「でも、私待ってますから。だから事件を解決したら、ちゃんと帰ってきてくださいね」

「……なるほど、相変わらず見栄っ張りですね」


 二人が笑う。私がこれから何をするつもりなのか、予想することができたのだろう。

 私だってできることなら茜の言う通りにしたい。しかしそれができる保証はどこにもない。だからこそ、二人に()()()()()をしにきたのだ。


「もし帰ってこなかったら、私が一二三さんのこともらっちゃいますからね」

「あっ、ズルいです! 私だって!」


 二人の言い争いを見て、私は思わず噴き出してしまった。


「……ふふっ、それは無理だ。前に一二三は私のことをずっと待つと言ってくれたからな」



「はぁ? いきなり来てどういうこと?」


 美鈴(みれい)が不機嫌そうな顔で煙を吐く。予想通りの反応だ。

 彼女に別れの挨拶しないのも不公平かと考えて行動をしたのを後悔してしまう。


「そのままの意味だ。一二三はこれからも無茶をするだろうから、お前が支えてやってくれ」

「そんなの、あんたがやればいいじゃん」

「……それができないかもしれないから言ってるんだ」


 美鈴は那由多と茜と比べて察しが悪い。

 だからこそ私は彼女にはっきりと伝えることにした。


「恐らく犯人は今も私の命を狙っている。そして私はこれからそいつと決着をつけに行く。……だからこうして慣れないことをしてるんだ」

「……殺されるかもしれないってこと?」

「あぁ、そうだ」

「け、警察に伝えれば……あんたがそんなことする必要なんてないじゃん!」


 美鈴の言葉は正論だ。たしかに警察に犯人を教えれば私が危険な目に遭うことはない。

 しかし、できることなら彼らにこの真実を伝えたくない。それともう一つ私には目的がある。

 私はパーカーのポケットに手を入れて、中にしまっていた拳銃を握った。


「これは私が片付けなければならない事件だからな」


 ……これから、私は本当に人殺しになる。その覚悟はとっくにできていた。

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